ナンナ 結ばれる互いの気持ち

 

 

「…うっ…ううん…」
目をを開いた…天井が映った。日が差していた…
「…ここは…?」
ナンナが目を覚ました部屋は、今まで見た事が無い部屋だった…
彼女は周りを観察した。今、自分は部屋のベットに寝ていた。寝間着姿みたいだ。
「一体…」
ナンナは自分の状況を把握できずにいた…
そこに一人の少女が、ドアを開け入室してきた。
金髪の少女だった。
「あっ…お目覚めになられたんですか!」
見知らぬ少女が、彼女に声を掛ける。
「よかった…もう何日も目を覚ましませんでしたので、とても心配しました。」
自分に近づいてくる。笑顔で…
敵意みたいなものは感じなかった。
「…あなたは誰?」
当然の質問をする。ナンナは目の前の少女のことを知らないのだから。
「あっ…そうでしたね。すいません」
彼女は頭を下げて、興奮した自分を抑えた。
「私は、解放軍のシスター、ラナです。はじめまして!」
「解放軍…」
ナンナは少し考えてしまった。
「私…どうして…」
「よかった…もう何日も目を覚まさないから、心配だったんです。待っててください。今呼びに行って来ます。」
そう言うと、ラナは部屋から出ていった…

「…?…一体…」
ナンナは自分の置かれた状況を考えた。
敵ではなく、味方である解放軍のベットで寝ていた自分…
「私…もしかして…助け出されたの…」
ナンナはやっと、その答えに辿り着いた。
その時…

「ナンナ!!」
いきなり扉が開かれて、名前を呼びながら男が入ってきた。
そして…走り寄ってきて、ベットから上半身を起こしていたナンナを抱いた。
「!?」
「ナンナ…」
その男は、彼女が幼き頃より一緒にいた少年だった…
「リーフ…さ…ま…」
(…そんな…これは…夢?)
でも体から伝わる抱かれる感触が、夢ではないことを物語っていた。
(本当に…リーフ様…)
「リーフ様!!」
彼女も、思わずリーフに抱きついた。
「リーフ様…リーフ様!!」
もう会えないと思っていたリーフ様。
また会えるなんて…
「ナンナ…良かった…」
抱き合う二人…ラナはそんな二人を見ながら、顔を赤くしていた…
(良かったですね…リーフ様…ナンナさん…)

しかし…その幸せだった空間は不意に崩れた。
「うっ…ううぅっ…」
彼の胸に顔を埋めながら、ナンナは泣き出した…
「…?…ナンナ…」
リーフが泣き出したナンナに語りかけた。
彼女は、彼の胸から離れていった…
そして、顔を上げた…
大粒の涙を流すナンナがいた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「…ナンナ…一体どうしたの…」
やっと…また再会できた喜び…
その中で、彼女は思い出してしまった…
あの時…リーフ達と離れてからのことを…
薄暗い地下室で自分を襲った悲劇を…
顔を下に向け、彼女はつぶやいた。
「…一人に…してください…」
今にも消え入りそうな声だった。
「すいません…一人にしてください…」
「ナンナ!そんな…せっかく会えたのに…」
リーフがナンナに詰め寄る
「ごめんなさい…出ていってください…お願いです…」
「ナンナ…君は…」
なおも彼女に詰め寄るリーフを、ラナが引き留める。
「リーフ様…ここは、ナンナさんを一人にしてあげましょう…」
ラナが言う。
「…ラナ…分かった…」
リーフは、同意した。
「じゃあ…ナンナ、またあとで…」
「…はい…」
リーフの言葉に、ナンナは力無くうなずく。
そして、リーフとラナは部屋から出ていった…

彼らが出ていった後…ナンナは声を上げて泣いた…
「ううっ…うううぅぅぅぅっ…」
両手で顔を覆い、ナンナは泣いた。
色々な感情がゴチャゴチャになる。
辱められた自分。汚された自分。男たちの責めに悶えた自分。
男たちの陵辱された時の記憶が蘇る。
(あんなことに…なったなんて…いやだ…いやだ…)
やっとリーフに会えた。そのことはナンナにとって、とても嬉しかった。
でも、自分は汚された…
リーフに捧げたかった純潔を奪われ、敵の男たちに絶頂まで上り詰めさせられ、体中を弄ばれたのだ…
一体、どんな顔をしてリーフと話せばいいというのか。
汚れた自分がリーフと話しをする資格があるのか…
身も心も汚された自分が…
(私はリーフ様のことを思っている…それなのに…私は…)
ナンナは汚された。それは彼女にとって、裏切り行為と同じであった。
リーフと自分の気持ちに対する…
例え、彼女が望んだものではないとしても、事実は変わらない…汚された事実というのが…
その事実が、彼女を苦しめていた…
「うううっ…ひっく…ぅぅぅうう…」
ナンナは泣いた…ベットのシーツが涙で濡れていた…

「ナンナさん…」
ドアの向こうから聞こえるナンナの嗚咽を聞きながら、ラナはつぶやいた…
リーフもいた…
…二人は、ナンナがどのような目に遭ったかを知っていた…
リーフがナンナを見つけ、意識が戻らないナンナを、ラナがずっと看病していたのだ。
「ナンナさん…傷ついて…」
リーフが力なく、歩き出した…
「リーフ様?」
リーフは歩きながら、つぶやいた…
「…すべて…私の責任だ…そして今の私では…彼女を慰めることすらできない…」
「リーフ様…」
ラナは、リーフの背中を見送った。
(私は…無力だ…大切な人さえ、助ける術を考えられないなんて…)



ナンナの意識を回復したことは、解放軍の仲間達に喜びを与えた。
だが、彼女の悲劇を思うと素直の喜べる状況ではなかった。
合流した解放軍の仲間たちが見舞いに行ったが、彼女の顔に笑顔は浮かばなかった。
ナンナは、兄デルムッドとも再会することが出来た。しかし、それは彼女の母が、帰らないことを確認する事になってしまった。そのことがナンナの悲しみを深める事になってしまった。

「ナンナ…笑ってくれなかったね…」
ナンナを見舞ったセリスが、ラナと話していた。
「体の傷は治すことが出来ます…でも…心の方は…」
ラナは自分の限界を感じていた。
彼女は、ナンナの意識が回復しない間、ずっと看病していた。そして目覚めた後も看病を続けていた。その間、何度も話しかけたが、笑顔は浮かばなかった…
(私では…彼女の負った心の傷は治せない…私では…)
彼女自身、イザ‐クで帝国兵の暴行を受けた少女達に出会ってきたし、彼女自身も襲われかけたこともあった。その時はシャナンに助けられたが…
その当時、彼女は心に傷を負った人を助ける事はできなかった
(シスターに本当に必要なのは、魔法で傷を治すことじゃない。心を救うことなのに…それなのに…)
ラナは自分の無力さに呪った。
「どうしたら…」
「ラナ…これは私達だけで考えてもダメだと思う。みんなで協力して少しずつでも彼女の笑顔を取り戻していこう…」
セリスはラナに言った。出会ったばかりとはいえ、ナンナは既に同じ解放軍の仲間なのだ。セリスは仲間を救うために何とかしたいと考えていた。
「セリス様…そうですね。」
「私も、他のみんなに相談してみる。だから、ラナも自分だけで解決しようと思わないで。」
「…はい…分かりました…」
(セリス様は…本当にお優しい…)
ラナはセリスを潤んだ瞳で見ていた…





「うううぅぅっ!んっ…んんぅぅっ!!」
男たちがナンナを蹂躪していく…
騎乗位の状態で、下から突き上げ続けられた…
膣には男たちが放った精液が詰まっていた。今、突き上げている男も2回放っているが、抜くこともなく、萎えることもなく、ひたすら挿入を繰り返していた。
また、後ろからナンナに取りついている男が、その菊座に剛直を突き入れていた。
さらに…口にも男の物を含まされ、彼女は責め続けられていた。
彼女は既に疼きに身を委ねていた…
「むっ…うっぐっ…ううっ!」
「へへへっ…こいつは、何処も最高だぜ!」
「ああ…こんだけ男を悦ばせる体って、今まで見た事無いぜ!」
ナンナを陵辱しながら、好き勝手の事を言う男たち…
「ふふふっ…愉快、愉快…これだけ楽しめるとは思ってもいなかった…」
リーダーは心底、満足していた。
(う…そっ…また…ま…た…くる!)
混濁した意識の中で…
彼女は何度目かの絶頂の来訪が、すぐそこまできていることを感じた。
「うううぅぅぅ…んぐっ…うっ…ううっ!」
「へへへっ…またイクのかい?」
「存分にイキな…この雌豚騎士ちゃん!」
そう言って、さらに挿入を速くする男たち…
そして…
「うぐっ…うっ!…んんんうううぅぅぅぅっっっ!!!…」
彼女は、また上り詰めた…
男たちも、時を置かず射精した…

