ヒロイン革命
守る?守られる?





「行っけーそこ!そこやで!!」
 玄関を開けた途端に響いた声…勢いずいたそれに、思わず靴も脱がずに愛しいその背中に呟いた。
「なんだ…野球中継でもやってるのか?」
 しかしいつもなら返ってくる言葉も笑顔もない。必死にテレビにかじりついている。どうしたことだろうと思い、部屋にあがって一週間分の食料の入ったビニル袋を台所に置いて側にいく。
 テレビ画面では、なにやらアニメーションのようなものがやっている。と、かちゃかちゃという音も聞こえた。なんのことはない、ゲームである。
「アリス…お前なぁ…その年にもなって何やってるんだよ…」
「片桐さんがなぁ、貸してくれたんやー。どうも知り合いのいとこが勉強せんと、こればっかりやりおるって…!―――ぎゃー!ポーション!ポーションつかえやキミ!!―――――ほぉ。あ、で…取り上げたんはいいんやけど、どこやったんやって五月蠅いんやて。だから友達に貸したッちゅーことでこっちに回ってきた。最初は預かっとくだけにしとこ思うたんやけど、せっかくだからってプレステ貸してくれてなぁ…ってなんでやー!しもたー!相手炎系やから氷の魔法が効くんやったー!回復させてどないすんねん!ああ!その前にあの武器も奪わな!!」
「アリス………」
 こいつは…とげんなりして、火村は頭を抱えた。久しぶりに会ったってのに、どうして恋人を今度はゲームに取られなければならない。ふ、と横に座るアリスの横顔を見た。期待と好奇心をめいっぱい詰め込んで光輝くその瞳に、自分は入っていない。無理矢理こちらを向くようにしてもよかったが、まぁいいだろうとため息をついた。こうして楽しそうにしているアリスを見るのもしばらくぶりなのだ。見ているだけでも嬉しい。
(ほだされてるな…――――)
 これは確実に溺れている、と自覚できている。相手が微笑んでいれば満足なんて、以前なら怖気が走る位甘い考えだ。自分という…火村英生という男は、見た目でクールで、冷戦沈着に思われがちがだ本当は違う。パニック体質だし、神経質だし、涙もろい。その上人間として足りないものがある。それは”感情”だ。

――――愛したい。

 そう強く思うのは、同時に愛されたいと願うのとどう違うのだろうか。見返りのない愛だってこの世には確かに存在するが、自分の抱いているそれはおそらくそれとは違うだろう。自分が微笑むのはいつだって相手に微笑んで欲しいからだし、自分が話しかけるのは話しかけて欲しいからだ。エゴで成り立っている愛だなんて言われるだろうか?しかし、全くの他人同士で結ばれる愛で、それ以外何があるというのだろう?

「うぁー切ないわぁ」

 唐突にそんなコトを呟いたので、俺はびっくりしてアリスを見た。なにやら少し涙ぐんでいる。一体どうしたんだと尋ねたら、この子がなぁーと言い画面を指さした。どうやらゲームのストーリィに感動しているらしい。物書きなのに何やっているんだか…どういう手法でやり遂げたのか位、プロらしく分析したらいいのに。

「生きているコトの証明が出来なければ、死んでいるってコトなのかなぁ…って。それってちょっと切ないやん?生きているコトの証明を出来なければ自分は生きてないんかな?生きているコトの証明をするために生きているて、ちょっと辛いやん?余裕がない。あー。侮っとったわー。まさか大衆向けのゲームでこんな哲学的な内容突きつけられるとは思わんかったー!」
 ううぅ…と涙ぐむアリス。うなだれたその背中に何か声を掛けようとした瞬間。
「リアちゃん可愛いー!つかシャーナ強い!行け!そうや竜殺し!!癒しの風も発動やー!うほほー!」

