ロミオ輪舞曲





「かーわーせー!」
 川瀬の部屋に入るなり、航平はおもちゃをねだるガキのようにじたばた始めた。
 早く見せろ、とそういうことだろう。川瀬はにやにやと笑んだ。
(コイツ、詐欺だとかのスーパーカモだな………)
 疑いとか、あんまりそういうのが頭にないのだ。川瀬が単純に、航平に親切してあげると思っているのだ。お互いにまだ単なる同じ部活に入ってるヤツってだけの立場だったとき、あれだけ川瀬にからかわれいじめられ続けた過去などしっかり忘れ去っている。
(全く楽しくってたまんないやつだなぁ〜)
 イヒヒと声が出ないのが不思議なぐらい愉快な気持ちになってくる。恋人になった今では、それがまたカワイクもあるのだが。………いわゆる、イジメ甲斐があるってやつである。ひーひー泣かせてやりたい。もちろん本気で泣かせたくはないけれど。
 川瀬は己のコートを脱いで椅子に掛けると、航平を見やった。寒がりな航平は制服の下にセーターを、その上にさらにコートを着込んでびっちりそのボタンを掛けている。
「それ、脱げよ」
 手を出して受け取ろうとする。が、急にもたもたとなった航平は上目遣いで川瀬を窺った。なんだか本能で危険を察知したのかもしれない。地震を予期するなまずみたいなものだ。
 川瀬は何にも魂胆はありませんよとばかりに、手を引いてみせた。
「お前暑くないのー? さっき、暖房入れたんだけど」
「………ん」
「それに、そんな着膨れしてたらコントローラー操作しにくくない?」
「んー、」
 納得したのか、中途半端に頷いて航平はコートのボタンを一つずつ外した。脱いだコートを受け取る。川瀬はそれをハンガーに吊るしてやる。
「あー」
 ふと思いついたように、川瀬は声を上げた。
「それも脱げ」
 自分も制服の上を脱ぎながらいう。暖房入れ過ぎかな−あちーなーとかぶつぶつ言ってみるのは、川瀬の芸の細かい所だろう。航平は頭を傾げながらも、しぶしぶ制服の上を脱いで川瀬に渡した。それも一緒にハンガーに吊るす。
(太陽作戦終了………)
 なんて、心の中で川瀬がほくそ笑んでいることなど航平は知るまい。
「なんか飲みモン持ってくるから、お前おとなしくしてろ」
 言い残すと、階下に下りて、台所でコーヒーをメーカーでおとす。ぽたぽた落ちていく雫が、芳しい匂いを放つ。待っている間に、航平用のジュースだとかポテトチップやらチョコを用意してやる。非常にマメマメしい川瀬である。「これから」を考えると、こういう面倒くさいことでも楽しくできてしまえるようだ。
 それらを持って階段をのぼっていくと、航平の唸り声が聞こえてきた。
(やっぱりな………思ったとおりの展開………)
 川瀬は内心の喝采を隠しきれない微妙な表情でドアを開いた。途端、航平から恨みがましい睨みを入れられる。
「川瀬〜、なんだよこれ〜!!!!」
 おとなしくしてろと言われておとなしくしているような航平ではない。必ず勝手にPS2を起動させてみるに違いないと考えていたら、見事にその通りの動きをしてくれている。しかしそんな航平の行動パターンをとっくに掴んでいる川瀬の事前の対処は万全だ。
「どうした?」
「………勝手にPS動かしたんだけど……それはごめんだけど、でも、川瀬うそつきだぁああ!!」
「だから、何が?」
 全部わかっていながら、川瀬はとぼけてみせる。うううううっと航平は口を尖らせた。そういう航平のガキ臭い=カワイイ仕草を楽しみつつも、何気ない感じでトレーを机に置くと航平の横に座る。
伏犠いないじゃん………」
 真横にぴったり川瀬が座ったのに警戒しないぐらい落ちこむ航平。少し罪悪感が湧いてくるが、川瀬はそのまま計画を続けた。
(ここで情けをかけたらダメだ)
「ああ」
 川瀬はなにやら気づいたみたいに航平に向き直った。身長差のおかげで、こうして並んで座って向かい合うと、どうしても川瀬が航平に覆い被さるような印象がある。航平もそんな状況に今ごろ気づいたように、はたと川瀬を見つめた。目が合うと、ばばばばっと赤くなる。今更そんなになるほど、航平は慣れてないのだ。そしてこれが、最大の問題なのだと思う。
(ショック療法って言葉もあるしな)
 川瀬はほんの少しだけ顔を前方に突き出した。意識的に逃げようと後ろずさる航平の腕を取る。………そんな怯えなくても、いきなり襲いはしないんだけど。安心させるように、川瀬は視線を外してやる。そして自分の見てるほうを見ろと、あごで促す。
「よく見てみろよ、メモリーカードささってないだろ?」
「………あー」
「たぶん兄貴が部屋に持ってったのかもな」
「なんだぁ」
 川瀬が普通の態度で居るのと、話題が「真三国無双」から逸脱してないこと、そしてそのセーブデータがちゃんとあることもわかり、航平は安心したようにほっと息をついた。けっこう近くにいる川瀬ににこっと笑いかける。
「取りに行ってやってもいいけど………」
 その笑顔にぐらぐらと理性やら本能やらをかき乱されながらも、なるべく冷静に川瀬は言をつなぐ。
「代わりにしてほしいことがあるんだけど」
「なに?」
 即応する航平。伏犠のためならなんでもすると、そういうことだろう。今はそういうエサを有効活用させてもらう。
 川瀬はさりげなく聞こえるような声音でズバリと切り込んだ。
「キスして」
「はあ!?」
 いつもの航平とは思えぬ反射速度で驚かれてしまう。だがしかし、そんなことで川瀬は揺らぎもしない。
「だから、メモリーカード取りにいってやるから、俺にキスしてって」
「ななななななんで!?」
 いつものごとく、耳まで赤くなって航平はどもった。
「なんでもなにも、航平と俺は恋人同士だろー。キスなんか当たり前なの。だから、しろって」
 