「っはあ…はあ…はあっ…」
ナンナは、騎乗位の姿勢で痙攣していた。口から精液をこぼしながら…
「まったく…本当に変るものですね。つい、この間まで男を知らなかったとは思えない…」
うな垂れるナンナを見ながら、リーダーは、ナンナに言った。
「これだけ汚れたのです。あなたに人並みの幸せを求める資格はありませんよ…」
宣告し、また男たちはナンナに対する責めをはじめた…
「いやああああぁぁぁぁっっ…」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!」
ナンナは飛び起きた。
「はあ…はあ…うっ…」
激しい息遣いをしていた。体は汗で滝のように濡れていた
「私……」
周りを見る。彼女が介抱されているベットの上だった。
(夢?…だったんだ…)
彼女は、夢と分かり安心したが、同時に悲しくもなった…
何故なら、彼女が見た夢は、現実に自分を襲った出来事の再生だったから…
彼女は…泣いた…
事実を再確認したからだ。
(そう…だよね…私…汚れたのよね…)
彼女の目から、涙がこぼれ出した…
この数日間…流し続けて…もう出ないと思っていたのに…
(…あの男の言う通り…汚れた私が…幸せを求める資格…無いよね…)
汚れた自分がリーフ様となんて…
(私が…女の子としての…幸せを求める事なんて…もう…)



数日後、状況が動いた…
コノートに撤退したブルームが、兵力の再編成を終え、攻撃を掛けてくるとの情報が解放軍にもたらされた。詳細は不明だったが…
解放軍は対応を協議した。
「今、レンスター城には、まともな戦力がない。敵の動きが分からない以上、いくらかの戦力を駐留させておく必要があるだろう。」
レヴィンが言う。
「確かに…今、解放したばかりのレンスターを落とされるわけにはいかない。戦力を送ろう。」
セリスも同意する。
「では、誰を送るかですが…」
オイフェが考える。
「私が行きます。」
リーフが前に出た。
「レンスターは我々の故郷。自分たちの手で守りたい。我々を行かせてください。」
リーフが熱く言う。
「私はレンスターに長くいました。地形も完全に把握しています。我々が適任でしょう。」
フィンもリーフに続く…彼にとって、三度も我が主の城を奪われるのは、さすがに我慢はできないだろう。
「分かった…それでは二人に…」
セリスが次に進もうとしたその時…
「待ってください。私も行きます。」
皆が、声のした方を向く。
ナンナだった。その姿は寝間着から、戦場のトルバドールのものに変わっていた。
「ナンナ!起きあがって大丈夫なのか?」
リーフがナンナに問いかける。
「はい、ラナの看病のおかげで体はよくなりました。ですから私も…」
「しかし…まだ病み上がりでは…」
リーフがナンナを気遣う…
「大丈夫です。この様にちゃんと動けます。」
体を動かして見せた。しかしその動きは、どことなくぎこちない。
「やっぱり…まだ無理なんじゃ…」
リーフはナンナの体に不安を抱いていた。
「大丈夫です!大丈夫ですから、行かせてください!お願いです。」
ナンナは強い口調で言う。何故そこまで…?
「…ナンナよ…行くがいい…」
レヴィンがナンナに賛成する。
「レヴィン?」
セリスが言う。
「ただし、お前の体調はまだ万全では無い。無理をするな。戦場で無理をすれば、それだけ仲間に負担を掛ける事になることを忘れるな。」
レヴィンはナンナに注意を促す。
「…分かりました…無理はしません。約束します。」
ナンナは頷いた。
「ナンナ…」
リーフは、まだ本当は連れていきたくなかった。
(また…ナンナを危険に晒すことになるのか…)


そして3人は、部隊を引き連れて出発した。
それを眺めるセリスとレヴィン…
「レヴィンが賛成するなんて…」
セリスが、疑問を投げつける。
「…早めに解決せねばならないからな…」
「えっ?」
意味深な言葉を言うレヴィンに、セリスは戸惑った。
「このままでは、二人にとって不幸だからな…どのような形でも、結論が出なくてはな…」



レンスターに向かう途中、リーフとナンナは一言も口を聞かなかった。
なぜか彼らの間には、見えない壁が存在しているように見えた。
「……」「……」
馬を並べながらも、彼らの間に会話は無かった…
(ナンナ…どうして…まだ無理なのに…)
リーフは、ナンナが何を考えているのか分からなかった。
ナンナは戦いの中で囚われ、敵に辱めを受けて、まだ間が無いのに…
怖くないのだろうか?戦いが…
あれだけ、心が傷ついているのに…
リーフには分からなかった。
ただ、もう危険なことにナンナを巻きこみたくない…
戦いから離れて欲しい…
とリーフは考えていた…
(私のせいで…ナンナにつらい思いをさせてしまった…このまま戦い続けたら、また、いつナンナを傷つけることになるかもしれない…)
リーフは、もう二度とナンナを傷つけたくなかった。
だから、今回は…安全な場所にいて欲しかった。
でも…
(もし…またナンナが危険な目に遭ったら…その時は…)

…絶対に…ナンナを守る…

それが…大切な彼女を助けられなかった…リーフのせめてもの誓いだった…



(でも…ナンナ…君は何故…そこまで…)
ナンナの顔は、何かの決意に満ちていた…

結局、二人はレンスターに着くまで、一言も口を聞かなかった…




アルスターのセリスのもとに、敵の情報が入ったのは、その数日後だった。
その情報は、コノート周辺を偵察していたフィーによってもたらされた。
敵は大きく分けて、2つに分かれて進行してきた。
レンスターに向かったのは、魔法騎士オーヴォ率いる騎馬隊であった。騎馬のみによる編成だったが、その数は、レンスターのリーフ達の戦力を遥に凌駕していた。
一方、アルスターにも敵が殺到しようとしていた。指揮官はシャガール王の生まれ変わりと噂されるムハマド将軍だった。アルスター北東の森林から、進行してきた。
これは、解放軍の戦力の劣勢を利用した二正面作戦だった。ブルームはこの作戦に残存戦力のほぼ全てを投入した。フリージも既に、後が無かったのである。
この事態に、セリスは決断を下した。
「私は、シャナン、ラクチェ、スカサハ、フィー、ユリア、ティニーを連れてアルスターに近づく敵を迎撃する。オイフェは、残る全部隊を引き連れて、レンスター救援に向かってくれ。」
「しかし…それでは、アルスターに接近する敵と相対するには戦力不足です。」
オイフェが意見を述べた。
「いや…大丈夫。フィーの報告によると、敵は方円陣を敷いている。これは森の中を進軍してくる中で、我々の奇襲を恐れているからだ。だから、我々は正面から全戦力をもって攻撃する。敵のほとんどは重装歩兵だ。まして森なら、正面に速やかに戦力を集中させることはできないだろう。その隙をついて一気に敵を突破し、中央の大将を討ち取れば勝てるはずだよ。」
セリスは見解を述べた。
オイフェとシャナンは驚いた。セリスは既に解放軍の盟主として、相応しき器を示し始めていた。これほどまで、成長が早いとは…
「だから…レンスターの救援に主力を投入する。オイフェ…指揮を頼む。」
「分かりました。セリス様。」
オイフェは了解した。
そして、解放軍は行動を開始した。



ムハマドとしては、用心をした結果の陣形だった。アルスター、レンスターの2つの拠点を守備しなくてはならない反乱軍としては、兵力を分散させるしかない。となると、反乱軍は少数の兵で迎え撃つことになる。小数の兵で勝機を得るには伏兵による奇襲しかない、とムハマドは考えた。そのため全方位からの攻撃に対処できるように、方円陣を敷いたのだ。確かに、反乱軍は兵力を分散させた。彼の予想通りだった。
しかし…解放軍はフリージ軍の陣形を完全に把握していた。空からの偵察により反乱軍に情報は筒抜けだったのである。それによりセリスは適切な作戦を立てることが出来たのだ。

