第四話 「シルテ様伝説」

 夜。
 満天の星が、僕の上で輝いている。
 そう、まるで僕に何かを語りかけているように・・・。

 でも、目の前は深い深い闇。
 少しでも意識を反らすと、そのまま飲み込まれてしまいそうで、恐い。
 だが、かすかな声が僕の頭の中に、響く。

(あなたの大切な人を、守りなさい)
 だ・・・れ・・・?
(私は、そう。シルテ。あなたの力になる者・・・)
 シルテ・・・?開祖シルテ様!?
(あなたの大切な人を、危機から救いなさい・・・)
 シルテ様!!大切な人とは・・・危機とは何ですか!?
 僕に、教えてください・・・。

「シアル!?どうしたの?ねぇ、シアルーーー!!」
「え?」
 リイナの声で、僕はやっと意識が戻った。
 何だったんだ、今のは。
「よかった・・・。お祈りの途中、ずーーっと魂が抜けたみたいな感じだったから、心配してたのよ」
「そう、か」
 まだ完全に意識が戻った訳ではないみたいで、ややボーッとしている。
「シアルー、どうしたんだい?それに、何で君はお祈りなんかしているのかい?」
 バカ王子も、心配してくれている。普段、他人事には無関心なこいつでさえ気にかける程ひどかったのか、僕は。
「ああ、もう大丈夫。ミント王子・・・森の民はお祈りはしないんだね。じゃあ、シルテ様・・・開祖シルテ様はご存知?」
「うん、知ってるさ〜〜〜♪」
「私も!!」
 ミントとリイナが答える。そっか、リイナにも、シルテ様関連の話はあんま りした事なかったっけ。

「開祖シルテ様は、僕の祖国”聖クレイ王国”をお作りになった英雄であ らせられる。ちなみにその王家ークレイセントール王家は、そのシルテ 様の直系の子孫なんだ。ということで、僕達国民は、開祖シルテ様及び 王家を敬愛している」
「へぇ〜〜〜。シルテって名前は聞いた事あったけど、聖クレイ王国の開 祖だったのかぁ〜。初めて知ったよぉーー」
「私も、あんまり詳しくは知らなかったわ。ねぇ、シアル。早く続きを話してよ♪」
 二人とも、僕の話に興味津々だ。
「ああ。それでね・・・」

「シルテ様は、その功績―戦を収め、新たな国を作り、統治した―を認め られ、”神より神の称号を授かった”と伝えられている。それで、お亡 くなりになられた後は、天に神として召されたらしい。僕の国―聖クレ イでは、神は月にいらっしゃると信じられているから、それ以降、国民 や王族でさえも毎夜、月に向かってお祈りを捧げる事になったんだ」
 ちょっと難しい話になっちゃったかな。リイナはともかく、バカ王子は口を ポカーンと開けて、頭の上には「?」マークがたくさんだ。

お祈りシアル

「そうだったのね。でも、シルテ様は、”神より神の称号を授かった”の よね?それって、どういう意味なのかしら?」
 さすがリイナ!!鋭い。
「実はそれは…僕にも、というか、当の本人以外は詳しくはわからないんだ」

 そう、これは僕もずっと謎だった。
 ”神より神の称号を授かった”とは、どういう意味なのだろうか。
 昔、専属の家庭教師(一応、僕も王子だから、家庭教師をつけてもらってた んだ。過去形ではなくて、今もなんだけど、家出した王子には関係ない)にも しつこく質問したものだが、これだけはどうも分からないみたいだった。
「そうなの……」
 リイナ、残念そう。

「ねぇ、シアル〜。つまり、聖クレイの国民は全員さっきのシアルみたい にカメオを使って毎晩お祈りをするの?」
 なんだ、バカ王子もなかなかやるじゃないか。
 しかも、さっき僕がカメオを使っていたことまで見ていたなんて…なかなか 観察力があるのかもしれない。
「うん、そうだよ。このカメオは国民全員が持っている…いうならば、聖 クレイ王国国民証ってとこかな。もともとは、開祖シルテ様が彼女の母 君様から頂いた大事なものだったんだ。それを、シルテ様のご子息―シ ャルルール様が亡くなられた偉大なる女王に、そのカメオを使って祈り を捧げた。それから、国民もその形を真似て作ったカメオでお祈りをし し始めて…今に至る。ちなみに、今では身分証明としても多用されている」
 ざーーっと説明してみた。
「それにしてもぉ〜。シアルのカメオ、本当に綺麗だよねん♪ん?これっ て…もしかして、純金!?」
「そう……純金、100%だ」
 バカ王子って、やっぱり見る目あるのかな?
 僕の身分は王族だから、もちろん純金100%で出来ているのだが…貧しい 国民(貴族ではない、農民など)は、銅製や鉄製で作られているものが多い。 が、バカ王子に身分を明かす事は、避けておこう。
「本当、綺麗よね、シアルのカメオ!!私も欲しいなぁ〜。ね、ちょーーだい☆」
「…………」
 おいおいリイナ、だからこれは国民証なんだってば!!…はぁ。
 でも、僕にはもう、必要のないものなのかもな……

「じゃあ、そろそろ遅いから休みましょうか」
「ああ、そうだね」
 リイナの提案に、僕は即OKする。
 まだ眠るのには少し早い時間だが、夜更かしするよりは早起きしてさっさと 先へ進んだ方が賢明だからね。
「シアル〜。君達は、いつもどこで寝ているの〜?もしかして、地面にじ かに寝てる、とか!?」
 バカ王子…すぐ後ろにテントが張ってあるのが、見えないのか?
「そこのテントさ。だけど、二人用なんだよな…」
 念の為言っておくけれど、このテントにはちゃんと真ん中にしきりがついて いる。レディのリイナのご要望でね…。どちらにしても、こんなせまいテント に3人も寝れる筈が、ない。
「ふーーん。じゃあ、シアルは外で寝るんだね?こ〜んなに寒いのに、可哀相だね」
「な、何!?」
 バカ王子、僕を差し置いて、ぬくぬくとテントで寝るつもりか!?ぐぅぅ、 許せない…!!
「シアル。暖かくして、風邪ひかないよにね☆」
「は?」
 リ、リイナまで…そんなぁぁぁぁぁ!!!

 案の定、僕が見張りも兼ねて外で寝る事になった。やっぱり、冷えるな。
 僕は、国民証のシルテ様のカメオを見る。
 パカッ。
 実は、中には大好きな母上と、今は亡き父上と、生まれたばかりの頃の僕が 3人で写っている写真が入っている。これが、王族である血統を示すもののひ とつだ。
「母上、父上…」
 あいつが嫌になって、母上ともろくに話しもせずに聖クレイ城を飛び出して きてしまった、あの日。今思えば、僕は自分勝手だった。
 でも、もう引き返す訳にはいかない。
「待っててください、母上。僕は必ず、あなたを…。いえ、クレイを元に 戻せるような、父上の息子である名に恥じない王子になって、帰って来 ます。必ず…」

 その夜。
 祖国と家族を想う少年は、見張りの役目も忘れ、眠りについてしまった…。

夜のつもり

・第五話へ続く・

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