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某月某日。 某所にて。
「あー、いたいた木霊ですー。おまたせしましたーv」
「全然待ってないですよー。ひさしぶりですー♪」
きゃっきゃと黄色い声とオーラを撒き散らしているのは二人のマスター。
いわずと知れたマスターの木霊と絵師仲間の一人、紅梨さんです。
「やーもーホントご無沙汰してます紅さん。ウチの息子どもの銀髪(小)が夜羽で金髪がタニア、銀髪その2がメフィアで、こっちの毛玉が天使君ですよー」
「だ、か、ら。その紹介はやめろって!」
「痛い痛い夜羽! ちょっ、メフィア銅線を構えるな死ねるから!」
「そのつもりだ、一度死ね!」
毎度のドタバタをBGMに木霊のPTを勝手に紹介しておきましょう。
読者の為でもありますしね。
申し遅れました。僕は先ほど毛玉扱いを受けました。精霊獣のアズ・リーアと申します。ちゃんとした人語は話せませんがマスターやピクシーの言っている事はちゃんと分かってるんですよ。
まずはエターニア(光・♂)金色の髪と青い瞳、少し無口ですけれど剣の腕はなかなかだと思ってます。危険を察知した時はちょっと怖いですけれど、よく僕と一緒にお昼寝してくれます。
そして夜羽(光・♂)銀髪に紫目。良く僕とかけっこしたり散歩に連れてってくれるのですけど、ちょっと早すぎて付いていけないことがあるんです。きっと彼をムードメーカーって言うんでしょうね。
最後にメフィア(闇・♂)銀髪に紫目。黒い翼まで夜羽さんと一緒なのに、無愛想で乱暴で態度が良くないんです。僕に対しても扱いが良くないんで、たまにお風呂の後の濡れた身体で飛びついちゃったりするんですけれど、嫌いなんかじゃないんですよ。本当にv
「…死ぬかと思った。じゃぁ自分で自己紹介ヨロシク」
あ、マスターの手に鋼線の後が…。メフィアって特定の相手には容赦ないんですよ。僕の事もよく蹴飛ばしたり尻尾を引っ張られたり…。
「えーと、夜羽っていいます。始めましてっ」
ぺこっと頭を下げてちゃんとご挨拶できてます。ついでに笑顔も完璧です。紅梨さん家の人達もきっと好印象ですよv
「…エターニア。 タニアって呼ばれてる」
タニアさん、注目されるの好きじゃないのかな。いつにもましてちょっと口数が少ないです。
「・・・。」
あ、メフィアさん。自己紹介する気なさそうですね。
「メジスと申します。始めまして」
緑の髪が可愛らしい人なんですけど、何故か僕のどこかが危険を訴えてます。尻尾がぶわって膨らんじゃってます。夜羽さんの後ろに隠れちゃえ。
「アベルといいます。よろしく」
意味ありげな笑顔と視線が僕にはとっても怖いですっ。夜羽さん動かないでくださいねっ。僕も動きませんからっ。
「ウィンダリアだ。リアと呼んでもいいぞ」
笑顔が不敵です。でも、さっきの人達よりは怖くないかな?左右で瞳の色が違うんですね。珍しいです。
「んじゃ、ちょっとオンナノコはお話があるから適当にしてて。アズは荷物番で」
あぁぁ、マスターとメジスさんが行っちゃいました。どうしろっていうんですか?