セリス率いる解放軍は、正面からムハマド隊に攻撃をかけた。
ティニーのエルサンダーが火蓋を切った。
数人の兵がなぎ倒される。そこに解放軍が殺到した。
ムハマドは、正面からの攻撃に注意していなかった訳ではない。だが、思い切りのいい反乱軍の正面中央突破に意表をつかれたことも事実だった。彼は敵の作戦を読み取り、兵力を中央に集結させようとした。
しかし、解放軍の攻勢は凄まじいものだった。スカサハ、ラクチェの兄妹の活躍により、一気に戦線を突破した。フリージ軍は陣形の再編成を終える前に、突入を許す形となった。兵力集中を図ろうとしても、重装兵のため足は遅く、木々に阻まれ、一向に進まなかった。その間に解放軍はムハマドに迫った。バルムンクを携えたシャナンが一気にムハマドに迫る。それを阻もうと左右から兵が迫るが、ラクチェ、スカサハがサポートに回り、近づけさせない。ムハマドも槍を持ち、応戦しようとする。しかし、シャナンの実力と、バルムンクの力の前になす術もなく敗れ去った…
指揮官を失ったことにより、アルスター攻略部隊は壊走を始めた…
セリスの強攻策は成功した。
「見事だな…セリス…」
シャナンがセリスのつぶやいた…
「いや…これからです。レンスターの方が心配です。」
セリスは、北の空を眺めた…
「行こう!我々もレンスターに!」





レンスターでは、既に激戦が繰り広げられていた。
オーヴォは、数を頼りに猛攻を繰り返した。
それを、フィンが前面に立ち、防ぎとめる。
リーフ、ナンナも激戦の中に身を置いた。
「ナンナ!無理をするな!下がっていろ!」
リーフが叫ぶ。
「大丈夫です!これぐらい…」
ナンナは拒絶した。
戦いが始まってから、ナンナは戦場を駆け巡っていた。
剣を振って敵を倒し、杖をかざして味方の傷を治すのに奔走していた。
病み上がりの体で…
(無理をしているじゃないか!どうして…)
今のナンナは無理をしている。間違いなく。
どうして…そんなに…
それじゃ、自分で自分を危険に晒すのみたいなものではないか…

次第に、戦いは混戦の模様を呈してきた。
乱戦になれば、数で優る敵のほうが圧倒的に有利になってくる。
リーフもナンナも、敵の中に放り出された。


「ナンナ!退け!ここは、私が持ち堪える。」
光の剣で、敵のランスナイトを仕留めたリーフが叫ぶ
「大丈夫です!まだやれます!」
リーフの忠告にナンナは耳を貸さなかった…
今だに戦場にとどまろうとするナンナ
無理をしてまで…
そんな彼女を見て、リーフはついに怒鳴ってしまった。
「君は病み上がりなのだろう!無理せずに下がるんだ!本当にやられてしまうぞ!」
感情を爆発させたリーフ…
それに対して…
「いやです!私は戦い続けます!」
「いいから退け!!」
「どうして?…私はお側にいてはいけないのですか!」
「なっ!…何を言っているんだ!」
ナンナは…変だった…リーフから見て…。
「私は!…確かにリーフ様のお側にいる資格はないです…でも…でも…」
「!?…何をバカなことを…」
「だから…私は…戦って…あなたの役に立つことで…自分の居場所を…」
ナンナの目に涙が浮かぶ…ナンナは泣き始めた…
「ナンナ…」
「私は…私は…」
彼女は崩れた…

その時…
巨大な風の刃がナンナに向かって飛んできた!
エルウインドだった。
「!?ナンナ!…避けろ!!」
しかし、泣き崩れていたナンナは気づいていなかった。
「えっ?」
「クッ!」
跳躍してナンナの前に立ったリーフは、光の剣を掲げライトニングを放った。
正面から激突するライトニングとエルウインド…
しかし…いくら優性属性とはいえ、完全に相殺することはできなかった。
エルウインドは四散したが、幾つかの破片が飛んできた。
それはナンナの前に立ち塞がっていたリーフを襲った。
体中に小さな切り傷を作るリーフ。
「くうぅっ!くそっ!」
うめくリーフ…
「リーフ様!」
我を取り戻したナンナが叫ぶ。
リーフは傷ついたが、動きに支障は無いみたいだった。
彼は視線を上げる。そこには三人の女魔道士が立っていた…




レンスター守備隊は崩壊しつつあった…
フィンは部隊をよくまとめ、敵の鋭鋒を防いでいたが既に限界だった。
オーヴォは、この戦いの勝利を確信した。
彼は勝負をつけるために、後方に待機させてあった予備兵力を一気に投入しようとした。
その時であった…

ゴオォォォォォォォォ!!!
部隊内に三つの火柱が立った。
それに飲みこまれる兵士たち…
予想外の出来事に指揮官と兵は混乱した。

それはアーサーが放ったエルファイヤーだった。
アルスターの解放軍が来援したのであった。
フリージ軍の後方から襲いかかる解放軍…
オーヴォは後方に現れた敵を迎撃しようと、陣形を組替えようとした。
しかし、既にデルムッドが陣内に突入し、突き崩しにかかっていた。
たちまちフリージ軍は混乱のるつぼとなった…

その様子を見たフィンは、防御から一転、攻勢に転じた。
挟撃を受けるフリージ軍。
兵力的には優勢だが、既に組織的な動きはできなかった…
オーヴォは自ら敵を迎え討った。こちらに来る敵にエルサンダーを浴びせた。
ドゴ―――ン…
巨大な落雷により爆発が起き、土煙が舞った。
しかし、その煙の中からいきなり一人の騎士が飛び出してきた。
その騎士の存在を確認したオーヴォはもう一度、魔法を放とうとした。
しかし…
その騎士から一本の矢が放たれた。
それは鋭く、しかも正確だった。
オーヴェは魔法を放とうとしていた瞬間だったので、それを避けることはできなかった。
その矢はオーヴォの喉に命中し、彼は馬から転げ落ちた…

「見事だな。さすがウルの血を引き継ぐ者だ。」
デルムッドが彼に近づく…
「お前もな…敵に突入して、あれだけ早く切り崩せるなんてさすがだよ…俺には真似できない…」
レスターは馬を翻して答えた。
フリージ軍は総崩れとなった…


一方、その頃…
「うわあ!!」
「リーフ様!!」
リーフとナンナは窮地に追い詰められていた。
現れた三人の女魔道士はそれぞれ、炎、風、雷の魔法を使いこなし、リーフ達に絶え間なく魔法攻撃を繰り出していた。
リーフはなんとか敵の攻撃を避けることは出来ていた…
しかし…病み上がりのナンナは、まだ動きが鈍く、避けきれていなかった。
幾度かの攻撃の衝撃が彼女の体にダメージを蓄積させていた。
そのためリーフが彼女のカバーに回っていた。
ナンナを守り、傷つくリーフ…
「お止めください!リーフ様!私のことは気にせず、戦ってください!」
ナンナが叫んだ。
「バカな事を言うな!ナンナを見捨てられる訳ないだろ!」
魔道士達はこの会話を聞いて、ナンナに攻撃を集中し始めた。
さらに傷ついていくリーフ…
ナンナは既にまともに動けず、杖による回復も行えないほど消耗していた。
(そんな…私…リーフ様の足手まといになっている…)
ナンナはショックだった…
(役にも立てないだけではなく…足手まといになるなんて…)
ナンナは自分の存在意義が分からなくなっていた…
(…私は…本当に…最低な…)


