夜。
満天の星が、僕の上で輝いている。
そう、まるで僕に何かを語りかけているように・・・。
でも、目の前は深い深い闇。
少しでも意識を反らすと、そのまま飲み込まれてしまいそうで、恐い。
だが、かすかな声が僕の頭の中に、響く。
(あなたの大切な人を、守りなさい)
だ・・・れ・・・?
(私は、そう。シルテ。あなたの力になる者・・・)
シルテ・・・?開祖シルテ様!?
(あなたの大切な人を、危機から救いなさい・・・)
シルテ様!!大切な人とは・・・危機とは何ですか!?
僕に、教えてください・・・。
「シアル!?どうしたの?ねぇ、シアルーーー!!」
「え?」
リイナの声で、僕はやっと意識が戻った。
何だったんだ、今のは。
「よかった・・・。お祈りの途中、ずーーっと魂が抜けたみたいな感じだったから、心配してたのよ」
「そう、か」
まだ完全に意識が戻った訳ではないみたいで、ややボーッとしている。
「シアルー、どうしたんだい?それに、何で君はお祈りなんかしているのかい?」
バカ王子も、心配してくれている。普段、他人事には無関心なこいつでさえ気にかける程ひどかったのか、僕は。
「ああ、もう大丈夫。ミント王子・・・森の民はお祈りはしないんだね。じゃあ、シルテ様・・・開祖シルテ様はご存知?」
「うん、知ってるさ〜〜〜♪」
「私も!!」
ミントとリイナが答える。そっか、リイナにも、シルテ様関連の話はあんま
りした事なかったっけ。
「開祖シルテ様は、僕の祖国”聖クレイ王国”をお作りになった英雄であ
らせられる。ちなみにその王家ークレイセントール王家は、そのシルテ
様の直系の子孫なんだ。ということで、僕達国民は、開祖シルテ様及び
王家を敬愛している」
「へぇ〜〜〜。シルテって名前は聞いた事あったけど、聖クレイ王国の開
祖だったのかぁ〜。初めて知ったよぉーー」
「私も、あんまり詳しくは知らなかったわ。ねぇ、シアル。早く続きを話してよ♪」
二人とも、僕の話に興味津々だ。
「ああ。それでね・・・」
「シルテ様は、その功績―戦を収め、新たな国を作り、統治した―を認め
られ、”神より神の称号を授かった”と伝えられている。それで、お亡
くなりになられた後は、天に神として召されたらしい。僕の国―聖クレ
イでは、神は月にいらっしゃると信じられているから、それ以降、国民
や王族でさえも毎夜、月に向かってお祈りを捧げる事になったんだ」
ちょっと難しい話になっちゃったかな。リイナはともかく、バカ王子は口を
ポカーンと開けて、頭の上には「?」マークがたくさんだ。

そう、これは僕もずっと謎だった。
”神より神の称号を授かった”とは、どういう意味なのだろうか。
昔、専属の家庭教師(一応、僕も王子だから、家庭教師をつけてもらってた
んだ。過去形ではなくて、今もなんだけど、家出した王子には関係ない)にも
しつこく質問したものだが、これだけはどうも分からないみたいだった。
「そうなの……」
リイナ、残念そう。
「ねぇ、シアル〜。つまり、聖クレイの国民は全員さっきのシアルみたい
にカメオを使って毎晩お祈りをするの?」
なんだ、バカ王子もなかなかやるじゃないか。
しかも、さっき僕がカメオを使っていたことまで見ていたなんて…なかなか
観察力があるのかもしれない。
「うん、そうだよ。このカメオは国民全員が持っている…いうならば、聖
クレイ王国国民証ってとこかな。もともとは、開祖シルテ様が彼女の母
君様から頂いた大事なものだったんだ。それを、シルテ様のご子息―シ
ャルルール様が亡くなられた偉大なる女王に、そのカメオを使って祈り
を捧げた。それから、国民もその形を真似て作ったカメオでお祈りをし
し始めて…今に至る。ちなみに、今では身分証明としても多用されている」
ざーーっと説明してみた。
「それにしてもぉ〜。シアルのカメオ、本当に綺麗だよねん♪ん?これっ
て…もしかして、純金!?」
「そう……純金、100%だ」
バカ王子って、やっぱり見る目あるのかな?
僕の身分は王族だから、もちろん純金100%で出来ているのだが…貧しい
国民(貴族ではない、農民など)は、銅製や鉄製で作られているものが多い。
が、バカ王子に身分を明かす事は、避けておこう。
「本当、綺麗よね、シアルのカメオ!!私も欲しいなぁ〜。ね、ちょーーだい☆」
「…………」
おいおいリイナ、だからこれは国民証なんだってば!!…はぁ。
でも、僕にはもう、必要のないものなのかもな……
「じゃあ、そろそろ遅いから休みましょうか」
「ああ、そうだね」
リイナの提案に、僕は即OKする。
まだ眠るのには少し早い時間だが、夜更かしするよりは早起きしてさっさと
先へ進んだ方が賢明だからね。
「シアル〜。君達は、いつもどこで寝ているの〜?もしかして、地面にじ
かに寝てる、とか!?」
バカ王子…すぐ後ろにテントが張ってあるのが、見えないのか?
「そこのテントさ。だけど、二人用なんだよな…」
念の為言っておくけれど、このテントにはちゃんと真ん中にしきりがついて
いる。レディのリイナのご要望でね…。どちらにしても、こんなせまいテント
に3人も寝れる筈が、ない。
「ふーーん。じゃあ、シアルは外で寝るんだね?こ〜んなに寒いのに、可哀相だね」
「な、何!?」
バカ王子、僕を差し置いて、ぬくぬくとテントで寝るつもりか!?ぐぅぅ、
許せない…!!
「シアル。暖かくして、風邪ひかないよにね☆」
「は?」
リ、リイナまで…そんなぁぁぁぁぁ!!!
案の定、僕が見張りも兼ねて外で寝る事になった。やっぱり、冷えるな。
僕は、国民証のシルテ様のカメオを見る。
パカッ。
実は、中には大好きな母上と、今は亡き父上と、生まれたばかりの頃の僕が
3人で写っている写真が入っている。これが、王族である血統を示すもののひ
とつだ。
「母上、父上…」
あいつが嫌になって、母上ともろくに話しもせずに聖クレイ城を飛び出して
きてしまった、あの日。今思えば、僕は自分勝手だった。
でも、もう引き返す訳にはいかない。
「待っててください、母上。僕は必ず、あなたを…。いえ、クレイを元に
戻せるような、父上の息子である名に恥じない王子になって、帰って来
ます。必ず…」
その夜。
祖国と家族を想う少年は、見張りの役目も忘れ、眠りについてしまった…。
