A darling person
カタン。
夜も更け寒さも深まった時間、毛布にくるまって寝ようとしていた風は不意に窓に何かぶつかった様な物音を聞いた。
暫く耳を澄ませてみるが何の動きも無く。
風で木の枝でも窓に当たったのだろうと思い、そのまま寝ようと再び毛布にくるまった。
カタン。
一定の間隔をあけ、また同じ音がする。
木の枝が窓に当たったにしては不自然なその物音に風はベットから降り、窓の方へ歩いていった。
窓を開け、辺りを見回すとふと人の気配がした。
「・・・雲・・・」
音の原因の人物を見つけた風は、半ば溜息をつくようにその名を呼んだ。
「やあ、コンバンワ。黒き風」
何が楽しいのか、そう挨拶した雲はニコニコと笑っていた。
「中に入っても良いかい?」
雲を見ていて何も言わない風に、雲が入れてくれと頼んだ。
「・・ああ・・・」
少し反応が遅れた風は、そう言うと窓を大きく開けて雲を中に入れた。
「もしかして寝てたのかい?」
部屋に入り、ベットの乱れた毛布を見て雲が訪ねる。
「いや・・・寝ようとしてたところだ」
見られて恥ずかしかったのか、風は答えながら毛布を直す。
「ところで・・・何しに来たんだ?こんな夜中に来たんだ、よもや話に来た訳じゃないだろ?」
風は雲が訪ねて来た理由を問う。
「・・・会いたかったから・・・じゃ駄目かい?」
笑いながら言う雲に溜息が漏れる。
「お前な・・・」
「何てね。ちょっとこっちに来てみてよ」
風の言葉を遮って、雲は窓辺に歩いて行く。
「一体何なんだ・・・」
仕方なく風は雲の言われた通り、窓辺に近づいて行った。
雲の側まで行き、雲のしたいことが分からない風は、只雲を見ているだけだった。
「ねぇ、風・・・窓の外を見てごらんよ」
雲が立っている場所から、少しどく。
代わりに風がその場所に立ち、窓の外を見る。
普段見慣れている外の景色は何も変わらず、雲が何を見せたいのかが分からなかった。
「違うよ風。下じゃなくて上を見てごらん」
雲のその言葉で、風は上を向く。
真っ黒な空には、色とりどりの星が散らばっていて、何とも幻想的な雰囲気を醸し出してした。
「う〜ん、残念・・・そっちじゃないんだ」
暫く夜空を食い入る方に見ていた風に、雲が笑みをこぼしながら言った。
その言葉に風は反対の夜空を見上げた。
「あっ・・・」
そこには、夜空で輝いていた星よりももっと強い光を放って、それでいて落ち着く光を静かに放っている衛星があった。
「綺麗だろ・・・月」
月の輝きに目を奪われている風に、雲はそう言った。
「ああ」
風が少し笑みを浮かべながら、月を見ていた。
瞬間、雲ははっとした。
月を見る風はあまりにも綺麗で・・・。
月の青白い光が風の瞳に反射し妖しげに輝き、頬に掛かる光が陶器の様な滑らかさを醸し出してした。
その姿はなんとも言い難い、艶を含んでいて。
「風・・・」
雲は無意識のうちに手を伸ばす。
「くしゃんっ」
風の頬に触れる瞬間に、風がくしゃみをした。
自分のドロドロとした感情に気付いた雲は、自嘲気味に笑う。
一瞬、この愛しい者を壊したい衝動に駆られていた自分に。
何をやってるんだと。
「寒くなったかい?ちょっと待ってて」
風に気付かれないうちにいつもの表情に戻り、雲はベットへ歩いていった。
風が綺麗に直したばかりの毛布を取り、風を座らせた。
その後ろから抱きつく様にして、風の体を己ごと毛布で包み込んだ。
「なっ・・・!!」
突然の雲の行動に風は驚き、雲を振り返る。
「・・・月を見ようよ」
