第六話 「魔の領域へ」

「えぐっ。えぐっ」
「まあ、泣くなよミント王子」
 アロンにミントを開放してもらい、やっと一段落ついたが、彼はまだ泣きやま ない。
「リイナ、任せた」
「はいはい」  僕はこういうの
は苦手だからさっさとリイナに任せた。  リイナも仕方なしに、といった感じだったが、なんとかなだめてくれているみ たいだ。僕といえば、アロンに呼ばれて奥の広間へと向かっている。

「話って何だ、アロン?」
「おう、来たかシアル」
 行くと、アロンは数人の仲間とともに石造りのテーブルを囲んでいた。僕とア ロンは、昔からの親友のように接した。
「シアル、おまえは何故その年で危険を侵してまで旅をしているんだ?よか ったら、相談に乗るぜ」
「…………」
 アロンには悪いが、訳を話すわけにも行かなかった。
 もし、僕が聖クレイ王国王子だと知れたら…どうなるだろうか。
「…まあ、言いたくないならいいけどな。若いうちは迷わずに、ただ前に進 む事だけを考えていればいいんだ。オレで力になれるような事があれば、 構わず言ってくれよなっ!!」
「ありがとう、アロン。じゃあ、早速だが魔族の住む"魔の領域"へ行きたい んだ。手伝ってくれるか?」
「ほう、魔族…か」
 アロン首を傾げる。

 魔族…彼等の住む場所は"魔の領域"といわれ、各国からも独立している。
 一国ほどの領地もないが、魔族はどの国にも属さないので孤立しでいる。
 各国とも、魔族に関しては干渉しないが、魔族が悪さをすること(例えば今、 ルークちゃんがさらわれた事例の入る)はごくまれにある。
 そして、シルテ様が五百年前に魔族を懲らしめてからは、誰一人として"魔の 領域"から帰った者はないとされているが…。
いや、僕はかの英雄シルテ様の子孫。おじけづいてはいられない。

「シアル、オレ達が仕入れた情報によるとどうも抜け道くらいはあるんだ。 オレらも一度は財宝目当てで入ろうとしたが、断念してな…。よかったら 再挑戦ついでに案内するぜぃ?」
「本当か!?ありがとう、アロン。よろしく頼む」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ〜い!!ありがとね、はりねずみのおじさん♪」
 あ、バカ王子、いつのまに…。
 見ると、リイナが後ろでため息をついていた。リイナもお手上げか…。
「だーれがはりねすみのおじさんだっ!!」
「へっ?????」
 ああ、アロンを怒らせてしまったみたいだ。確かに髪型ははりねずみっぽいが、 いくらなんでも…なぁ。
「くぅおらぁ〜!!もう一度捕まえてやるーーーーー!!」
「ひっ、ひぃーー。お許しを〜」
 アロンがミントを追いかける。ミント、必死で逃げる。
「はぁ。やれやれね、シアル」
「本当だな…」

 善は急げ、という言葉もあるように僕達は早速"魔の領域"に向け旅立った。
 メンバーは僕にリイナ、バカ王子、向こう側からはアロンとお供であるユキル さんの計5人パーティだ。
「アロン、"魔の領域"まではあとどれくらいかかるか?」
「そうだな…2日もあれば着くだろう」
「え〜っ!!そんなにかかるのぉ…」
「まあまあ、ミント殿。あせっては良い結果も出ないですよ」
「ユキルさんの言う通りよ、ミント♪」
 王子と付けると怪しまれる為、僕達は呼び捨てにしている。
「ちぇっ、リイナまで…」

 ユキルさんは、アロンの山賊団の中では最年少の21歳。
 好青年で礼儀正しく、ハンマー投げの名人とか。地図作りが趣味なので、地形 には詳しいから案内役をしてくれている。
「ところで、シアル殿」
 ユキルさんが改まって話しかけてきた。
「はい?」
「あなたのその姿―茶色い髪、エメラルドグリーンの瞳、そして、金のカメ オ―あなたはもしかして、聖クレイ王国の行方不明中の王子、シアリール様では…?」
 ギクッ。皆の視線が僕に注がれる。リイナもじっと見つめている。
「まっさか。シアルがそんなたいそうなご身分な筈はないだろ。ユキルの人違いさ、ハハハ」
「そ、そうだよ、ユキルさん…」
 ユキルさん…博識もあるんだな…。
 アロンのおかげでなんとかごまかせたが、今後注意しなくちゃ…。

「そうですか…。失礼しました。あまりに噂に聞くお姿に似ていらっしゃっ たので。聖クレイ王国は大変だそうですね。女王様が病床、実の王子は行 方不明…代理の王様はやりたい放題。聖クレイ王国に嫁いだ妹が、皆王子 の帰りを待っていると言っていたので、私も王子を探しているんですよ。 何でも、懸賞金まで付いているらしいですよ…」
「な、何だって!?」
 歩きながら話していたが、僕は驚きのあまりに立ち止まってしまった。
 僕に懸賞金…くっ、奴め…。
「ほぅ〜、金が貰えるのか。ユキル、ここから帰ったら探してみようぜ!」 「そうですね」

