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空想の書斎
この森の管理人の生み出した空想と妄想を詰め込んだ書斎。
泡沫の夢と消えるか、永久に残るかは管理人次第・・・。

■ P5 エピソード Blue Sky

 明るい日差しが降り注ぎ、子供の笑い声が響く。
 絵に描いたような、平和な光景がここにあった。

「あははっ、おーにさーんこっちら♪」
 建物の中を走り回る青年と、子供たち。どうやら鬼ごっこのようだが、逃げるのは彼。追いかけるのは子供たち。
 青年は軽やかな身のこなしでくるくると逃げ回る。

「あら、白狐さんおはようございます。」
「おはようシスターアンナ。今日も可愛いねv」
「まぁ、相変わらずね。」
「あ、シスターコレットおはよう☆ 君に会えてようやく一日が始まった気がするよ。」
「白狐さん、その挨拶をするのは何人目ですの?」
「あはは、ヒミツーv またねシスター。あ、リューイ君赤い目してるけど夜勤明けー? それとも寝不足かなー? あははははっ。」

 すれ違うシスター達にひらりと手を振り、駆けていく。翻る橙色の布地と、跳ねる白い尻尾。それを追いかける賑やかな団体が視界から消えるとシスター達は苦笑をかわし、それぞれの仕事へと戻っていく。

「まてー!」
「そう言われると逃げたくなるんだよねー♪ ほーら、お土産のアメ缶、早く捕まえないと食べちゃうよー♪ やぁシスターメアリ。今日もキレイな銀色の髪だねv」
「あらあら。私の場合は白髪っていうのさね。」
「あはは、一緒だってーv はい、お土産のアメをどうぞ。」

 そろそろかな?
 たっぷり逃げ回り、追っ手の中から運動の苦手な子が数人脱落しているのをみやり、白狐は鬼ごっこを終わらせるタイミングをうかがっていた。
 太陽はまだ昇りきってはいない。
 開け放たれているドアから建物の外に出て、広場の辺りに向かって駆け出す。

「やぁメイダ、おはよー♪」
「…おはよう。」

 すれ違った赤毛の少女ににっこり笑って声をかけたのだが、返ってきた声がやけに沈んでいる。
 もともと、大人しめの子だと白狐の記憶にはあるが、気になったのでちょっかいをかけてみる。

「どうかしたのメイダ? 元気ないぞー?」
「…なんでもないよ。」
「うーん、何でもないように見えないぞ? 具合が悪くないならちょーっと白狐おにーさんに付き合いなさいお姫様☆」

 いうが早いか少女の手を引いて走り出す。メイダと呼ばれた子が転びかける。
 その小さな身体をひょいと抱え、白狐は跳んだ。
 この辺りで一番高い、教会の屋根まで。
 日差しは暖かくて、風は温かい。教会の屋根は太陽の光をたっぷり浴びていて、靴底を通して暖かさが伝わってくる。すぐ側には、今まで見上げる事しか出来なかった十字架が銀色に輝いている。メイダの首にかかっているものと、同じ形。
 シスターや、広場で遊ぶ友達の姿を足元に見つけ、メイダの顔色は蒼白だ。

「お、降ろしてっ!」
「やーだ、いい景色でしょメイダ。お日様もぽかぽかだし、遠くまで良く見えるよ?」
「怖いよ、落ちたら危ないよっ!」
「危なくないよ? ボクはここまで跳べるから。メイダが落ちたって助けてあげられるよ?」
「でもでもっ、後でクレスさんとかシスターケイトとか神父様とかに怒られちゃうよっ」
「怒られるのはボク一人だけだから、メイダは平気。メイダはボクにさらわれただけだもーん。ほら、あそこ、クレスの部屋の中が見えるんだよ。」

 少し離れた建物の窓を指差す。そこは子供たちが「絶対に入ってはダメ」と言われている部屋で、シスターや神官騎士の大人達も用事がないと行かない部屋だった。この教会の責任者であるクレスの執務室兼、応接室である。
 その部屋を覗くも、遠目なので部屋の中までは良くわからない。
 
「あの部屋、ここからじゃないと見えないんだよねー。仕事中のクレスが見える特等席。メイダだけに教えちゃう。」

 白狐がヒミツね? と自分の唇に人差し指をあててウィンクしてみせる。
 うなずいたメイダの髪をくしゃっと撫で、その手を背中に回して屋根の端に移動する。足元にはいつもより小さく見える広場と、年上から年下まで、様々な年頃のメイダの友達。その内の誰かが屋根の上に立つ二人を見つけて指をさす。わらわらと人が集まってきた。