ほれほれと手招きする。
「ちゃんと、航平から俺にキスして」
 航平から、という部分にアクセントを強く加えてついでに目でもきっちり訴える。航平はわたわたとしだした。
「……ぇ、って………だって、俺、」
「ハイハイ落ちついて。………ちゃんと、航平からキスして欲しいの、俺は。それだけでしょー」
 容易く言ってのける。
「して」
 あとは待つのみ。あちこちに視線をふらふらさせて、さくらんぼみたいな色艶をした唇を幾度かかみ締めて、全身で緊張と少しだけ怒りとたくさんのドキドキを感じてしまいまくっている航平が、決意を固めてしまうまで。じわっと濡れた瞳を、川瀬に合わせてくれるまで。
 ようやく航平がキスしやすいように顔を傾けるまでには、たっぷり三分はかかっていた。
 極度の緊張のためか、息を荒くして。眼の下がぷっくりと腫れていた。
「………川瀬、する、から……」
 熱に上ずった声。省いている部分は伝わってきたけれど、川瀬はあえて航平を見つめ続けた。
(なんでそんなに切羽詰っちゃうかな)
 慣れさせないといけない。これはレッスンなのだ。決していじめてるわけじゃない。
 それが川瀬の免罪符。だからいくらでも意地悪になれる。
 目なんかつぶったりはしないのだ。
 きゅっと自分の目を閉じた航平が、ただ単に重なり合うだけのキスをして逃げようとしたなら、うなじを押さえてこう言うのだ。
「ちゃんと―――ちゃんとして」
 何をちゃんとするのか、ニブイ航平すらもこういう状況なら電撃的に伝わる。びくびく震えながらも、促されるままにマインドコントロールされてしまったみたいに川瀬に再度口付けた。今度は自分から舌を入れてくる。ちゃんと、する。拙くても、それでも航平からの初めての深いキスに川瀬は酔いしれた。おずおずと伸ばされた舌に、たっぷりと褒美をくれる。絡ませてその先端を舐めて、吸う。きつく快楽を与えこむ。
「……んぅ」
 耐えきれなくて、航平が舌を引こうとしても許さなかった。
 いつもよりもずっと乱暴に、いつもよりもずっと激しく大胆に、川瀬は航平を味わった。そして航平にも同じくらい自身を味あわせる。
 けれど終わりはさっぱりと。航平を抱きしめたりもせずに、あっさりと川瀬はキスをやめた。途端、大きく口を開いて激しく呼吸をしながら、それでも気力で文句を言おうとした航平に、
「では約束どおり―――」
 とやけにテンション普通めの口調で川瀬は立ちあがった。振り返りもせずに部屋から立ち去る。残された航平が呆然となるのは計算済み。
(……悩んでるだろーな……くくっ)
 一旦後ろ手で扉を閉めて、川瀬は押し笑いをもらした。
 なにせ、これだけの濃厚なキスをやらかして、川瀬がそれ以上のことを予感すらさせない態度を取ったのだ。いつもなら勢いに任せて逃げるのに、肩透かしさせられて、警戒してしまった分動揺は大きくなるはずだ。
 一人で真っ赤になって、悶々となっちゃってる航平。………すげーカワイイっぽい。
 手応えはきちんとあった。
 川瀬の勘違いでも合点外れでも絶対なくて、航平だってめちゃくちゃに感じまくっているのだ。で、それが猛烈に受け入れがたいってだけ。それなら、強引にでも航平を開眼させてやるだけだ。
 川瀬は兄の部屋の棚にあらかじめおいていたメモリーカードを取って、自室にきびすを返した。
 机とベッドの狭い隙間で呆然と口を手で覆ったままの航平を見て瞬間的に笑いそうになるが、ぐっとこらえる。
「待った?」
 ほんの一分ほどのことなのに、殊更にそうたずねてみたりする。航平はなんだかどんな風に振舞えばいいのかわらからなくなったみたいで、一人で赤くなったり渋面を作って見せたりとあたふたしている。「べっ、べつにっ!」なんて、何故か見栄をはって言うのもとにかく内心ばくばくしている証拠。
