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空想の書斎
この森の管理人の生み出した空想と妄想を詰め込んだ書斎。
泡沫の夢と消えるか、永久に残るかは管理人次第・・・。

■ P7 エピソード 夢の記憶
ごろり。
安宿のシーツの海が朝日を受けて波打った。
水面下から伸ばされた手はベッドサイドの懐中時計を探し当て、水面下へ引きずり込む。
小さな音を立てて刻まれる時間にしばし耳を傾け、息継ぎをするようにシーツの中から頭を出したのは、白狐。
だが、すぐに翠の瞳が細められ、枕を横抱きにして二度寝の海へと引きずりこまれていった。


夢だとは分かっていた。
殺風景な、白を基調とした視界は曖昧で、廊下に並んでいたドアもひどく歪んで見える。
その一つに頼りない足取りで縋り付き、中へと転がり込む。
パタン、と言う音と、ソレに続いた静寂に大きく息をつき部屋の中を見回す。

さして広くも無い部屋は衝立で半ばまで区切られ、ベッド、クローゼット、小さなテーブル。どれも同じものが二つずつ置かれている。その片方は積み上げられた本や、引っ掛けられた衣服などで散らかっており、使用者の影を落としていたが、もう片方は何もなく、テーブルの上に薄いファイルだけが置かれていた。

…あぁ、そうか。今日は部屋に新入りが来るんだっけ。

視界に流れてきた前髪を緩慢にかきあげ、呟く。
特待生だかしらないけど、一人部屋を追い出された奴が二人部屋のこっちに流れてくるらしい。成績は優秀だからあまり悪い方向に誘わないでくれたまえ。と釘を刺されたのを思い出して顔をしかめる。

ボクだって、好きでこういう事をしてるんじゃない。

呟きは音にならずに消える。
まるで自分の身体ではないような重い身体をギリギリと動かし、緩慢に時計を見上げる。 新入りが入寮する予定の時間を幾分過ぎていた。
どうせ寮監督に捕まっているに違いない。
ボクの事を、理解とは言わないから。放置しておいてくれる人であってほしいなぁ。
ぼんやりと、今日から新しく入ってくる隣人に都合のいい事を思いながら。重さをました瞼を閉じた。

「今日からここに入ることになった。アルトスフィア・アルタートです。よろしく。」

不意に響いた優しげな、優等生全とした声に意識が連れ戻される。
ゆっくりとまばたきをして、目の前の人物を見上げた。

「あ、あぁ。ボクは海天藍。 …よろしく。」
「ふぁい…?」
「あー、ファイ 天藍テンラン。東方の名前には馴染みが無い?」
「…あぁ、そういう事ですか。 とにかく、よろしく。」

部屋の外にいた後輩から荷物を受け取り、ドアを閉めて追い返した新しいルームメイトは部屋を見回し、最後に従来の住人の上で視線を止めて言い放った。

「そこ、どけよ。荷物置けねぇだろうが。」

先程の、優しげなテノールを紡いだ唇が、ドスの効いた低音を吐き出す。
安っぽい寮の明かりにも輝きを失わない銀の髪、細く針のように鋭い紫の瞳。
ダサイと評判の制服に小さく縫い取りされた黒い翼は、彼が特権階級である<翼持ち(キャリア)>である事を示している。
居丈高な物腰も<翼持ち>なら仕方ないなと口の中で呟いた白狐は。重い身体を引きずり、邪魔にならぬよう自身のベッドの上に移動する。
初対面の時の姿勢は、猫の皮だったようだ。あからさま過ぎて腹を立てる気も起こらない。

「あー。アルタート君。 …だっけ? そこに私服置くと、ドアを開けたときに丸見えになるし、本は反対側のほうがいい。窓からの光で、焼けるから。」
「ふむ、ならここに積むか。 それと、アルトでいい。」
「ボクも、天藍でいいよ。」
「…クソ、予想以上に狭かった。」

アルトが荷物を整理しながら毒づく。

「一人部屋からの移動だもんねぇ。ていうかキミは<翼持ち>でしょ? 学費も寮費も<翼無き者(ノンキャリア)>よりずっと優遇されてるのに、なんだってまた…」
「知るかよ。なんでも偉い<翼持ち>が編入してくるとかで、ソイツの部屋を作るのに追い出されたんだよ。」