「あ、あんなところにいた! しかもメイダも一緒じゃん!」
「降りて来いよ白狐! そこにいたんじゃ鬼ごっこになんないよっ!」
「危ないだろっ! 下りて来ないとシスターケイトに言いつけるぞー」

 口々に叫ぶ子供たちの声に、白狐の緑色の目が細められる。

「くすくす、可愛いメイダとお土産のアメ缶をボクの前から助け出すのは誰かなぁ? このまま姫をさらって行こうか。それとも食べちゃおうかー。」
 唇を笑みのカタチに曲げ、メイダを後ろから抱きしめる。小さな身体がうっかり足を踏み外す事のないように。
 足元からは、騒ぐ悪ガキ達。昨日、おにごっこに入れてもらえなくて、今朝の「おはよう」がちょっと言いにくかった。
 メイダの胸が少しだけちくりとする。

「ねぇメイダ、おっきな神父ディエフもシスターミリアも、キョウもシアもティシオも神様から見るとこんなに小さく見えるんだねぇ。」

 小さな頭に向かって、のほほんと白狐がささやく。

「白狐さん。客人である貴方に子供の遊び相手になっていただいていることには感謝します。ですが、屋根の上は危ないから今すぐメイダと共に降りてきて頂きたい。」

 ふいに張りのある声が屋根の上に届いた。
 声は少し離れた建物から。執務室の窓が開いていて、部屋の主が顔を出していた。
 子供達と遊ぶ時はいつもにこにこと温和な顔をしているが、屋根の上の白狐を見る瞳はじっとりと湿っている。

「やぁクレス。そんな部屋の中にいると湿っちゃうよ? こっちにおいでよ、日差しがぽかぽかで暖かいよ?」
「こちらにも朝の日差しなら十分に入ってきます。」

 へらりと笑顔を向ける白狐をクレスはばっさりと切り捨てた。
 いたずらを叱る時のクレスとも違った態度にメイダは目をしばたかせる。

「そーお? ならいいけど。ね、クレスも遊ぼうよ。メイダがお姫様、ボクは姫をさらう悪魔で、姫を助ける勇者とその仲間が決まってないんだよ。」
「・・・。分かりました、分かりましたから取りあえずそこから降りてください。」
「あはははは、聞こえたかなー? クレスも勇者の仲間入りだってっ。」

 芝居がかった仕草で声を張り上げる白狐。
 広場にいる小さな勇者候補達の歓声が大きくなる。
 不承不承といった体でクレスの姿が窓の向こうに消える。 おそらく広場に下りてくるのだろう。

「さーてメイダ姫。残念だけどここから降りなきゃいけないみたい。ダンスは習った?」
「・・・ちょっとだけ。」
「さすがメイダ。じゃぁ、ちょっとお相手していただけませんか、お姫様。」
「う、うん。」

 小さな手を取り、屋根の上から虚空へ誘う。
 一体どんな魔法を使っているのか、白狐は浮いたり飛んだりといった事を苦もなくやってのける。
 今だって何もない所を足場にして、屋根の上から踏み出せないメイダに向かって手を差し出している。その背中には天使の羽根も悪魔の翼もなくて、作り物の狐尻尾が暖かい風に揺れているだけ。
 メイダは思い切ってその手を取って、屋根から足を踏み出した。

「わ、わっ」
「大丈夫、風に逆らわないで。うん、そうそう。上手ー」

 ふわりとした浮遊感。ぐらりと傾きかけたメイダの体を支えて、白狐が笑う。
 白狐に促されるようにくるりと回ると、すぐ近くに地面があった。
 屋根の上とはまた違う、土の温かさ。
 ふっと視線を上げた先には、遊びと悪戯のリーダー格であるキョウと不意に目が合った。
 が、キョウにふいっと視線を外されてしまう。
 また、仲間はずれにされるのかと思ったメイダがぎゅっと白狐の袖を握って隠れようとすると、キョウがぼそっと、明後日の方を向きながら呟いた。

「す、スカートはいてるんだからよ・・・、ちょ、ちょっとは考えろって。」

 メイダの頬が、彼女の髪に負けないくらいに赤くなる。

「ば、ばかっ! キョウのバカ! ばかばかばかばかーっ!」

 そのままキョウに飛び掛っていくメイダ。

「バカって言う方がバカなんだぞメイダーっ! ぎゃー、痛い痛いっ」
「わーんっ! キョウのばかーっ!!」
「安心しろメイダの今日のぱんつがウサギさんだっていうのはオレが言わなくたってっ、ランジェもヨシュアもカインも皆知ってるぞーっ!」