(キスだけで、こんだけ平静失ってるから、それ以上なんて考えられなかったんだよなぁ。なぁ、航平くん?)
 でも今日は違うぞー。
 容赦しないし、徹底的に普通の感覚を教えてやるのだ。
 川瀬は「これね」と言ってメモリーカードを航平に確認させると、にこりと笑って航平に告げた。
「PSに差してやるから、も一回キスして」
「えーーーーーーっっ!!」
「早く」
 言いつつ、川瀬は航平の真ん前に座った。。背はベッドにちょっと預けて―――顔だけ航平に向けた。
「来いよ」
 自分は動かずに、航平をこちらに引き寄せる。と、慣性のまま、航平は川瀬の両足の間に跪く形になった。その姿勢と「も一回キス」に航平は今にも泣き出しそうに、瞳を潤ませている。
(………だから、キスだけじゃん)
 上目遣いでこちらを窺う航平に、川瀬はぐしゃぐしゃと頭をなでてやった。その感触に航平は、もしかして今のは冗談だったのかなぁあああ!なんて、過分に期待でいっぱいのまなざしを川瀬に向けてくる。露骨な態度に、川瀬は一昔前と同じ位意地悪い気持ちになってくる。にやりと口の端だけ吊り上げた。
「あと5秒でキスしないと、このメモリーカード割ってやる」
「ぅえええ!?」
「……3秒」
「川瀬、まじでっ!」
 焦りまくる航平。川瀬の手が、メモリーカードの両端を握って、しかもその手首に力がこめられているのを見たからだ。ぜんぜん冗談なんかではなくて、川瀬なら本気でやりかねると悟ったのだろう。
 川瀬がラスト一秒のカウントを告げるべく口を開いた瞬間だった。
 半開きの川瀬の口の中に、甘い刺激が走った。
 跪いた両足をいっぱいに伸ばして、両の手のひらで川瀬の頬をつかんで、勢いだけで舌を入れてきたのだ。
 航平が! 自分から! 舌まで入れろと指図もされずに!
 確かにゲームの誘惑が後押ししていたからとはいえ、なんとも知れない勝利感を覚えてしまう川瀬である。
 されるがままに、自分からはまったく動かずに航平の好きにさせた。おぼつかない動きすらもいとおしくて、このまま押し倒したくもなるのだけれど。
 航平は一生懸命、川瀬にされたように舌の先を舐めたり、絡ませたりする。猫がミルク舐めてるみたいにぴちゃぴちゃ舌を使って―――その自分のやり方に酔ちゃったみたいに、ひたすらそれだけをはじめて。
(ちょ………やばい)
 いつのまにか、先のことを忘れてしまいそうになる。そのぐらい、航平はかわいくて。自分の下半身が異常に元気になってきたのがわかった。
 川瀬は慌てて航平を引き剥がした。口の端から唾液がこぼれて、ぼおっと意識を曇らせている航平に壮絶な色気を感じてしまう。
「あーーーー、いい、もう、全然合格」
 ミイラ取りがミイラになっては元も子もないのだ。これではいつもどおり、川瀬が一人で突っ走ってしまうことになる。
 その言葉でぽんっと覚醒した航平は、何気ない仕草で口端を拳でぬぐったりして、本当に罪なお子様である。無自覚もここまでくると犯罪だ。いまさらに自分の大胆な行動に頬を染められても、実は演技なのかとも勘繰りたくなってしまうではないか。
「………キス、これでも嫌?」
 めちゃくちゃに感じまくってるはずの航平にあえて訊く。
 生来の羞恥心がゆえこの態勢から早速逃げようとする航平の首根っこをいつものように掴んで、川瀬は自分の腕の中に航平を包んだ。
 恥ずかしさのあまり火照った航平の耳朶を唇の先で噛んでみる。と、すぐさま反応が返ってきて、航平に両耳を隠されてしまう。
「ゃ……川瀬のバカぁあああ!! 耳噛むなよー」
「こういうのも、大抵は普通なの」
「どこがだよー!!!!」
「恋人だから。やるの、どこでも普通大抵、がしがしキスもスキンシップするの」
「う、うそだぁあああああ!」
 本当は少しうそかもしれないが、川瀬は大まじめにうなづいて見せる。