3人の魔道士が三方に分かれた。
二人に対して止めを刺すつもりなのだ。
しかし…それは実行できなかった。

突如、一つの黒い塊が飛び出してきた。
そして、魔道士に向かってものすごい速さで迫った。
それは漆黒の鎧に身を固めた騎士…黒騎士アレスだった…
彼の存在に気づいた魔道士達は彼に向かって各々の魔法を乱射した。
攻撃魔法の雨がアレスを襲う…
しかし、まったくスピードを下げず、躊躇の無い動きで迫るアレスには命中しなかった。
いや、何発かは命中しているのかもしれないが、ミストルティンの魔力がそれを打ち消していた。
一気に距離を詰め、アレスは魔道士に襲いかかった。
すり抜けざまにミストルティンを一閃し、一人目を切り捨てた。
そのまま直進し、二人目に襲いかかった。
第二の標的となった魔道士は巨大な風の刃を作り、それをアレスに向かって放つ…
が、アレスは馬を跳躍させた。それで風の凶器を飛び越すと、落下しながら魔道士にミストルティンを振り下ろした。真っ二つになる魔道士…
最後の一人は恐怖し、背を向けて逃げ出した…
しかし、女魔道士は逃げることは出来なかった…
何処からともなく飛んできた手槍が、彼女の背中に突き刺さった。
魔道士達は全滅した。
アレスは槍の飛んできた方向を見た。
遠くからこちらに馬を走らす騎士が見えた…
フィンだった。
(あの距離から手槍を投げ、命中させるとは…)
アレスはフィンの実力を思い知った…
(さすが…大陸最強の槍騎士と噂されるほどの男だ…)
こと槍に関する扱いなら、フィンはこの広い大陸でもトップクラスだろう…

フィンはそのままリーフ達のもとに駆け寄った。
「リーフ様!!大丈夫ですか?」
フィンがリーフを支える。
「ああ!大丈夫だ。こんな傷、回復魔法ですぐ治る。二人とも、助けてくれてありがとう。」
リーフは大丈夫そうだった。
「それはなによりです。ナンナ、君は?」
フィンがナンナにもたずねた。だが、フィンはナンナに顔を見て、唖然とした。
真っ青だった…死人のような顔だった。
「ナンナ!何処がやられたのか?」
リーフがナンナに問うた。
「……大丈夫…です…」
本当に消え入りそうな声で答えた。
「しかし…」
「本当に…大丈夫ですから…気にしないでください…」
ナンナは立ちあがった。しかし、生気はなく、亡霊のようだった…
リーフは心配したが、確かに傷を負っているが、重そうな傷ではなかった。
「そうか…では、レンスターに帰還しましょう。」
フィンの発言に二人は同意する。
そして、レンスター城に戻りはじめた…

リーフは帰還の途中で、先ほどの戦いの中でナンナの言葉が気になっていた…
「どうして?…私はお側にいてはいけないのですか!」
「私は!…確かにリーフ様のお側にいる資格はないです…」
「だから…私は…戦って…あなたの役に立つことで…自分の居場所を…」
あの言葉…
リーフはナンナを見た。
相変わらず、彼女の顔色は重たかった…
(私は…ナンナを…苦しめていたのだろうか…)


三人の後ろにいたアレスは二人の様子を見て…
(まあ…分からなくも無いが…迂遠なものだ…)
と、思っていた…




夕刻になり、レンスター城に解放軍の全軍が集結しつつあった…
また、この日の戦いでパティの兄、ファバルが解放軍に参加した。
注)妹に説教された結果というのが、後に判明
ブリギットの息子である彼は、聖弓イチイバルを扱うことができた。
解放軍の戦力は確実に大きくなっていった…


その日の夕刻、リーフのもとに来客があった…
「リーフ王子、少しよろしいでしょうか…」
「デルムッド殿か…どうぞ、中へ…」
部屋で休んでいたリーフのもとにデルムッドが訪れた。
リーフは彼を中に招く。
「リーフ王子…傷の具合は?」
「もう大丈夫だ。ラナの回復魔法のおかげです。」
リーフとデルムッドは椅子に座った。
「それで…一体…」
「…妹の事です…」
内容は、リーフの今の悩みに関係するみたいだった。
「…先ほど…食事の時間に、アーサーやレスター、フィーと一緒にナンナを囲んで食事をしようとしたのですが…ナンナは逃げるように…席を外してしまって…」
「……」
「妹は意識が回復してから、確かに暗かったです。しかし…それでも今日のような態度はしなかった…今日なんて、まともに会話もせず、席を外しましたから…」
「……」
「…ナンナの態度が、あまりに変わってしまったので…リーフ様、なにかご存知ですか?」
(やはり…昼間の戦いのことか…)

リーフは戦っていた最中のナンナの様子を思い出していた。
ナンナは感情を爆発させていた。
あのようなナンナは見た事が無かった。
(もしかしたら…私は知らない間に…ナンナを傷つけていたのだろうか…)
リーフは不安に駆られた。
もしかしたら…自分の存在が、ナンナを…

「リーフ王子…なにか知っているのですか?」
デルムッドがリーフの様子を見て、尋ねた。
「なんでもいいです。教えてください。やっと再会できた妹です。このまま笑顔が見れないなんて嫌です。教えてください。」
デルムッドにとって、母親の行方がわからなくなった今、唯一の肉親がナンナなのだ。
妹を助けたい気持ちでいっぱいなのだろう。
リーフはデルムッドに今までのことを、話してみることにした。


リーフは今までのことを話した。
意識を回復させてからのことを…
無理をして、戦いに参加したこと…
そして、戦いの中でのことを…
デルムッドは黙って聞いていた。

「そうですか…そんなことが…」
話が終わった後に、デルムッドの口が開いた。
「…ナンナは…苦しんでいるのですね…」
「ああ…あれだけ敵に酷い事をされたのだ。彼女の心の傷は…」
「違います…多分…」
「違う?」
「はい…確証は無いのですが…ただ、これだけは言えます。妹は…ナンナは…リーフ王子を慕っています。特別な存在として…」
「えっ…」
「ナンナは…リーフ王子の事を愛しているのでしょう。」
「!?」
デルムッドの指摘にリーフは動揺した…
(ナンナが…私の事を…愛してくれている…?)
それは…リーフ自身も感じていたことかもしれない。だが、今まで深く考えることはしなかったのである。幼なじみの気持ちを…大切な人の気持ちを…
「…リーフ王子…お願いがあります。」
動揺しているリーフにデルムッドは続けた…
「リーフ王子…ナンナを助けください。」
「ナンナを助ける?」
「はい…他の誰でも無い、リーフ王子にしか出来ないでしょう。妹が慕っている人しか…」
「でも…どうすれば…」
「お互いの気持ちを伝え合えば、問題ないと思います…リーフ様の気持ちを……正直に言えば…」
「私の…気持ち…」
リーフは自分の気持ちについて、よく考えた事はなかった…
(私は…ナンナの事を…どう思っているのだろうか…)
大切に思っている。これは間違いない…
だが、そこから先のことはよく分からなかった…
幼なじみでとしての感情しか持ってないのだろうか…
「……リーフ王子が妹のことを、どう思っているのかは分かりません。でも、正直な気持ちを伝えて欲しいのです。じゃないと…もっと傷つくと思うので…」
「……」
「……すいません、差し出がましい事言って…俺なんかが分け入っていい話ではないのに…」
「いや…デルムッド殿の言う通りだ。ナンナに悲しみを与えたのは私のせいなのだし…とにかく…ナンナと話してこようと思う…私になにか出来るかは、分からないが…」
「お願いします!リーフ王子…」
そう言って…デルムッドは部屋から出ていった…

(私は…ナンナを…どう思っているのだろう…)
リーフは悩んでいた…


リーフはその後ナンナを探した…
部屋に行ってみたがいなかった…
食堂に行ってみた。パティとティニーが二人で何かをしていた…
「多少形が悪くても大丈夫!味には関係ないから…」
「こんな感じで…いいのでしょうか?」
どうやら…パティがティニーに料理を教えているみたいだ…
「うん!上出来よ。これなら、良い奥さんになれるわよ。」
「そんな…奥さんだなんて…」
「あはは…ティニ―の顔が赤くなった!」
パティの笑い声が聞こえた。
(戦いの最中だけど…微笑ましいな…)
リーフはその光景に、心が和んだ…
そして…
(ナンナにも早く元気を取り戻して欲しい…そして仲間のみんなと笑い合って欲しい…)

(そのためにも…私が頑張なければ…)



リーフはナンナを探し回った…
そして、ナンナがレンスター城の外に出かけたとの話を、門番から聞いた。
リーフもナンナを探しに外へ出かけた…



ナンナはレンスター城から少し離れた小高い丘の上で草むらに座っていた。
ナンナは一人になりたくて、ここにきた…
城にいると…優しい仲間達が、心配して話しかけてくるから…
それは嬉しかったが、逆につらい事でもあったから…