 そうか、アロンは金目当ての山賊。こんないい話に乗らない手はないもんな…。
「シアルも手伝えよっ!!金はもちろん山分けしてやっからよ」
「あ、ああ…そうだな」
 自分を捕まえるのを手伝うのかっ、ははは…。
「シアル、早く行こうよ…」
「そうだね、リイナ」
 リイナ…、心配してくれているんだ…。
「おうよっ!!今日は休み無しで、暗くなるまでに行ける所まで行くぞっ!」
「ええ〜!?」
 ミントはブーイングだ。まだ、お昼にもなっていないもんな。

 早く、胸を張って聖クレイ王国に帰れる日を夢に見ながら、僕は皆の後ろを歩 いて行った。

「さぁ、みなさん。ここが、"魔の領域"への抜け道ですよ」
 あの後、僕達は休むのもほどほどにして、ひたすら歩き続けた。
 その甲斐もあり、なんとか2日で辿り着くことが出来た。いや、正確には、ユキ ルさんやアロンの援助のおかげと言えるだろう。
 ユキルさんの情報を元に歩き、途中途中の戦闘ではアロンに大変お世話になった。
 ここに辿り着くまでに、僕は改めて僕の無力さを悟ってしまった…。

「わぁ〜、やっと着いたぁ〜♪」
「本当ね。ご苦労様、ユキルさん」
「いえいえ、どういたしまして」
 ミントも、意外にも文句も言わずに歩いた。
 …当たり前か。自分のフィアンセの救助に向かうんだもんな…。
 リイナ。唯一の紅一点なのに、弱音の一つも吐かずに、途中みんなを励ましたり もしていた。強いんだ、な。
 ユキルさんは、自分の益にもならないのに、丁寧に解説しながら案内をしてくれ た。アロンだってそうだ。
 なのに、僕は…何にもしてないじゃないか!!

「おい、シアル?どうしたのか?具合でも、悪いか?」
「いや…」
 アロンの言葉に反応して、皆がこちらを見る。
「シアル、大丈夫?」
「シアル殿?一休みでもしていきましょうか…?」
「シアルぅ〜」
「…………」
 みんなの優しさが、痛い。
 どうして、こんな僕をそんなに心配してくれるんだ…?
 僕は…。僕は…!!

「ま、メシでも食えば治るだろう。なっ、シアル!」
「ごめん、アロン…」
「あん?」
 僕の意外な発言に、皆が注目する。
「え?え?本当に、どうしちゃったのよ、シアル!?」
「ごめん、みんな!!僕の、身勝手な僕を許してくれっ!!」
 ダッ。
 一気に、今来た道を戻るようにして駆け出した。
「シアル!!」
 皆の声が、どんどん遠ざかって行く。

 …僕は、何を考えているんだろう…?
 逃げても、解決にはならないというのにな。つくづく、自分が嫌になるだけさ。
 でも、今更帰れない。ごめん、リイナ…みんな…。

 あれから、しばらくあてもなく走った。
 走りながら、いろいろと考えたが、結局いい案は思いつかなかった。いい加減、 辺りも暗くなって来たので、休む事にした。
 突然の事で、皆、面食らっていたんだろう。誰も追いかけてくる気配はしなか った。それとも、僕はやっぱりこの世界には不要な存在なのだろうか…。
 ひとりになると余計、自分を追い詰めてしまう。僕の悪い癖だ。

「そう、これでもう僕は誰にも迷惑をかけてないんだ。自由だ。これからは 好きな事が出来るんだ。ハハッ、昔から憧れていた生活じゃないか
」  そんな声も、暗い森の中に虚しく響くだけだ。
 …みんな、どうしたかな?もう、"魔の領域"には入ったかな?リイナの夕飯、 また食べたいな…。こんな状況だと、アロンのうるさいいびきですら懐かしく思 えてくる。

「あ…の…?」
 ハッ。
 不意に後ろから声をかけられた。こんな気配も読み取れないなんて、僕も堕ち たものだな…。
 念の為、鞘に手を掛けて、ゆっくりと後ろを振り向く…!!
 後ろには、10歳くらいの女の子が怯えながらこちらを見ていた。なんだ、心 配して損した。僕は鞘から手を離し、体を後ろに向きかえた。

「君は?どうしたの、こんな所で」
 怯えさせないように、なるべく優しい声で話しかける。すると、少女は安心し たのか、大きく息をつき笑顔で話しかけた。
 暗くてよく見えないが、薄ピンク色の毛と薄めの赤のワンピースが映えて、よ くかわいさをアピールしていた。

「私は、ルーク・シュナクン。ある人身売買商人に買われて、昨日、商人が 目を離した隙を見て逃げ出して来た者です。どうか、助けて頂きたく思い 頼み申し上げようとした所存でございます」
「ルーク・シュナクン…ルーク…ルークちゃん!?」

ルークちゃん

 その妙に大人びた話し方をする少女は、ミントのフィアンセのその子と名前が 同じだった事に、僕は驚いた。
「君、ミンティス・トゥ・ペッパーという王子は知っているかい?」
 僕は、意を決して尋ねてみた。
「ミンティス…ミント兄ちゃの事!?もちろん!!彼は、私と将来を約束し た殿方ですわ♪とっても格好いいですの」
「そう…か…。ミント兄ちゃ、か…」
 意外な人物の登場に驚いたが、とりあえず今夜は手近な洞窟で休む事にした。

・第七話へ続く・

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