「ま、まじでぇ??」
 自分の今まで抱いていた常識が否定されて戸惑う航平である。ここが勝負とばかりに、川瀬は言い募った。
「いいか、航平。俺とおまえはすでに付き合って一ヶ月だ。それでキスはやってるな。しかもすでにキスは普通っぽいな。お前からもできるようになったしな。しかし、裏返せばキスしかしてないだろ? そろそろ、次のステップに進まないとそれはおかしくないか? 歴史だって何だって時間とともに先へ進むものだぞ」
「ええええええ?」
「航平だって、現在が実は三国志の時代でしたっていうのはさすがに嫌だろー。どうせお前のことだから、立身出世する前に斬られてそうだしなぁ? つまり、世の中は巡っていくことが正解で、丸ごと収まってるってそういうことだよなぁ」
「………ぅ、うん」
 だんだんと航平では理解に数秒を必要とする言葉回しを重複させて、航平がまともに飲み込めないうちに話を展開させていく。これもまた川瀬のやり口のひとつだ。
「で、キスはどうだ? 嫌じゃないだろ? 感じただろ?」
 畳み掛けるようにたずねる。航平は勢いに飲まれてこくこく頷いた。
「よし。んじゃぁ、望みどおり、メモリーカードを差してやろう」
 川瀬は航平を片手で抱き留めながら、もう片方の手でメモリーカードをPSのスロットに差しこんだ。リセットを押して、再度「真三国無双2」を読み込み直す。期待に瞳を煌かせた航平の首がテレビ画面に向く―――のを、強引に戻した。
「見たい?」
 そりゃ見たいに決まってるだろうが、わかっていて川瀬は訊く。そこのあたりの意地悪はもう、川瀬の属性のひとつだ。
 がんばってキスを二回もしたし、感じるって告白までしたのにまだ見せてもらえないのかと航平は大分不服顔になる。ぷくんと膨れたほっぺが妙に肌艶がイイ。
(だからねー、航平くん、キス段階はもう卒業なの)
 膨れた航平の頬にちゅっと口付けた。途端なんとも言いがたく変な角度に眉根を寄せる航平。
「暑い」
 航平が文句を言う前に発言する。意味を取りかねてますます変な角度に眉を傾ける航平に、しっかりはっきりと勘違いしようもなく教えてやる。
「暑いから、シャツ脱がして」
 じゃないと、一生このまま抱きしめてやると脅しも付け加える。
 ………眉が途端に跳ね上がった。
「そそそそそそそんなの自分でやれよ!!!!!!!」
「だって航平抱きしめてるんだぜー、俺二本しか腕がないから、ホント、このままずっと抱きしめたままだよ」
「じゃ、じゃあ、腕離せよぉおおお!!! そしたら暑くないだろっ!」
「それは却下」
 航平の提案はいつでも却下される運命にあるのかもしれない。
「早く、して」
 暴れて逃げようとする航平を腕の中でなだめる。当然、航平が抗ってかなう相手ではない。真っ赤になって諦めて座り込んだ。その背中のほうから、「真三国無双」のオープニングデモの音楽が流れる。
「………そ、それだけで終わりなんだよな?」
 川瀬の腕にくるまれてちょこんと座り込んだ航平は「絶対絶対、それだけなんだよな」と念を押しまくる。これ以上、航平感覚で普通じゃないことはごめんだとそう言いたいのだろう。今だって、ぎりぎりで羞恥心を押さえているはずだ。爆発しそうな心臓を必死になってこらえているのだ。
 だが。
 いつもなら―――いつもの川瀬なら、「それだけで終わり」と言いつつ航平のかわいらしさと自分の欲情に負けて、勢いで航平を押し倒したりするかもしれない。もしくはもっと魂胆ありありで、なおかつその魂胆をばれないように「それだけで終わり」と口約束してしまったりもするかもしれない。
 けれど、そういうのはホントにもう終わり。
 次のステップに進まないと、だ。
 お互いに………ってか、航平にわからせてやんないといけない。
 川瀬は航平の目線にあわせてじっくりと見つめた。