 がくぅっとうなだれたのは自分だった。





「やっぱりなー。可愛いキャラは強くしてあげよう思うて贔屓してまうわー」
「そうなのか?というか、あれはなんていうゲームなんだ?」
「FF9。ロールプレイングゲームや。キミも知っとるやろ」
「嗚呼、知ってはいるがやったコトはない。レベル上げとか…そういう意味か?強くしたいって」
「んーそう。そんでな、大抵ヒロインってのは回復系のキャラなんや。攻撃には全く役にたたん。で、最初俺は主人公とか黒魔法使うキャラとかが好きでなー、強くしとったんだけど、それじゃパーティとして役にたたんねん。ボス戦になったときな、一番必要なのは素早く一気に全回復出来るくらいの後衛キャラなんや。まあ戦闘中にアイテム使うコトは出来るけど、レベルが上になってくると一気に千とか減ったりするから、五百六百の回復力じゃ追いつん。そうするとやはり魔法なんー」
「ほう」
「でもな、回復系のキャラってなんでかHPが少ないんや。すーぐ死んでまう。で、キャラを回復させるのに回復させるアイテム使うっちゅーなんとも本末転倒なコトになるんや。完璧足でまとい。攻撃系のキャラが飛び抜けて強いんやったら、わざわざ回復系の子はいれんといて全員攻撃にしといた方がよっぽど効率がええ」
「なんとも奥深いな…」
「そうなんよー。でもそんなコトしとったら、余計最悪なコトになんねん。他のキャラとのレベルの差が激しくってな。ヒロインなんやから最期の方に行くに従ってその子が出てくるんは当たり前やろ。主人公と絡んで恋愛になるんやもん。でも弱いから本当に良く死ぬ…今がそうなんやけど…もうーころころと死ぬ」
「ころころ…あはは」
「だから今必死にレベル上げ中なん。ヒロインの」
「あーなるほど。で、アリスはどのキャラが一番贔屓なんだ?」
「へ?」
「だから、どのキャラクタが」

 かちゃ、とティースプーンを置いて俺はアリスに向き合った。今アリスと俺は休憩と銘打ってお昼のティータイムである。昼飯を作ってやろうと思っていたのだが、昨日の夜からぶっ通しでゲームをしていたアリスは腹時計が完全に狂っているらしく、お腹が減っていないと言うのだ。

「んー……ヒロイン?」
「は?」
「だから、ヒロインの女の子や」
「だって今弱いとか言ってなかったか?」
「ん。昨日までは。でもなんか急に好きになってな…。」

 つまりはあれか。足手まといになるのは分かっている、自分で解析したんだから。でもそれが上回って好きになったというコトか?わざわざ今頃になって(物語終編が近いのに)レベル上げをしているということは?

「なんで…また急に」
「うんー。なんかな…強いんよ、その子。いやレベルじゃなくてな…心が?」
「心?」
「ん。普通女の子って守られるやん?しかもこのストーリィのヒロインはお姫様なんや。色々事情があって主人公の盗賊の男の子と旅しとるけど。お姫様って言うのは、常に守られる人種というか職業や。王子なら別やけど、まかり間違っても戦争でも先頭に立って戦ったりはせぇへんやろ」
「まあ…そうだな」
「でもこの子いっつも走ってそこに行くんや。もうつっこんでくっていうか」
「ただたんに無謀で無鉄砲なんじゃないのか」
「俺もそう思っとったー最初。『なんでお前ついてくんやー!』て。付いてこない方がややこしい事態だってないし、全然楽に進んでけるのに」

 でもな、俺考えたんや。とアリスは微笑んで言う。

「ヒロインは、守られるものだと思っておったけど。それは違うもんやって」
「………どう違うんだ?」
「主人公は守ろう守ろうって思ってるみたいやけど、ヒロインはそんなやわなもんじゃない。逆に守ってるんよ、主人公を」
「……よく分からないんだが。だって戦闘では完璧に足でまといなんだろう?」
「戦って傷つけるのと、癒すのと、どちらが強いと思う?」
「―――――――――……」
「な?最近の話は気づけばそういうのが多いでー。強いヒロインが多い。うん」
 うんうん、と頷きながら言う。
「………無鉄砲やけど、怖くない筈ないねん。誰かが当然守ってくれてるなんて思っている奴が、旅に出ようなんて思う筈がないねん。何かを変えよ、って行動しているヤツが弱いなんて嘘や」
 な?とアリスが笑う。


「火村はこのゲームだったら、何になりたい?」
「なに?どういう?」
「だから、もしこのゲームの住人だったらってコト。んー孤高の剣士っぽいけど…でも盗賊って言われても納得しそうやー」
「なんだそれ」
「だって格好いいんやもん」
「……………………………」
「ん?火村?」
「ならヒロインはアリス、お前な」

 強いお姫様を浚って、俺は守って貰うよ。



綺麗な声で呪文を唱えて、キミの心を癒してあげる。








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こんにちわー!お久しぶりの真皓です。更新遅くてごめんなさい。しかも「ペーパームーン」じゃないし。(オイ)なんか落ちなしの短編。ロープレ編(えー)いえ、自分が今やってるもんで、ハイ(笑)しかし火村センセは本当に盗賊か剣士っぽいですよねーv後は物語の途中にでてくる伝説の戦士とかいうキャラ。いいねーv
Σは!失礼しました。それでは、…少しでも更新を早くしたいと思いつつ…。


01/9/6 真皓拝

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