キャンディ革命。〜踊る編〜




(ホワイトデーなんてもの、一体誰が作ったんだ。)

 と室井と青島は同時に思った。
 それはチョコレート業界の策略だ、または…そう、社会が生み出した忌むべきもの。
 バレンタインデーはいい。しかしホワイトデーの場合は、一人が負担する金額が半端じゃない。大体の女性は義理だとしても、そのまま義理としてキャンディを返していたのでは不評を買う。
 となると、一人一人対応を考えなければならない。
 輸送してきた遠い住所の人などは、一律に有名メーカーの美味しいクッキーでお返しした。問題は、手元に残った知人の対応である。本庁職員の女性などは、特に気を使わなければならない。女性とは恐ろしいもので、笑顔でその手渡されたものを受け取りながら、心の中では至極シビアに品定めしているのである。少しでもお気に召さないものを差し出そうものなら、途端に応対が……。

「青島……君はどうするんだ」
「知りません!」
「……………何怒ってるんだ?」

 ふん!と青島はそう言って、一緒のソファに座っているのに、わざわざ座り直してそっぽを向いてしまう。室井と青島は、同時に同じ事を考えてはいたが、プロセスが違うのだ。室井は対応に困って誰が作ったんだ、と唸ったが、青島はその対応を考えている恋人が面白くなくて誰が作ったんだ、こんな忌まわしいイベント、と唸ったのだ。

「湾岸署で一番恐いのは恩田くんだが……一緒に返さないか?それが一番コストが掛からないんだが」
「本庁の人には何で返すの??」
「えぇ〜と…。紀見くんはスカーフで、二宮くんが…シ○ズンの時計で。新田くんがジパンシィの香水」
「っだ〜〜!!なんでアンタはそんなにマメなんですか!?」

 がるるる…と唸っても、室井は平然とした顔でメモを眺めている。買ってきた品物と、相手を確認しているようだ。眉間にしわをよせて、何だか情けないが。

「……副総監の奥様には、三越デパートの商品券五万円分だ」
「きぃ〜!!その半分でも俺の為にお返し考えました!?」
「………………………」

 きょとん、と室井が青島を振り返った。そして一度視線を泳がせ……天井を見上げ…うつむき…。

「すまん……」

 と小さくのたまったのだ。

「ひ……っ、酷いっすよ〜〜!!俺だってバレンタインあげたじゃないですかあああ!!」
「む………」

 と室井が顔をしかめた。確かに悪いと自覚したらしい。口元に手をあてて、室井が少しうつむく。むむむ…と皺を寄せてから数分。青島はクッションを抱きしめながら、考え込む恋人をちらちらと伺う。
 よし、と呟き、室井は台所に赴いて冷蔵庫から一口サイズの生チョコを取り出した。それを青島に向かって放りなげ、突然

「…青島確保だぁ!!」

 と叫んだ。ぎょっとした青島はそれをすかさず両手で受け取る。な、なに…??と戸惑いながら、その手のものを見る。一個ずつパッケージになっているものだった。あ〜なんとかキッス、って期間限定のチョコだ…と考えながら、それを開けて口に入れようとする。

(これがお返しね〜…まあ普通に渡さないトコが可愛いけど)

「青島、待て!」
「へ?あ、はい」

 とことこ戻ってきて、室井が青島の前に座る。ソファに座っている青島より、少し視線がしたになる。

「なに?」
「それ、食わせろ」
「は?あ……ハイ」

 あ〜ん、とした室井に、青島が取り出したチョコを放り入れた。うん、と大きく頷くように口を閉じると、なんなんだ…と困惑ぎみの青島に、一差し指でちょいちょい、と指示する。つられて少し体をかがめ、顔を近づけると襟元を捕まれて引き寄せられた。

「え?室井さんなに…っ……んぐっ」

 口の中に広がるのはチョコの味で。生チョコだったので、もう殆ど溶けていたのだけれど。
 唇が離れたときには、ちょっと赤面した。

「……だめか?」
「………一体何考えてんすか」

 気づけば、体勢が崩れて室井を押し倒したような格好。口元を押さえてもう、と呟いた青島に、室井がおずおずとシャツの胸ポケットからもう一つチョコを取り出した。

「………もう一個……だめか?」
「さいっこうっすよ…もう死にそう……」

 それはよかった、と室井が囁く。
(誰だよホワイトデーなんて最高なの作った人…素敵…ありがとう〜!)
 と内心喜びに踊る彼の下で、
(安上がりに済んでよかった…)
 などと室井が考えているなんて、誰も予想しないであろう。



 気持ち気持ちとはいえど、お返しは楽しみなものなのデス☆




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再録第一弾です、すいません。真皓拝

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