「では、授業をはじめましょうか」
「え、サフィ、授業する気だったの?」
「ア、アレク様…」
プラムに食事を分け与えているアレクに明るく言われ、がくり、とサフィルス先生は肩を落としました。
確かに授業、という雰囲気は一蹴されています。
何より考えてみれば、すでにアレクは席についていません。
「一応、ここは学校ですから…」
「えー、何だかめんどくさいなぁ」
「アレク様…。御願いですから、聞いてくださいね〜うう」
そして、始業時間から遅れること10分、やっとサフィルス先生の授業が始まりました。
授業は講義ということもあり、サフィルス先生の説明が延々と続いています。
暖房がちょうどいいくらいに効いてきて、とても心地の良い温度となっています。
それは、遅刻をしないために、いつもより少し早起きしたロードの身にも、当然睡魔が訪れていました。
ロードは必死に睡魔と闘う…はずもなく、その身を机へと伏せました。
堅い机ですが、贅沢は言っていられません。
そのときのことでした。
びゅんっと空気を割く音が前方より聞こえてきました。
サフィルス先生が分厚い魔法書をロードに向かって投げつけたのです。
「うわっ! 危ねぇっ!!」
ロードは寸前のところで避けましたが、机にはしっかり魔法書の跡がついています。
「授業中です。寝ないで下さいね」
「お前、俺を殺す気かよっ!」
サフィルス先生の両腕はきっと筋骨隆々に違いないとロードは確信しました。
「ふわぁぁ〜」
場の空気を読まない、なんとも間延びした声がアレクから放たれました。
アレクは全身を使って伸びをすると、眠たそうに目をこすりました。
「あ、アレク様、寝不足ですか?」
「うん。昨日サフィが貸してくれた本を読んでたから」
「そうですか。なかなか良かったでしょう?」
「…って、俺の話聞いてねぇし…。態度違うしよ…」
ロードは何とも言えない敗北感を味わいました。
クラスの皆は日常茶飯事の光景なので、それに気を止めることはありません。
いつもの風景がそこにありました。
「…っ」
「プラチナ、具合悪そうだけど大丈夫?」
アレクは心配そうに顔を覗き込みました。
「………」
プラチナは無言でしたが、その表情は青ざめており、具合が悪いことは一目瞭然でした。
我慢強いプラチナですから、今まで我慢をしていたようです。
「プラチナ、保健室へ行った方がええ………ん? どないしたん?」
急に周りの視線が冷ややかなものに変わったことに気づき、ルビイは問い掛けました。
健康優良児であるルビイにとって保健室は未知なる領域だったのです。
「保健室…ですか」
いつも以上に暗いカロールの声を聞いて、ルビイはそこから何か恐ろしいものを感じ取りました。
「でもプラチナがくるしそうなのです〜」
「じゃ、皆で行こうよ。ね、サフィいいよね?」
「もう…授業…って言う雰囲気じゃなさそうですしね…」
アレクにはとことん甘いサフィルス先生が勿論逆らえるはずはありません。
涙ながらにサフィルス先生は同意をしました。
かくして一行はサフィルス先生同伴で保健室へと向かうことになったのです。
「で? …どうしてこんな大人数で来る必要があったのか、説明していただきたいですね」
「それはその、…色々と事情がありまして」
「大体、今は授業時間中のはずですけどね。校内見学にでも内容変更したんですか」
白衣を着たジェイド先生は、機嫌悪そうに、そうサフィルス先生に嫌味を言いました。
実際ジェイド先生の機嫌は最悪でした。
普段ならこの時間は静かに過ごせるはずだったのです。
それがいつのまにやら保健室は…
「わー、これで身長が計れるのですね〜。アレク〜アレク〜。ボクの身長測ってくださいなのです〜」
「プラムの場合って頭で止めるのかな? それとも耳で止めるのかな」
「耳じゃねぇのか。体の一部だろ」
アレク、プラム、ロードは測定器を見て、楽しそうに会話をしていました。
「ここが保健室か〜。はじめて来たなぁ〜」