 今度はメイダが鬼になって子供たちを追い掛け回していく。

 賑やかな声があちこちへと移動していくのを聞きながら、白狐は降りてきたクレスに声をかけた。

「遅いー、ボク魔王になりそこねちゃったよ。」
「何とか片付けてきたのだけれど、無駄足だったようだね。」

 先ほどよりは幾分柔らかい口調でクレスも答える。

「ふふ、ヒキコモリのキミをひっぱり出せたんだよ。ボクとしては上々の仕上がりかな?」
「しばらく離れている間に、仕事が溜まっていたものでね。用が無さそうなら部屋に戻らせてもらうよ。」
「無くも無いよ。はい、お土産。」

 机の上に積まれた書類の高さを思い出しながら、踵を返しかけたクレスの胸元に白狐がずっと持っていたアメ缶が押し付けられる。服を通して伝わる、金属の硬さと冷たさにどきりとする。

「あ、あぁ。ありがとう。なんだいこれは?」
「桜のアメだって。可愛い色をしてたからつい、ね。あぁ、シスター達に少し配ったから少なかったらゴメンね?」

 はぁ、と曖昧な返事を返して缶を振ってみる。カサカサと音はするが、缶の大きさから考えると確かに少ない気もする。

「後でいただくよ。あぁ、ラフィルに会いに来たのかい? 彼女ならきっと厨房だと思うけど。」
「やーだなぁ、用はキミに会うことだよ?」
「私に?」
「そう。キミにお土産を渡すために来たんだよ? お仕事が忙しいキミの事を思ってね。」

 にこりと笑う白狐の真意を汲みきれず、クレスは戸惑っていた。
 この白狐という男、教会の手伝いをするようになったラフィルの知人と自分で言ってはいたが、彼女と話しているところを殆ど見たことがない。
 いつもふらりと現れてはシスターや神官騎士にちょっかいをかけているか、子供達と転げまわって遊んでいるか。または子供たちの教育上よろしくない悪戯を広めているか…。
 何度か話をする機会があったのだが、今のように笑顔で全てかわされてしまうか、意味ありげな言葉が返ってくるだけ。
 その目的は? ラフィルの知人というなら、彼女との関係は?

「あ、もしかして甘いモノ駄目だった? なら皆に配っちゃうけど?」
「あ、いや、すまない。ちょっと考え事があってね。後でいただくよ。ありがとう。」

 自分はよほど怪訝な顔をしていたのか。白狐の言葉にクレスは慌てて言葉を紡ぐ。

「あはは、お仕事かなぁ? 大変だねぇ。 じゃぁボクは目的も果たしたし、またね。」

 不必要な程近づいていた白狐の身体が離れていく。白狐も昼食にと誘いに来た子供たちに引きずられてクレスの視界から消えるまで、クレスはその場から動けなかった。

「あぁ、仕事に戻らなければ。」

 何気に呟いたつもりだったが、一気に片付けなければいけない書類の山を思い出し気が重くなる。
 クレスはため息をつき、押し付けられたアメ缶を開けてみる。
 白い包み紙の中から透けて見える薄いピンク色の小さなアメがいくつかと、どこかで取ってきたのだろうか、季節外れの桜の花が一厘と、「夜 聖堂で」とだけ描かれたアメの包み紙。

「・・・全く、分からないな。」

 ため息が増えた事に気付き。それをポケットにしまう。
 アメを一つ摘んで口に入れる。かすかに広がる、春の香り。
 一体白狐はドコでこんな物を見つけてくるのだろうか。ラフィル共々、アルフェイスではあまり見かけない服装をしているが、一体ドコで暮らしているのか。疑問は増えるばかりである。
 もう一度ため息をついて空を見上げる。

「いい天気だ。」

 遠くでクレスを呼ぶ声。シスターが昼食を食べてくれないと食堂が片付かないと文句を言いにきたようだ。

 今日も青空。夜もきっと晴れるだろう。
 雲ひとつない空が広がっていた。

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 P4に引き続き、ルシードさまの地域設定「アルフェイス」でのとある日常風景。
 白狐さんが子供達ときゃっきゃして、クレスさんをいぢめるシーンが書きたかったダケです。
 ここのスタッフであるはずのラフィルさんは、今回もロクに登場してませんね。相棒の鑑識、米沢さんの「別れた女房」的な扱いか!?

2009/02/01

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