「違うよ。今日はそれだけじゃない。ちゃんと最後までする。覚悟して」
 
 川瀬のシャツに伸ばされた航平の手がぴしりと固まる。
 最後まで、が何のことなのか、いくらなんでも航平ですら感じ取れてしまう。触れた背中がびくびく震えた。
「…かわせ………?」
 声まで緊張でかすらせて、航平はおずおずと川瀬に仰ぎ向いた。噛み締めたのか、下唇が真っ赤に熟れていた。
 それに癒すように舌を這わせる。唇だけ、舌先で舐めあげた。航平が「やぁ」とかうだうだ言うのも気にせず、その唇を全部濡らしてやる。ちらりと確認すると、ぎゅっと瞑った目から涙が一筋流れていた。ついでにそれも舌で舐めとる。
「航平、お前自分だけって思ってるだろ?」
 目元から唇を少しスライドさせて、耳のすれすれで囁く。
(無知なヤツだ)
 なんで、自分だけが心臓を爆裂させてるって思えるんだろう?
 お前はこんなにかわいくいとおしくて、何でずっと前からもっとちゃんと気づいてなかったんだろうって、こんなに舌打ちしたくなる気持ちを抱えているのに。もっと、もっと知りたいって欲望しているのに。
「ほら、ちゃんと俺の心臓触ってみ………」
 川瀬は宙に浮いた航平の手のひらを取り上げてそっと自身の胸元に置いた。
「な?」
 息を吹きかけるみたいに耳元で呟く。少し離れていても伝わるぐらいの航平の体温。
 押し付けられただけだった航平の手のひらが、ちゃんと意思を持って開いた。もっと何かを感じ取ろうと、その手のひらをきつく川瀬の胸に押し付ける。
「………かわせ、すごい」
「うん」
「めちゃくちゃどきどきしてる」
「うん、お前に……航平に」
 耳元から顔を離して、もう一度、航平に真向かいに顔を合わせた。
 真っ赤で、恥ずかしそうに俯きながらも、何か得心したような航平に。それは間違いじゃないって、伝える。
「お前がいるから、俺の腕ん中に……航平がいるから、すげーどきどきする。めちゃくちゃ緊張してるし、めちゃくちゃ航平が欲しいって、すげー今我慢してる」
 多分人生の中でも、一桁ぐらいしか言わないつもりのホントの本音。
 おちゃらけてもいないし、この言葉に魂胆なんか一つもない。だから、これを否定されたらおしまい。
 そんなことはあるはずないんだけど。
 でも、人生一番ってのは、けっこうイロイロ賭けてるんだ。
「航平が好き。航平が欲しい。だから、今日は我慢したくない」
 目を見合わせて、航平の網膜の裏の裏ぐらいにある真実を探り出す。
「航平が決めて」
 ほら、とばかりに川瀬は航平の両手をシャツのボタンに掛けさせる。さっきの続き。脱がせて………ってやつ。脱がせてくれたら、その先は、多分容赦しなくなる。
 航平は長いこと俯いていた。
 正面からでも頭の渦巻きが見えてしまうぐらい。ぴんぴんにはねた髪がしおしおになっているような雰囲気。
 ほとんど正座状態。川瀬の両足の間で縮こまってしまったジュリエット。
 悩んでるのは、川瀬が対立するモンタギュー家の息子っていうんじゃなくて、ただひたすらに男だから。
 気持ちを受け入れるのと、そこへ一歩踏み出すのはまた違った勇気。
 でも、それでも、やはりジュリエットはジュリエットだから、「なぜあなたはロミオなの」って感極まってみせてもそれでも選んでしまうのだ。
 航平はすっくと顔を上げた。顔はもう、それはもうぱんぱんに真っ赤に火照らせながら。

