■ P9 エピソード 再会 |
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「おかえり」 見慣れた、いつもの自室に戻ったラフィルを迎えてくれたのはベッドに腰掛けた白狐だった。 数時間前、ロクに説明もせぬままとある場所へと転移させられた時と変わらない、どこまでも明るい笑顔でにこりと笑う。 何も言えずにベッドの上、白狐の隣に腰を下ろすとその肩にそっと手が回される。 「…会えた?」 頷く。 「…そっか、良かった」 子供をあやすように優しく頭を撫でる白狐。 普段なら、むずがったり嵐を怖がる子供達にこうするのは彼女なのだが、今日は逆だ。 「…知っていたなら、教えてくれれば良かったのに」 愚痴とも八つ当たりとも取れる言葉がラフィルの口からこぼれる。 言いたいことも言えずに黙り込んでしまう彼女にしては珍しい。 「教えたら、行かなかったでしょ?」 頷く。 「でも。…絶対、会っておいた方がいいと思って」 白狐の身体に細い腕が回され、力が篭る。 その赤い瞳は白狐からは伺えない。 「…ボク、お節介だった?」 白狐なりに迷いもあったのか、自信の無い声。 「いえ。…会えて、良かったです。「ごめんなさい」も「ありがとう」も言えました」 「…そっか、良かった」 「あの人も… 「ありがとう」って」 白狐の手が優しく白い髪を撫でる。 とつとつと、独り言に近い速度でわずかな時間の再会を語る彼女を見る緑の瞳は柔らかく、どこまでも優しい。 もう、随分前の事になる。 自分が想いを寄せていること。 相手から想いを寄せられること。 相手には既に寄り添う相手が居たこと。 自分が相手に守られるしか出来なかったこと。 そのどれもに耐えられず、家出の様に相手の元から逃げ出したのは彼女の方だった。 少し、頭と心を冷やせば戻れると思っていたのだが、その間に相手は姿を消し行方不明となった。 ラフィルが原因の全てでは無いのかも知れない。 だが、彼女に分かる事実は実に少なく。真偽の程は闇の中。 探索の術はどれも程なく存在を見失い、記憶は薄れていく。 だが、あの時感じた後悔だけは当初と変わらぬ痛みで心を縛り続けていた。 「…全然、変わってませんでした」 ラフィルの声が、揺れる。 「…ずっと、好きでした」 絶対に面と向かっては言えなかった言葉。 再会した時にも、やはり言えなかった。 胸にしまいっぱなしの言葉が、ぽろりとこぼれる。 「…うん、そうだね」 白狐が頷く。その手は優しく背に置かれている。 ラフィルが相手とどんな言葉を交わしたのか、白狐は知らない。 だが、どんな顔で帰ってきたとしても笑っていようとだけは決めていた。 何も知らない顔で、全部知ってる振りをして… 「…言えなかった。 もう一つの言葉は、どうしても」 「…うん」 最後の言葉は、ここでもやはり言えなかった。 赤の瞳から、想いが溢れて頬を伝い、白狐の服にぽたりと落ちる。 零れた想いは呼び水となり、瞼を割ってあふれ出す。 ベッドに畳まれていた毛布がふわりとラフィルに掛けられる。 柔らかな肌触りと暖かなぬくもりに包まれた小さな世界の中で、ラフィルは涙をこぼし続けた。 夜が明けて、泣き疲れた彼女が目覚めるまで。 白狐はただ彼女の隣に添い続けていた。 |
突如失踪してン年間音沙汰無かったラフィル嬢のモトカレがひょっこり戻ってきた記念。 再会して帰ってきた彼女はきっと泣いたんだろうなぁ…。 とか思ってたらこんなのができた。 2010/03/28
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