第七話 「姫の想い」

「ねぇ、ちょっと。もっと早く走れないの!?」
「そんな事言ってもぉ〜。ボクはリイナと違って"でりけえと"なんだからね! リイナと合わせようなんて無理だよぉ」
「まあ、リイナ。そうあせるなってんだ。シアルの事なら大丈夫さ、きっと」
「そうですよ、リイナ殿。シアル殿も、何かお考えがあるのでは…」

 私、リイナ。
 リーセイナ・スルー・サザーラスっていうのは本名で、リイナって呼んで。
 これでも、サザーランドという国の王女なの。今は身分は秘密にしているけれど…。
 それでね、私の幼なじみであり、一応恋人であるシアルっていう奴が今、行方 不明なの。
 何があったのかは知らないけれど、私との旅の途中に急に走って何処かに行ってしまったの…。一応、一緒に旅をしていたアロン、ユキル、ミント王 子と共に探しているんだけど、見つからないわ。
 あいつはいつでもこうだった…。

リイナの想い

 あいつ―シアルとの出会いは3歳のとき。
 私は王女としてシアルの国に赴いたの。あ、シアルは隣国の王子なのよ。でも ね、私達は正式な謁見でなくて、王宮の裏庭で初めて出会ったの。


「ヒック、ヒック。どうしよう、降りられなくなっちゃった…」
 少女は、木の枝の上に座り込んだままだった。初夏の日差しが眩しい。

木の上の姫

 今日は、隣国の同い年の王子と初めて逢う日だった。
 このリイナという小さな王女は、前から絵本等で見る王子様に憧れていた。女 の子のピンチに駆けつけ、颯爽と敵を斬り、女の子を救い出す。
 リイナは、こんなシチュエーションに憧れていた。
 そして、隣国の王子に逢えると聞き、今日を楽しみにしていた。
 が、まだ時間があるからと言って得意の木登りで時間を潰そうとしたのが間違 いだった。思いの外木が高くて、降りられなくなってしまったのであった。

「どうしよ…エミスお兄様、来てくれないかな」
 リイナの兄はエミスという。
 まだ城の外以外はほとんど歩いたことがないリイナにとっては、この兄が唯一 の理想の王子様だった。
 今日は両国の親睦のため、兄も同行してきていたのだ。

「あの、どうかしましたか?」
 リイナが憂鬱そうな顔をしていると、下から声がした。
 歳はまだリイナとそう変わらないくらいの、男の子だった。茶色い髪が、日に あたってよく映えていた。そして、印象的なエメラルドグリーンの瞳でこちらを じっと見つめていた。

「あ、あなたは…?」
 小さな王女は、意を決して尋ねる。
「僕は、聖クレイ王国第十二代目王子、シアリール。シアルでいいよ」
「あなたが、シアル王子ですか…」
 リイナ、初めてみる他国の王子に動揺を隠せなかった。

 その王子は、容姿こそまだ幼いものの、その風格からは父や兄に感じるようなものを見た。
(これが、一国の王子というものなんだ…)
 リイナは、そんなシアルに少しみとれてしまった。
そして、胸がキュッと締めつけられるような痛みがした。 (…何なの、この感じは…。こんなの初めて)
 まだ幼いリイナ姫に、これが恋なんだなどということは見当もつかなかった。

「あの、お嬢さん。お困りでしたら、お助けしましょうか?」
 シアルの声で現実に戻ったリイナ。
(そっか、今はそれどころじゃないわね)
「はい、お願いします、シアリール王子」
 と言うと、王子はにっこり微笑んで
「はい、わかりました」
と快く答えた。
(なんて…なんて素敵な方でしょう…)
「あ、あの…私はリイナ…リーセイナと申します。あの、それ で、私は一応隣国サザーランドの王女で…今日は両国の親睦に 参りました」
 王子はその綺麗な色の瞳を大きく開いて驚いていたが、また微 笑み返していた。
「あなたが…!お噂には聞いておりましたが、なんとお美しい 姫でしょう。貴女みたいな方が王女を務めておありなら、両国 の未来は明るいでしょう」

小さな王子シアル

ポッ…。
 リイナのはあとは、爆発寸前だった。
 こんなに礼儀正しく、容姿端麗な王子に助けられる自分は、世 界で一番の幸せ者だ…と天にも昇るような気持ちだった。
「では、リーセイナ王女。今参りますね」
 というなり、リイナが瞬きをする間にもシアルは鮮やかに木登 りをして、リイナのいる枝まで昇ってきた。
 リイナに向き合うなり、
「お怪我は、ございませんか…?」
 逆光で、シアルの顔がよく見えない。
 が、その垣間見たシアルの優しい瞳を、リイナは生涯忘れないだろう…。

・第八話へ続く・

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