「…ナンナ…ここにいたのか…」
聞きなれた声に…ナンナは振り向く…
リーフが立っていた…
「探したんだよ…ナンナ…」
「リーフ様…どうして…ここに…」
ナンナは疑問を口にする…
「ナンナを…探しに来たんだ…」
答えたリーフの顔は…なぜか赤かった…
「私を…」
リーフは頷いた。
「少し…話があるんだ…となり…いいかな?」
…ナンナは怖かった。今、二人きりになるのが…
きっと…話というのは、ナンナが恐れている内容の物に違いないから…
「…ごめんなさい…疲れていますので…今日は…」
と言って、立ちあがり…背を向けて帰ろうと…いや、逃げようとした…
「ナンナ!お願いだ…話を聞いてくれ。」
「ごめんなさい…リーフ様…」
彼女は歩き出した…
そんなナンナを見て…
「ナンナ!いつまでも…そうやってみんなから避け続けるつもりなのか…」
ナンナの足が止まる…
「君のお兄さんが言っていた…みんなが食事に誘っても、逃げてしまったって……」
「……」
「最近のナンナは変だ!君が苦しんでいるのは…私も…他のみんなも知っている。…それなら…苦しんでいるのならどうして誰かに相談したりしないんだ。私や…他のみんなでは頼りにならないのか!」
「違います!そんなことは…思っていません…この解放軍の仲間たちも、リーフ様も信頼しています…」
「…だったら…なぜ…」
ナンナがうつむく…何も喋らずに…
「…あの事を…気にしているのか…」
リーフが…切り出した。
「あの事が…君をどれだけ傷つけたのかは…私には推し量れないだろう…でも…そのままではいけないと思う…少しでも、忘れる努力をしなくては…」
「…事実は…消えません…」
リーフの言葉を…ナンナは遮った…
「あの時の事は…汚された…事実というのは…なくなりません。例え私が…そのことを、忘れてしまったとしても…」
「ナンナ…」
ナンナは淡々と話した。
「でも…私が、本当に…本当に…悲しいのは…そんなことではないのです…そんなことでは…」
リーフは黙って聞いていた。
「私は…最低な…女…なんです…」
「なっ…何を言っているんだ…最低だなんて…」
「本当に…最低…なんです…」
涙声になってきた…
「私は…リーフ様のことを…お慕いしています。」
ナンナは顔を合わせずに…告白した…
「私は…リーフ様のことを…お慕いしていました…ずっと…それなのに私は…敵に囚われた時に…敵に男たちに、純潔を…奪われました。それから…男たちに…好き勝手に犯されたのです…そして…そして…男たちの責めに…私の体は…快感の悲鳴をあげたのです…本当に…最低です…」
「そんな…だって…そんなこと…ナンナは被害者じゃないか!別に…自分を貶めることなんて…」
「さっきも…言いましたけど…事実は…変わらないんです…汚され、男たちを…受け入れた事実は…」
「……」
「…こんな…私が…汚れた…私が…リーフ様の…お側にいる資格はないと思いました…」
「そんなこと…関係ないだろ!私は…」
「だって…どんな顔をして…リーフ様のお側にいればいいのですか!こんな…私が…」
「……」
「だから!私は…戦士として…騎士として…せめて戦いでお役に立てればと思い…頑張ろうとしましたが…それもできず…それどころか…リーフ様を危険に晒してしまうなんて…」
「……」
「汚されて…堕とされ、戦いでも役に立たず、しかも…みんなに心配をかける…本当に…本当に…最低な女なんです…」
リーフは…何も、言えなかった…
ナンナは泣いた…リーフの目をはばからずに泣いた…



そんな二人に…近づく一つの人影があった…

リーフはその影に気づいた…
「誰だ!」
リーフが影に話しかけた…
月の光が…影を照らす…
…その影は…女性だった…
凛とした…美しい顔立ち、透き通った目、夜風に靡く煌びやかな銀髪…そして羽織っているローブの中から垣間見せる、しなやかな体…およそ女性としての美しさを全て持っているように思われた…

「…貴方たちは…反乱軍だな…」
その女性が口を開いた…美しい声だった…
しかし…その声には…抑揚がなかった…
「…そうだ…」
リーフは…心に警鐘がなっていながらも、答えた…
ナンナも、感情が静まっていなかったが、突然の事態に警戒をした…
「…そうか…なら…」
女性は…右手を…ゆっくりと上げていく…
「…死んでもらう…」
突然…彼女の右手が光を放った…
その瞬間…二人の周りの空気が…強烈な電気を帯び始めた…
「!?」
リーフは咄嗟に危機と分かり、反射的にナンナを抱え、飛んだ!
その数瞬後、彼らのいた地点を中心に、巨大な球形の雷の塊が現れた。
雷のあまりの密度と巨大さに…周囲は昼になったように照らされた…
「うわああぁぁっ!」「きゃあぁぁっ!」
なんとか直撃は避けられたが、発生時のエネルギーと、雷球の断片が衝撃波となって二人を吹き飛ばした。
ナンナを庇う形で、リーフは地面に叩きつけられた…
体に鈍い痛みが走ったが…そんなことにはかまってられず、すぐに二人は立ちあがり、剣を抜いた。
「くっ…もしや…今のは…」
リーフは、今の魔法を見た事がある…
そう…アルスター攻略の時に…
「ほう…私のトールハンマーをよけるとは…大した物だ…」
女性は…表情も、口調も変えずに言った…
「トールハンマー!…貴方は…一体…」
ナンナが問いかける。


「私は…イシュタル…雷神と呼ぶものもいるが…」


「…イシュタル…だと…」
イシュタル…ブルームの娘で、トールハンマーの正当な後継者。
あまりに、雷の魔法を上手く使いこなすので…雷神との異名を持つ魔道士だ。
また…才媛としても知られ、兄のイシュトーと共にその優秀さを称えられた女性だった…
リーフは…背筋が凍った…
(…イシュタルが相手とは…くそっ…今の私では…)
リーフは自分の実力が、目の前の敵には通用しないことを感じていた。
だから…
「ナンナ…逃げろ…」
「リーフ様!」
リーフはナンナに言った。
「君はレンスターに戻り、みんなにこの事を知らせるんだ。ここは私が食いとめる…」
「そんな…リーフ様…無茶です!」
「イシュタルを…レンスターに行かせるわけには行かない…だから…」
「嫌です…いやあっ!リーフ様を置いていくなんて…」
リーフはなんとかナンナに逃げて欲しかった…
本当に危険な相手だから…
「何をしている…いくぞ!」
イシュタルが再び、トールハンマ―を放とうとした。
「ナンナ!行け!」
ナンナに叫ぶと、リーフは振り向きざまに、イシュタルに向かって光の剣を向けた。
ライトニングが放たれる。イシュタルに向かっていく…
イシュタルは特に反応せず、ただ左手を前に出した。
刹那、彼女に直撃しようとしたライトニングが四散した。
激しい爆発が起きる。
しかし、その爆発の向こうから、リーフがイシュタルに向かって跳躍した。
「ウオ――――――――!!」
リーフはイシュタルに必殺の一撃を浴びせようとした…
しかし…イシュタルはそれを静かな目で眺めていた…
避けようとはしなかった…
(なぜ…避けようとも…しない…)
リーフは気づかなかった…
自分の危機を…
リーフの周りの空気が…ビリビリしはじめた…
(しまった!)
イシュタルは…自分のすぐ目の前にトールハンマーを出現させようとしているのだ。
しかし…自由落下しているリーフには、それを避ける術はなかった
(ダメだ…ナンナぁ――!)
彼は…死を覚悟した…

ビリイイイイイイイイイイイイイイイ!!!
トールハンマーが炸裂した…
イシュタルの目の前の地面が、半球状にもぎ取られた。
何も残っていなかった…
「…なるほど…」
イシュタルはつぶやいた…

「…………?」
リーフは…目を開けた…生きていた…
そこは…トールハンマーの放たれた場所とは、遠く離れていた。
「リーフ様!大丈夫ですか?」
ナンナが倒れているリーフを助ける。
「ナンナ!逃げなかったのか!」
リーフは立ちあがる。
「はい…やっぱり…私…リーフ様を置いてはいけません…」
「…今のは…ナンナが助けてくれたのか?」
「はい…私が…リターンの魔法で…」
ナンナは、リーフがトールハンマーに飲み込まれる寸前に、リターンの魔法で彼を自分のもとに呼び寄せたのだ。そのためトールハンマーを避けることができた。
「ナンナ…ありがとう…君のおかげで助かった…」
「そんな…私は…」
ナンナは…リーフを助ける事ができて、とても嬉しかった…