雲は風を優しく見ながら、月を見るように促す。
その雲の様子に、風は仕方なく月を見上げた。
「こうして静かだと、まるで私達しかいないみたいだと思わないかい?」
不意に雲が言う。
「いつもは色んな人が目の前を通るけど、今は誰も通らない。本当にこの異界で2人だけのような気がする。」
雲が独り言のように呟く。
確かに。
風も雲の言葉を受けてそう思った。
お互いの息づかいまで聞こえそうなこの状況は、普段ではあり得ない静かさだった。
静かすぎる2人だけの世界。どちらか一方でも欠けては意味をなさない世界。
「そうだな・・・」
背中越しに伝わってくる暖かさに、風の中である思いが涌いて来ていた。
この思いは、何と言ったか・・・。
ああ、確か――――。
「幸せだよね」
自分が思うよりも先に、雲が言った言葉に風が驚き振り返る。
「そう思わないかい?」
優しく微笑む雲を直視出来なくなった風は、真っ赤になりながら俯く。
「ね、風・・・こっちを向いて」
雲の言葉に、風は首を横に振る。
赤くなった自分の顔を、雲に見られたくなかった。
きっと自分は情けない顔をしてるから。
「風・・・私を見て」
再度雲が言う。優しく、それでいてどこかしら熱の籠もった雲の声。
そんな声に誘われて、風は渋々雲を見る。
近づいてくる雲の優しい表情を見ながら、風が瞳を閉じる。
自分はこんなにも雲が好きなんだと再確認をしながら。
触れるだけのキスを落とした雲はすぐに風から離れる。
しかし、相変わらず顔は近いままで。
「好きだよ・・・」
今度はおでこにキス。
「好き」
瞼に。
「好き」
頬に。
「愛してる――――」
唇に。
そして先ほどとは全く違う、深い深いキス。
雲の感情が唇から、背中の暖かさから風の体に流れ込んでくる。
それと同じぐらいの感情を雲に返す風。
好き、怖いくらいに愛してる。
恥ずかしくて言葉に出来ない風は、何とか雲に気持ちを伝えたくて必至に雲のキスに応える。
そんな風の思いは、ちゃんと雲に届いていた。
お互いの唇が離れた時、風は瞳を開けた。
「っ――――!!」
そこには、見たこともない顔で微笑んでいる雲がいた。
嬉しそうで、幸せそうで・・・。
見ているこっちが照れてしまうような顔。そんな表情をさせたのが自分だと思うと、よけいに幸せで。
思わず向きを変え、雲の首に腕を絡める。
「風・・・」
その声は嬉しさにあふれていた。
「ゴメンね、本当は何もしないつもりだったんだけど・・・」
雲は風の耳もとで静かに言う。
「――――風を抱きたい」
低く、響くような声で囁かれた。
途端に、風の背中にゾクリとしたモノが走った。
「駄目・・・かい?」
少し抑え気味に雲が風の返事を待つ。
その問いに答える様に、風は雲の首に絡めた腕を緩め、そっとキスをした。
「風・・・」
雲は風のキスに応えるとそっと抱き上げ、ベットへと歩いて行く。
「好き、堪らなく愛してるよ」
雲はそう言うと、キスをしながら風をベットへと降ろしていった――――
続く。
後書きと称した言い訳(^∇^;)
どうも、お久しぶりの更新です(苦笑)
如何でしたでしょうか?
いや、只単にラブラブが描きたくなりまして・・・(^∇^;)
でも、今回エロなくてすいません・・・(T_T)
ま、「続く」となってますので、次回はエロです。多分ヤってるだけ(苦笑)
あ〜、やっぱりラブラブって良いですよねvvお互いがお互いを好きってのは。
次回の更新は未定ですが、なるべく早くにやりたいです(苦笑)
何時も不言実行ですいません(T_T)