<翼持ち(キャリア)>
身体的特徴のことであり、特権階級や一定の家柄を示す名称でもある。
源泉は背中から伸びる一対の翼を持つ人の意味であり、<翼無き者(ノンキャリア)>よりも能力的に優れている人が多い。
翼の色は各人の能力の傾向を現しているとされ、政治・経済の分野を治める者には白、または金色の翼を持つ者が多い事から最も優秀であるとの認識をされている。一方黒、灰色は<翼持ち>の中でも下層の扱いをされる事が多い。
また両親が古くから続く家柄の<翼持ち>である場合。翼の無い子であっても<翼持ち>と同等に扱われる。
その場合の翼の色は両親のそれに準じると定められている。
<翼持ち>は教育、医療など、社会的に様々な優遇措置が取られており、最下層の<翼持ち>であっても<翼無き者>よりも数段上の社会保障、サービスなどが受けられるようになっている。

<翼無き者>である天藍からすれば<翼持ち>であるだけで十分恵まれていると思うのだが、寮生活のランクを不当に下げられたアルトとしては、やはり面白くない。
また、この時の天藍は知る由も無かったがアルトは本当に黒い翼を有してはいるが、両親とも至って普通の<翼無き者>であり、家柄だけで<翼持ち>待遇を受けている翼の無いお坊ちゃまあたりに言わせれば「たまたま翼を授かっただけの平民」であった。

「<翼持ち>だなんだとか言われてるが、黒翼なんざお偉い<翼持ち>から見れば毛の生えた<翼無き者>らしいぜ。」

鉛のように重い身体を動かす気にもなれず。天藍はベッドによりかかったままアルトの言葉を聞いていた。

「そんな訳だから、<翼持ち>だろうが気を使ってくれんなよ。 さて、そろそろ飯の時間か。天藍?」
「あー。 …ごめんパス。 食堂の場所は、分かるよね。」

ひらりと手を振るだけで、ぎしりと身体が軋む。ついでに言えば、食欲はゼロだ。

「そうか。…具合でも悪いのか?」
「…なんでもない。 ちょっと、バイト疲れ…かな?」
「…そうか。 なら、行ってくるか。」

紫の瞳が気遣わしげな光を帯びる。
が、それも数瞬の事で。アルトの姿は一つしかないドアの向こうへ消えた。
バタン。
扉が閉じる音をきっかけに、もともと曖昧であった視界はいよいよ形を無くし、全ての映像が砂粒と化し消滅していった。


次に白狐の瞳に飛び込んできたのは、明るい安宿の天井だった。
すぐ側の窓から見える街路樹は鮮やかな緑の葉を広げており、空は青い。
数度瞬きをしてから。今まで見ていた夢を、かつての記憶を反芻してみる。

あの後、ルームメイトを気遣った彼はパンと飲み物を持ち帰ってくれたのだが、部屋に残された方は気遣いを受ける余裕も無く爆睡しており、一食余計に食べるハメになったと翌朝文句を言われた。

どうしてあんな夢を見たのか。
忘れたわけではないが、あまり思い出して気分のいい訳じゃない成分も含まれている記憶。
夢によって意識野に浮上した記憶は、時間と共に再び無意識の波へと沈んでいく。
もう数刻もすれば、夢の内容など「夢は見たかもしれない。」くらいの曖昧さになるに違いない。
ぼんやりと思考を漂わせた白狐は、ぐい、と大きく伸びをしてシーツと夢の名残を払い落とす。

「いい天気。」

枕元の懐中時計は小さな音を刻み続けていた。
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 白狐さん夢日記。
 何かもう説明不足感溢れすぎですが、白狐=天藍 メフィア=アルト でございます。
 つまりは二人ともバトにおいては平然と偽名名乗ってるわけで。
 苦学生な白狐とエリートの端っこメフィア、出会い編でした。
 学校の設定とか、天藍のバイト話とか、学園生活とか、書いて見たいなぁ。
 一部閲覧がアレな感じになりそうなのは中の人が腐(以下殴打音)

メフィア: …。 取りあえず、当面の平和は守られたか?
白狐: あのさ、ボクたちって所詮中の人のコマなんだしさ。 出番、なくなるよ?
メフィア: 嬉しくねぇよ、そんな出番。
白狐: あ、そ…。残念だなぁ。
     ってちょっと、顔はダメいやぁーっ!!(脱兎)
メフィア: いっぺん死んでこいっ!

2009/05/22

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