「私の…トールハンマーを2度も避けるとは…大した物だ…」
イシュタルが近づいてくる…
「しかし…ここまでだ…二人とも死んでもらう…」
イシュタルは、その内に秘めた魔力を増大させた。
あまりの魔力に、周囲に衝撃が走る…
「…ナンナ…相手は本当に強い…だから…もう一度言うけど…逃げて欲しい…」
「嫌です。一緒に戦います…」
「お願いだ…逃げてくれ…私は…ナンナをもう…危険に巻きこみたくないんだ…」
「リーフ様…そんな…こと…」
「…私にとって…ナンナはとても大切な存在なんだ…本当に大切な…それなのに、私は…あの時、君を一人で行かせ、つらい思いをさせてしまった。本当に…最低な男だ…だから…私は誓ったんだ…君を守るって…だから…何があっても…ナンナを守る!!」
…ナンナは…耳を疑った…
(そんな…私なんかのために…そこまで言って下さるなんて…)
ナンナにとっては…あまりにも嬉し過ぎる言葉だった…
「だから…逃げて欲しい…頼む…」
「……なら…なおの事…私は…逃げる事はできません」
ナンナ…リーフを見つめて、言った。
「私は…さっき…申しましたよね…リーフ様をお慕いしていると…私はリーフ様のお側にいたいんです!…私は…自分だけ生き残って、リーフ様を失うなんて嫌です!」
「ナンナ…」
「だから…リーフ様お一人を行かしはしません…私も戦います…リーフ様のお気持ちは嬉しいですが…リーフ様が…私を守ってくださる気持ちと同じように…私も…リーフ様を守りたいのですから…」
リーフとナンナは…お互いの気持ちを確かめ合った…
(ナンナも…私も…気持ちは一緒だったのか…)
自然に、リーフの中に力が沸いてくる。
今、リーフも、ナンナもこの目の前の大事な人と、とも戦い、ともに生きて帰ろうという気持ちにあふれていた。
「分かった!…では…ナンナ…一緒に戦ってくれるか…?」
「ハイ!リーフ様!」


イシュタルは…そんな二人を眺めていた…
少し…悲しみが入った目で…
(…何を考えているの…羨ましいだなんて…)


二人はイシュタルに剣を向けた。
「イシュタル!行くぞ!」


リーフとナンナは二手に分かれた。
イシュタルから向かって、右手にリーフ、左手にナンナ。
二手に分かれて、イシュタルに接近してくる。
イシュタルは、リーフにトールハンマーの照準を合わせた。
しかし、その前に…
ナンナが大地の剣を掲げ、イシュタルにリザイアを放った。
イシュタルは、左手でそれを防ぎ、右手でリーフに向かってトールハンマーを放った。
リーフにトールハンマーが命中した…はずだった…
「くそっ!またリターンか!」
リーフは、またナンナにリターンの魔法で転移していた。
イシュタルがリーフにトールハンマーを放ったうちに、ナンナはイシュタルに肉薄していた。
「男が囮か!」
イシュタルに剣を振り下ろすナンナ…
しかし…イシュタルは横に飛び、それをかわした。
見事な跳躍だった。イシュタルは運動神経も優れていた。
イシュタルは、ナンナとの距離を跳躍でかせぎ、今度はナンナにトールハンマーを放とうとした。
だが…
「もらった!」
先ほど、転移したリーフがイシュタルの横に迫っていた。
彼女はリーフを外した後、ナンナに注意を向けすぎていた。
「しまった…」
トールハンマーを放つ直前のイシュタルには、避ける術は無かった…

ザシュ!!!

リーフの剣はイシュタルを捉えた。
それでも、イシュタルは僅かに体を逸らし、左手を盾にすることで、致命傷にはさせなかった。
イシュタルは…左の肩から切られた。
激しい出血が起きる。
「くっ…やられた…」
リーフはイシュタルに止めを刺そうとする。
イシュタルは…死を覚悟した…
(ユリウス様…私…)
しかし…その瞬間、

(お前を失うわけにはいかない…)

その声が、イシュタルの頭の中に響いた瞬間、イシュタルは消えた。

リーフの剣が空を切る…
「何!?何処だ!」
リーフは周りを見まわした…しかし、イシュタルは消えていた…


「リーフ様!」
ナンナが掛けよって来る。
「ナンナ…」
リーフもナンナを見る。
「イシュタルが消えた…これは一体…」
「分かりません…でも…どうやら、私たち…イシュタルに勝てたみたいです。」
「勝てたのか…あの雷神に…」
その瞬間、リーフも、ナンナも力が抜けてしまった。
「二人とも…生き残れたんだな…」
「はい…リーフ様…」
「これもナンナのおかげだ…ありがとう…」
「そんな…私なんて…リーフ様の力が無かったら…」
「いや…私一人の力なんて…たかが知れている…今回の戦いでそれが分かった…」
「……」
「だから…ナンナ…お願いしたい…ずっと…私の傍にいて欲しい…そして…私を助けて欲しい…」
そう言うと、リーフはナンナを抱いた…
「リーフ様…」
「そして…私は…ずっと君を守っていく…いつまでも…」
ナンナは泣き出した…リーフに胸に顔をうずめる…
「本当に…本当に…よろしいのですか…私のような…女で…」
「…ナンナでなければ、ダメなんだ…私の人生を…共に歩んでくれる人は…」
「そんな…私…私…」
「これからは、嬉しい時も、悲しい時も一緒にいよう…ナンナ…私は…君を愛している…」
「リーフ様…私もです…リーフ様を…愛しています…」
見詰め合うリーフとナンナ…
どちらからでもなく…顔が近づいていく…
そして…唇が…重なり合った…
月の光が…二人の影を…浮かび上がらせた…
その影が…一つになり…倒れていった…





「…リーフ様…恥ずかしい…です…」
ナンナは今、草むらに体を横たえていた…
既に…その体は…服をまとっていなかった…
ナンナが両手を顔に当て、恥ずかしそうにしている…
「恥ずかしがる事なんてないよ…綺麗だよ…ナンナ…」
月に照らされた彼女の体は…神秘的な美しさに満ち溢れていた…
「私の体…汚れてなんか…いませんよね…」
ナンナはやはり、まだ、あの事を気にしているみたいだった…
「汚れてなんかいないさ…とても…美しい…」
リーフは、彼女にもう一度…キスをした…
「うっ…ううん…」
舌を絡ませあう二人…
その光景は…とても、妖艶なものだった…
リーフは…その右手を…ナンナの胸にもっていった…
当てられた瞬間、ナンナの目が開かれた…
当てられた手は…最初は、その肌の感触を楽しむために…ただ、さするような感じで…動かされた…
ナンナの体に…刺激が走る…
しばらく、その行為を繰り返すと…今度は指を使い、彼女の胸を揉み始めた…
大きくはないが、形がよく、豊かな弾力に恵まれていた乳房が、妖しくその形を変えていく…
「んううっ…うっ…」
キスをしているナンナには、その刺激に声を上げる事はできなかった…
胸を揉みまわすと同時に、時々、その頂点を責めてみる…
指で転がし、2本で挟み、擦ってみる…
「うううんん…ううっ」
ナンナは…心地よい刺激を感じていた…
リーフはディープキスをやめ、彼女の口を解放した…
「あはっ…はあ…はあ…」
彼女の声には、既に熱いものが混じっていた…
「ナンナ…可愛いよ…」
リーフは口を彼女の胸にもっていき、その胸を舐め回し始めた…
全体的に…周囲から舐めていき、徐々にその中心に近づいていく…
「あっ…んっ…は…」
そして、リーフの舌は…乳首を舐め始めた…
既に突起している乳首を、舐めあげるように責める…
「ああんんっ!あはっ…ううっ…」
口に含み、口内全体で刺激も与えたりした…
彼女の乳房が、唾液で妖しい光を放つ…
リーフは…右手と、口で彼女を胸を責めた…
そして…左手を…彼女の股間に持っていく…
「!?…リーフ…様…」
彼女の秘所に触れてみる…
既に、濡れていた…
「ナンナ…感じてくれているんだね…嬉しいよ…」
リーフは…秘所に置かれた手を動かし始めた…
中指で花弁の周りをなぞる…
時には、指を挿入したりもした。
中で…掻き回すように蠢く指…
「あああうううんんぅぅぅ…はあ…ああんっ…」
乳房と秘所を同時に責められるナンナ…
快楽が、うねりのように押し寄せてくる…
苦痛はなかった…
それは…リーフが…細心の注意をはらってナンナを感じさせようとした、努力の結果だった…

