「はぁ……んっ!ゼロス…あと何回…?」
「まだまだ、ですよフィリアさん。」
吐息交じりの声で、自分の脚を押さえ込んでいる獣神官に彼女は尋ねたが、帰ってきたのは目眩を起こすような言葉。
「あと20回はしないと…。」
「ふえぇぇぇ…っ」
ゼロスにとっては何てことない回数でも、フィリアにとっては気の遠くなる回数だ。
「だって貴女が言い出したことでしょう?」
「それはそうですけど…。」
「じゃあ、再開しましょうか。」
「…わかりました。」
竜の娘は小さくため息を吐くと、再びあお向けになった。
「いきますよ……1、」
「2…3……」
彼女が上体を起こすたびにカウント数は増えていく。彼らがしていること…そう、それは腹筋運動だった。
食欲の秋もだいぶ過ぎ去ったある晩…ゼロスがリビングで紅茶をすすっていた時、風呂場で悲鳴が聞こえたかと思うと深刻そうな顔をしたフィリアが現われて、
「私…ダイエットしますっ!!」
などと言い出した。
もともと竜だから普通の人間の体重よりは数10倍あるだろうし…まぁそれでもゼロスにとっては軽々と抱き上げられるのだが。
「…全然太ったようには見えませんが?」
「い〜えっ!体重計は十分すぎるほど回ってました!!こんなんじゃダメですっ、絶対ダメッ!!」
そんな数週間前のことを、黙々と腹筋を続けるフィリアの脚を押さえながら思い出す。
「…19…20!!――終わったあぁぁ…。」
荒い息を吐きながらそのまま横になって休んでいるフィリアに、
「はい…お疲れ様でした、フィリアさん。」
と言いながらゼロスが差し出した飲み物は…ココア。
「ゼロス…嫌がらせしてます?ダイエット中にココアだなんて…。」
「駄目なんですか?すいません、僕あんまりそういうことに詳しくないんで…。」
渇いた笑いを浮かべながら、自分で煎れたココアをすする。
「いいですね、体重とかあんまり気にせずに済んで…。」
羨望と…ある意味嫉妬の眼差しを向けられたゼロスは、ピンッ、と何かを思い付いたらしく、怪しげな笑みを浮かべる。背後で犬の尻尾のようなものが嬉しそうに揺れていたりもする。
「フィリアさん、一番よく効くダイエット…教えてあげましょうか?」
「えっ?!…な、何ですか、その方法って?」
よく効くダイエットと聞いてフィリアがその話題にかぶりつかない訳がない。
「とりあえず、その話は寝室で…。」
「???」
ゼロスに抱き上げられたフィリアは不思議顔だったが、
ボスンッ
「きゃっ?!ゼッ、ゼロス…?」
ベッドに放り込まれると何かを察知したらしく、おそるおそる獣神官を見上げる。
「要するに…いっぱい汗を流せばいいんでしょう?」
「ま…まさか……っあ!」
「いい汗かきましょうね、フィリアさん」
「ん、やぁ…ゼロスのばかぁ……」
潤んだ瞳で自分に覆い被さる彼を見上げる。
「バカで結構です♪」
「ん…あっ、ああぁ…っ!!」
「はぁ…んっ!ゼロス…あと何回…?」
「まだまだ…ですよ、フィリアさん♪」
しばらくこのダイエット方法が続いたのは言うまでもない。