「俺、多分ホモかも〜〜〜〜〜」

 情けなさそうに言うのだ。
 世紀の大告白を、それはもうじわじわと一言一言ひねり出すのだ。

「………でも、それでもいいから。川瀬好き。川瀬が好き。川瀬が好きでホモならきっと俺ホモだし………仕方ないし……キスも好きだし………なんか、イロイロ体がよくわかんないことになってて、自分じゃよく全然ワケわかんなくなってきて………川瀬心臓ばくばくいってるし……、そしたら俺の体がもっとワケわかんない感じになってきて………こういうの、たぶん、川瀬の言ってるヤツなんだよな?」
 ほかの奴らにわからなくても、航平自身がわからなくても、それでもしっかりと川瀬にだけは伝わる言葉。
「俺が欲しい?」
 訊くというよりも、それは確認の言葉。
 航平の心臓がオーバーヒートしないかだけがひやひやするが、ぎりぎり反応を返してくる。
 ぶんぶん振り回さんばかりに首を振って。これ以上ないくらいに頬を染めて。

「じゃ、俺を脱がしてよ」
 川瀬の応答は、多分航平と同じ位の動悸のくせして、きっと根性で冷静な感じに響いたたかもしれない。
 もうそんな他愛のないことなんかどうでもいいけど。
 我慢なんかちっとも効きそうにないから、川瀬はまずは航平に深く深く口付けをした。

 メモリーカードが役に立つのは、それから実に三時間も経った頃だった。



ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜(><)
今、ここですぐさま誓います。ってか宣言します。
この続きを書きます。UPします。おまけって形で付け足します。
ホントはこの後続けて書こうかとも思ったんですが、あんまり長くなってもだし………
どちらかというとアマアマカップルな川瀬×航平の(マジもんの)濡れ場なんかみたくないって人もいやしないかとか考えまして、
非常にバカ裏切りな感じでここで切ってみました。
てなわけで、オマケ編をこの場で予告します。
でもまじやっちゃうんで、イメージ崩したくないよって人は読まないほうが身の為です(笑)。
(※おまけへは、下のリンクからどうぞ★←10/16作成終了)

ここまでお読みいただいて、本当にありがとうございますvv
江崎今回まじ苦労しました。多分初の「書けない」病に罹ってました。その上、パソは壊れたりするし。。
でも、なんかようやく霧を抜けた感じ。(って、別に成長したわけじゃありません。。)
まだまだ未熟者ですが、これからもよろしくお願いします。
(02 10.13)

中編<<    NOVEL     >>おまけ(注:18禁ですよー)




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