…少しでも…ナンナを感じさせてあげたかったから…
…少しでも早く…ナンナにあの悲劇を忘れて欲しかったから…
…本当に…ナンナが…愛しかったから…

リーフは顔を…秘所の前にもっていった…
「いや…恥ずかしい…そんな所…見ないでください…」
ナンナの顔が真っ赤になる…
リーフは…彼女の花を見ていた…
「綺麗だよ…ナンナ…」
「そんな…事…言わないで…」
「本当だよ…」
そう言うと、リーフは股間に顔を埋め、口で秘所を愛し始めた。
「!?…い…はあぁああ!…」
強烈な刺激にナンナは声をあげる…
リーフは彼女の秘所に溢れる蜜を味わうとともに、舌を挿し入れ、襞を丹念に舐めまわした…
「ああぁぁぁ…っはあ…うううぅぅはあっ!…」
悶えるナンナ…
「もっと…感じていいんだよ…ナンナ…」
右手を再び、ナンナの左胸に当て、揉み始める…
先ほどより…少し強めに…
「…はあぁぁぁっ…あんっ!…んは…」
左手は…彼女の花芯を弄りはじめた…
指で擦るように…責める…
「んんんうぅぅぅぅ…いっ…あはっ!…」
リーフの愛撫に…少しずつ…燃えあがるナンナの体…
もう…ナンナには…とろけるような快感の渦に飲み込まれていた…
「ううはぁああ…あんっ…はあぁぁぁぁ…あっああん…」
ナンナは…ひたすらに…声を上げ続けた…


「ナンナ…」
「リーフ様…」
リーフは…顔を上げ、ナンナの顔を見た。
熱く、潤んだ瞳でリーフを見ているナンナ。
二人の視線が重なる…
「ナンナ…もう…いいかい?」
リーフは控えめに聞いた…
「リーフ…様…」
しばらく…うつむいて…
「…お願いします…」
ナンナは承諾した…
頷くリーフ…

リーフは…いきり立った自分を…ナンナの花に当てた…
「…いくよ…ナンナ…」
目を閉じ、黙って頷くナンナ…


リーフは少しずつ…腰を進めた…
剛直が進入を開始する…
「……うっ…」
ナンナは…自分の中に入ってくるリーフを感じていた。
挿入を受け入れていく…ナンナの秘所…
何の抵抗もなく…
そして…ついに…リーフの全てを…ナンナは受け入れた…
「ナンナ…入ったよ…」
しかし…ナンナは答えなかった…
「ナンナ?」
「ううっ…ひっく…うう…」
ナンナは…泣いていた…
「どうしたの?ナンナ…」
リーフが心配そうに尋ねる…
「いえ…やっぱり…私…処女じゃ…なかったんですね…」
「…ナンナ…」
「私の…処女…リーフ様に…差し上げたかった…」
今のナンナは…罪悪感に苛まれていた…
自分の最愛の人に、処女を捧げられなかったナンナの悲しみ…
ナンナにとって…それは、とてもつらい事だった…
そんなナンナに…リーフは言葉を掛ける…
「ナンナ…私には、君の悲しみを…忘れさせる事はできないかもしれない…だけど…私は…ずっとナンナの傍にいる…ずっと…ナンナを愛し続ける…ナンナ…君の悲しみも…私は…一緒に受け入れる…だから…もう…悲しまないでくれ…」
「リーフ様…」
「…ずっと…そばにいるから…」
二人は…キスを交わした…



「ああっ…ああぁぁ…あああううぅぅぅ…」
リーフとナンナが愛し合う…
「ナンナ…ナンナ!」
「リーフ…さ…ま…私…ぅうあ!…」
リーフのものは、ナンナの中に完全に収まっている…
ナンナの中は…既に十分過ぎるほどの愛液を含んでいた…
挿入の度に…愛液が飛び散り、リーフとナンナの股間を濡らしていた…

グシュ…ヌチュ…ヌチャ…クチャ…
「ああん…あっ…あっ…ああううぅぅ…あはあぁぁ…」

「ナンナの中…本当に…気持ちいい…」
リーフは…最初、控え目の速さで挿入していた…ナンナを大事にして…
しかし、彼も意識しない間にスピードは上がってしまう…ナンナの中が、あまりに気持ちいいから…
「ナンナ…ごめん…止まらなくなってしまう…」
リーフは、性欲を抑えられない自分が、恥ずかしかった…
「ああん…い…いえ…リーフ…様…あっ…我慢…しないでください…私は…あなたにも気持ちよくなって…んん…欲しいのですから…」
ナンナは健気に答える…
「はっ…はあ…ナンナ…」
リーフは…自分を完全に抑えられなくなった…
一心不乱にナンナの中に自分を入れるリーフ…
「あああううう…あは…はぁ…んっはああぁぁ…うっん…く…はあああっ!…」
それに合わせ…ナンナも激しく喘ぐ…
もう…二人には…周りの風景は見えていなかった…
ただ、目の前の大事な人しか見えていなかったのである…

「はあぁ…くっ…ナンナ…愛している…好きだ!…」
リーフは再び、ナンナに自分の気持ちを伝えた…
「私も…です…んんっ…リーフ…さ…ま…愛して…ます…ああぁぁっ…」
悶えながらも…気持ちを口に出すナンナ…
「ああっ…好きなん…です…大好きなんです!…ずっと…ずっと前から…ううっ…あなたと…こう…なりたかったんですっ!!…」
涙を流し、悶え、体を激しく振わせながらも…ナンナは、その想いを伝える…
「ああうううっ…んはああっ…うはあっ!…」

二人は愛し合った…自分たちの気持ちを確かめ合いながら…
…しかし…二人とも…限界に近づいていた…
「あっ!…ああっ!…リーフ様!…私…私…もう…」
ナンナは自分が上り詰めている事を感じた…
「私も…だ…ナンナ…一緒に…」
リーフは…挿入の速さを上げた…
激しくナンナの中を掻き回す…
秘所は…ナンナの愛液が…肉同士の擦れあう行為により泡立ち、白くなっていた…
「ああああぁぁああっ…うはっ…はああああっ…ううぅぅ…かはぁぁっ…」
二人は…上り詰めていく…
「はあ…はあ…うう…」
「あはああうぅぅぅ…あん…あんっ…あああぁぁぁぁっっっ…」
リーフも…ナンナも…限界だった…

そして…

「ナンナぁぁぁ!」

…ビシュウウウウウウウウッ…

リーフは…白き欲望を…放った…

そして…ナンナも…

「あっ…あ…ああああああぁぁぁぁぁぁああぁぁっっっ……」

ナンナも…果てた…









『……リーフ様……私…幸せです……』

『……私もだ……ナンナ……』










「よし!二人を探しに行こう!」
セリスが城門の前で、みんなに言う。
「ったく…せっかく飲んでいい気分だったのに…」
ヨハルヴァが不平を洩らす…
「何を言っている!…二人が帰ってこないだぞ!ヨハルヴァは心配じゃないのか…」
ラクチェがヨハルヴァをたしなめる…
「心配してなかったら、いちいち探しにいかねえよ…」
そっぽを向いて、ヨハルヴァは言った…
「とにかく…二人が帰ってこないんだ…それにユリアのこともある…何か…嫌な予感がする…早く二人を見つけた方が良さそうなんだ…」

先ほど…セリスとお茶を飲んでいたユリアがいきなり、「イシュタルは恐るべき敵…戦ってはいけません」という言葉を発したのだ。当のユリア自身に記憶はないのだが…何者かがユリアを通して警告をしてきたみたいなのだ。
それと時を同じくして…リーフとナンナが帰ってこないのだ…
セリスは心配になり、みんなにその事を話し、二人を探しに行こうとしていたのだ。

