はき方
生まれたばかりの太一に光子郎はどうしようかと唸っていた。
言葉がまだまともに喋れない太一だが。
「このままじゃいけないよな…」
「こーしろー!」
タンクの中で泳ぎまわる太一の恰好のこと。
「…まあ、生まれたばかりだし…」
そう、太一は素っ裸、なのだ。
確かに生まれたばかり、服を着て生まれるほうがおかしいのだから、あたり前といえばあたり前だろう。
しかし、同性とはいえ、裸で泳ぎまわられると視線のやり場が困る。
「…とりあえず、下着だけでも…」
そう思って、光子郎は自分のパンツを持ってきた。
とりあえず、これを着させておいてその上で後で自分が幼かった頃の洋服を引っ張り出してそれを着させればいいだろう。
光子郎はそれじゃあとパンツをもって、タンクの上に上がると中の太一にパンツを渡した。
「それを着てください」
「…これ?」
不思議そうに首を傾げる太一に光子郎は頷いてタンクから降りた。
「これ、着るんだな?」
「はい」
問いかける太一に光子郎が頷くと、太一は嬉しそうに笑ってパンツを持ってしばらく悩んでいた。
それに光子郎は苦笑しながら、じゃあと太一の洋服を探しに古い衣服や道具をしまってある倉庫へと向かった。
「…結構あるな…」
丈に買い与えてもらった小さな衣服。それを取り出して光子郎は苦笑した。とはいえ、中に下着までちゃんとおいてあったのには自分の物持ちのよさに笑ってしまったが。
「…太一さん、こ・れ…」
倉庫から衣服を取り出して持ってきた光子郎はタンクの太一を見てただ、呆然とした。
そう、ただ呆然としながら、自分が太一が生まれたばかりであるということの意味をちゃんと分かっていなかったことに気付いた。
「こーしろー」
きゃっきゃっとはしゃぎながらタンクの中を泳いでいる太一。
だが、彼はまだ裸で。
いや、着ていることには着ているだろう、ただ、着る、というよりかぶる、という表現の方があっていた。
「…た、太一さん…」
「これでいい?」
にっこり笑って首を傾げた太一は凶悪なほど可愛かったけれど。
「…それ、かぶるものじゃないんですよ…」
「……?」
ただし、パンツを頭にかぶっている姿ではそれも半減、だった。
そう、太一はパンツをはく、という概念がなかったのだ。
それで思わずかぶってしまったのが真相だろう。
「…結構大変かも…」
この後、実際にパンツをはくところを見せるという行為に及ぶにいたって、光子郎は子育ての大変さを思い知るのだった。
「光子郎のと俺の違うー、変だー」
「これはこれでいいんです!変なとこ、見ない!」