「まったく、困りましたねウチのマスターにも。僕は何も聞いていませんよ?」
「俺も聞いてねぇ。何をしろってんだコイツらと?」
「しかも初対面だしな。なぁ、お前らどのくらい強いんだ? しのぶ姉にケンカ売ったって本当か?」
リアさんがなんだかやる気マンマンです。ファイティングポーズまで取っちゃってますよ。
「月刃さんの所の? それはメフィアだけど。なんで知ってるの?」
「あそこの家とは知り合いだからな。という事でメフィアとやら、手合わせを願う!」
「断る」
容赦ないですねメフィアさん。そんな予感はしてましたけれど。あ、リアさんの肩がちょっと震えてます。怒るべき所は怒るのがいいですよ。
「まぁまぁ、リア。彼は万が一にでもリアに負けるのが怖いのですよ。それがたとえ手合わせであってもね」
後ろからぽんとリアさんの肩を叩いて口を挟んできたのはアベルさん。
「は? 誰がそんな事言った?」
「おや、違うのですかメフィアさん? でしたら是非ともその力を見せていただきたいのですが?」
「断る。見世物じゃねぇんだよ。手合わせなら夜羽かタニアに頼め」
「素手ならオレが行くよ。剣ならタニアだなっ」
そうですそうです、体術なら夜羽さんですよね。何度か剣を手にしてるのも見たことはありますけど。
「じゃぁ夜羽だ、行くぜ!」
リアさんと夜羽さん。タニアさんが離れて行った後も何故かアベルさんとメフィアさんがにらみ合ってます。
「何のつもりだ?」
「いえ別に。純粋に興味ですよ。出し惜しみするほどのモノなのか、という点において」
「ケンカ売ってるのか貴様は」
「それで君の力が見られるというのなら。僕も少し興味がありますからね」
あうあう、空気がどんどん険悪になっていってます。メフィアさんは明らかに不機嫌ですし、アベルさんは笑顔なんですけれどそれがまたメフィアさんの機嫌を逆撫でしてるんですよぅ。くわばらくわばら。
「面倒くせぇ。やる事が無いなら帰るぜ俺は」
くるりと身を翻して玄関に向かうメフィアさん。ついでに足元に居た僕を蹴飛ばそうとしていくのは止めて下さい。予想はしていましたから避けちゃいましたけど。
「そう寂しい事を言わないでくださいよ。マスターは戻ってこない、リアもそちらの夜羽さん達と遊んでいます。僕もヒマなんですよ」
「勝手にヒマしてろ」
「ですから、ちょっと僕に付き合っていただこうかと」
アベルさんの手がメフィアさんの銀色の髪にかかります。確かに触ってみたくなるんですよね。でも当のメフィアさんはその手を払いのけちゃいました。
「お断りだ」
「まぁ、そう言わずに」
変わらない笑顔のまま、アベルさんが再び手を出します。今度の手は硬く握られていて、風を切る音も聞こえそうです。
「断るってんだろ。それとも耳が遠いのか?」
「僕の都合の悪い事は聞こえない性分でして」
「イイ性格してるぜ」
「よく言われます」
繰り出される攻撃をお互いにかわしたり、受け流したりが続きます。そのうちに、メフィアさんの動きが段々荒くなってきました。普段こういう立ち回りは夜羽さんとタニアさんにまかせっきりですもんね。
「そろそろ終りにしますか?」
対するアベルさんは余裕たっぷりです。きっと僕たちのパーティと違って百戦錬磨なんでしょう。そもそもメフィアさんとは基礎体力が違うのかも。
「っせぇ。黙れ」
メフィアさんの手に闇の精霊力でもない、何かの力が灯ります。天使の僕に分かるのはそれがピクシーや精霊獣、島に棲む生物に取って良くないチカラだということだけです。
「ようやく見せてくれましたね。それとも、最後のあがきですか?」
離れている僕だって体中の毛が逆立っちゃうような力の中なのに、アベルさんはやっぱり笑顔です。この力の事を知ってるんでしょうか。それとも何とかする対策があるんでしょうか・・・?
「魅せてやるよ。昏い音に踊り狂え!」
黒い翼を不吉に羽ばたかせてメフィアさんが空を走ります。対するアベルさんの赤い瞳がすっと細められて、赤と銀色が交錯します。
「君の負けですよ」
アベルさんの、変わらない穏やかな声に僕は我に返りました。
アベルさんが手にしているのは赤いリボンで、それはアベルさんのじゃなくてメフィアさんが長い髪をまとめるのに縛っていたモノで。
メフィアさんがうっとおしそうに流れてきた髪をかきあげていました。
「クソが!」
「はいはーい、そっこまで。適当にしててとは言ったけど戦闘しろとは言ってないんですけど〜?」
あ、マスター達が帰ってきたみたいです。相当楽しい時間を過ごしたみたいですね。紅梨さんと木霊マスターを見ればすぐに分かっちゃいますよ。
「戦闘するなとも言われてませんでしたよ」
「それは確かに。でもウチの息子キズモノにしたらいくら大事な紅さんのアベっさんでも私怒りますよ〜?」
「それは失礼。以後気をつけますよ」
悪びれない顔でひょいっと肩をすくめるアベルさんの手から赤いリボンがひったくられます。
「じゃ、そろそろいい時間ですしご飯でも食べに行きませんか。皆で」
ぽむっと手を叩いて提案する紅梨さんの言葉につい尻尾を振っちゃう僕です。美味しい物が食べられるんでしょうかv
「そうですね。リア達を呼んで来ましょう」
そういってくるりと背を向けたアベルさんの背中に向かってメフィアさんが中指立ててましたけど…。僕は何も見てませんよっ! マスター達だって見てませんよねっ!?
「アズもお腹すいたか〜? 荷物番させてごめんね〜」
僕のアイコンタクトを勘違いしたマスターが僕を抱き上げて撫で回してくれます。違うんですけど確かにお腹は空きましたー。
「はいはい。じゃぁ行きましょっか紅さん。メジスちゃん何か食べたい物ある〜?」
これからご飯ですので、僕からの中継はここまでです。こんなパーティですけど、次は違うマスターの所に行くかもしれません。その時はまたよろしくお願いしますね。