「とにかく…探しに行きましょう!私は空から探します。」
フィーが天馬マーニャに乗った…
「お〜い…夜だからって、迷子になるなよ〜」
アーサーがくだけて言った…
「なるわけないでしょう!まったく…」
アーサーに文句を言って、フィーは急上昇で空に上がった…
「よし!私たちも…」
セリスが号令を掛けようとした時…
さっき飛んだばかりのフィーが急降下して、着地した…
「どうした…夜空がこわかったのか?」
アーサーがフィーに話しかける…
「あんたね…探しに行く必要がなくなったから、帰ってきただけよ…」
フィーは、マーニャから降りた…
「帰ってきました!リーフ王子が…」



闇の向こうから…リーフが帰ってきた…
ナンナを、お姫様抱っこで抱えながら…
「リーフ様!ご無事でしたか!」
フィンが駆け寄る…
「ああ…みんなには心配をかけてしまった。すいませんでした…」
リーフが居合せた仲間たちにに謝る。
「ところで…ナンナさんはどうしたんですか?ケガでも…」
ラナが尋ねる。
「……いや…疲れているだけだよ…」
ナンナはリーフに抱かれながら…眠っていた…
「そうですか…でも…ナンナさん…とても幸せそうな顔をしていますね…」
その通りだった…ナンナは抱かれながら…とても幸せそうな顔で眠っていた…
長年、ともに過ごしたフィンも見た事がないような幸せそうな寝顔だった…
「ナンナさん…もう大丈夫ですね。」
ラナは笑顔で、リーフに意味深な言葉を言った
「…そうだな…」
リーフは…その意味が分かったのだろう…簡単に答えた…
「そうだ…リーフ王子!大変なんだ。イシュタルが迫ってるかもしれないんだ!」
セリスがリーフに注意を促そうとする。
「それなら、心配ありません。私たちがイシュタルを撃退しました。最後に取り逃がしてしまいましたが…」
リーフはさらっと言った…
「何!雷神を追っ払ったというのか!?」
ファバルが言う。
「そうです。ナンナと協力して…」
「すごいです…すごいです!リーフ様!」
フィンは感激しているみたいだ…
「すまない…だから…ナンナも私も疲れてしまったのだ…今日は休ませてもらう…」
と言うと…ナンナを抱えたまま、レンスター城に入っていった…
「よし!これで一安心だ!我々も休もう…」
セリスの声に仲間たちも城に戻っていく…


リーフはナンナを部屋まで連れていった…
そのまま彼女をベットに寝かした…
その寝顔を見て…
「私達…とうとう結ばれたんだな…ナンナ…」
リーフはベットに腰掛けながら、独り言を言った…
本当はこのまま自分の部屋に戻ろうとしたが、あまりの睡魔の攻撃に気力は尽きていた…
そのまま…リーフは、ベットに腰を掛けたまま…眠ってしまった…




光が差し込んでいる…
リーフは目がさめた…
「……朝か…」
彼は起きあがった…その体には昨日の夜には掛けてなかった、毛布が掛けられていた…
隣りを見る…ナンナの姿はなかった…
「ナンナが掛けてくれたのかな…」
リーフは立ちあがった…
(ナンナは…)
ナンナは何処に行ったのだろ…
ふと周りを見渡すと…ベランダに続く戸が開けられていた…
そこから…リーフはベランダを見てみた…
ナンナが立っていた…手すりに身を任せながら、外を見ていた…

「ナンナ…おはよう!」
彼もベランダに出て、ナンナの背中に声を掛けた…
クルっと身を翻し、リーフに顔を向けるナンナ…
「おはようございます!リーフ様!」
にっこりと笑って挨拶をするナンナ。
(!?)
ナンナの笑顔にドキっとするリーフ…
(ナンナの笑顔って…こんなに…可愛かったのか…)
幼なじみのリーフがその笑顔に動揺した…
(…それとも…立場が変わって…見方がかわってしまったのか…)
そう…今のナンナとリーフは…幼なじみではない…
これから共に生きていく…恋人同士なのだから…

「……リーフ様?…どうされました?」
「えっ?」
「お顔が…少し赤いです…」
ナンナがリーフの顔を覗きこむ…
「大丈夫だ!何でもないよ…」
リーフが慌てる…
「そうですか…」

今、リーフは…昨日の事を思い出していた…
…ナンナと結ばれた時の事を…
…リーフの顔がものすごく赤くなった…
「リーフ様…本当に大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ…」
思わず…顔に出てしまう…
「気分が悪かったら、遠慮せずに言ってくださいね…だって…私たち…その…」
「…?」
「…恋…人…同士…なんですから…」
ナンナは…顔を赤くさせて言った…
「…ナンナ…そうだな…」

(ナンナも…同じ気持ちなんだよな…)
ナンナも同じ気持ちで、安堵するリーフ…


「ナンナ…」
「はい…」
「考えてみたら、お腹が空いてしまった…朝食を食べに行こう!」
「はい!…リーフ様!」

二人は手を取り合って…食堂に走っていった…


「皆さん…おはようございます!」
ナンナが食堂に入り、中で食事をしていた人たちに挨拶をした…
「おっ…おはよう!」
レスターが答えた…
「おはよう…ナンナ…」
デルムッドもいた…
二人は同じ席で食事をしていた…
「おはようございます。兄さん、レスター様」
ナンナはにっこり笑って、挨拶をした…
「リーフ様…ここで食事をとりましょう!」
「ああっ…」
リーフとナンナは別の机の席に座った…

「デルムッド…なんか…お前の妹さんの感じが変わったな…」
レスターがデルムッドに小声で話し掛けた…
「やっぱり…そう見えるか…」
デルムッドは答えた…
「ああ…昨日は全然笑わなかったが…今日は、よく笑っているな…」
向こうの席で、ナンナはよく微笑んでいた…
「それにしても…あの子…笑う事ができたんだ…笑うと…本当は可愛いのだな…」
レスターがナンナの笑顔を見ながら言った…
「何を言っている…あれが、本当の妹の姿だ…」
デルムッドがレスターをたしなめた
「…そうだな…すまん…あれがナンナさんの、本来の姿なんだろうな…」
レスターは訂正すると、再び食事を取り始めた…
デルムッドもそれにならう…
(リーフ王子…ありがとうございました…妹の笑顔を取り戻してくださって…)
デルムッドは心の中で、リーフに感謝した…そして…
(ナンナ…良かったね…想いが通じて…)
…二人を祝福した…



「よし!みんな!出発だ!」
オオッ――――――――!
セリスの掛け声に解放軍は雄叫びを上げる…
解放軍はブルームのいるコノートへ向け進発しようとしていた…
北トラキアの帝国勢力を一掃するために、解放軍は全軍を挙げて出撃した。


「これで…しばらくの間…レンスターともお別れですね…」
リーフとナンナは馬を並べながら話していた…
ナンナが離れゆくレンスター城を見ながら言った…
「そうだな…戦いが終わるまで帰ってはこれないだろう…」
戦いはブルームを倒して終わりではなかった…
帝国の打倒を果たすまで、解放軍の戦いは続くのだから…

リーフは馬を止め、ナンナに向き合った…
「ナンナ…次にレンスターに戻ってきた時…その…一緒になってくれるかい?…」
「リーフ様?」

「…私は…亡き父上の意思を継いで、このトラキア半島に平和な国を作り上げる。そして…ナンナ…君と一緒にその国を作り上げたいのだ…その…だから…この戦争が終わったら…私と…結婚して欲しいんだ…」

…リーフは…プロポーズをした…

「!?」

「ダメだろうか?」

リーフが申し訳なさそうに尋ねた…

「…そんな…リーフ様…本当に私なんかで…」

「ナンナでなければダメなんだ…私が愛したナンナでなければ…」

ナンナは涙を流して…答えを言った…

「…嬉しい…です…嬉しいです!…リーフ様!…私…何処までもずっとリーフ様についていきます!…例え…それが地の果てでも…」

ナンナは、泣きながらも…はっきりと答えた…

「ナンナ…ありがとう…」

…そんなナンナに…リーフは精一杯の笑顔で礼を言った…







幼なじみだった…二人の時は…止まった…
そして…この瞬間から、二人は…新しい関係で時を刻んでいく…

リーフとナンナ…

二人の共有していく時間は始まったばかりだった…

 

 

END

 

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