ルビイといえば保健室見学をしています。
物珍しそうに戸棚の瓶を手にとっていきます。
取り出すときに、錠剤の入った小瓶が音を立てて床に落ちました。
「あ、落としてもうたわ」
「…何やってるんですか」
拾おうとした瞬間、カロールの帽子に触れて、机の書類が音を立てて床に落下しました。
一同は、プラチナをベッドまで運ぶと安心したのか、保健室の中を見回っているようです。
「……」
ジェイド先生はプラチナではありませんが、頭が痛くなったような気がしました。
ジェイド先生はそんな状況を、闇に葬り去るかのように黙殺することにしました。そしてプラチナの治療に専念することに決め、プラチナの傍へと近寄りました。
「ちゃんと診てください」
カロールはそうジェイドに厳しい口調で意見しました。
「これは心外ですね。私がちゃんと診断しないとでも?」
「……。治療のことを言っているのではありません。…それ以外で貴方は、プラチナ様には冷たく接しているように見えますから」
「それに治療に関して付け加えれば、お前、俺のときと随分態度違うぜ」
カロールの言葉を聞いて、ロードが口をはさみました。
「そうですか?」
しれっとした態度でジェイド先生は答えました。
「ああ、違うね。俺が怪我した時は、すっげー手厚く介抱してくれたもんなぁ?」
ロードはそのときの事を思い出すと、怪我をして右足の傷が完治したにも関わらず、疼いてくるような感覚がします。
ジェイド先生の腕は確かですが、その人間性の面から考えて、進んで治療されたいとは思えませんでした。
「私は平等に接していると思いますけどね」
「おーおー、ぬけぬけと」
結局のところサフィルス先生もジェイド先生も贔屓ははっきりとしているのです。
ジェイド先生はプラチナの衣服を緩めると、その容態を診ました。
「いつもの発作ですね。とりあえずそこのベッドに横になってください」
「…くっ」
プラチナが苦痛に顔をゆがめました。
「はいはい、治療の邪魔ですよ。部外者は出て行ってもらいましょうか」
「えーーー!! 付き添っててもいいじゃないか」
「病人には安静第一ですよ。早く良くなってもらいたいでしょう」
ジェイド先生は煩い、と言う言葉を寸前で抑えました。
「…そ、それは」
アレクはそんなジェイド先生の言葉を聞いて言葉に詰まってしまったようです。
「なら、お判りですね」
「う、うん…。じゃ、行くよ」
名残惜しそうな一行でしたが、プラチナの事を考えると我侭もいえません。
後ろ髪を引かれる思いで保健室を後にしました。
「…やっと出て行ったな」
台風のような一行を追い出して、ジェイド先生は息をつきました。
そして、ベッドで横になっているプラチナの傍へ近寄り、治癒魔法を施すと、静かにその髪を梳きました。
「あ、見て、サフィ! 寒いと思ったら雪が降ってる!」
「あ、本当ですね」
「おお、結構な勢いやないか。これなら積もるのも早いかもな」
「そうですね。後小一時間もすれば積もると思います」
「ね、じゃ雪、見ようよ! せっかくここまで来てるんだし! ね、サフィ!」
アレクは嬉しそうにサフィルス先生を見上げました。
最早サフィルス先生が断れるはずもありません。
他の面々もそれに賛同のようです。
「それじゃあ、れっつらごー! なのですっ!」
「よーし行くかっ!」
そうして今日の一時間目は雪見となりました。
「…遅いな」
当然のごとく、雪見は一時間目で終わるはずがありません。
二時間目の美術の存在は完全に忘れ去られていたのです。
美術室で一人ジル先生は呟きました。
ベ、ベリルが出せなかった…!!!(汗)
お、おかしいです、当初の予定ではベリルとセレス大活躍の予定だったのですが(汗)
す、すみません(泣)
オールキャラ目指したんですが(涙)
ちなみに配役は、
ジェイド→校医。恐ろしい校医でしょうねぇ…(笑)
ジル→美術の先生。コテコテですが。
です。そして今回この後編では出ていませんが、
ベリル→校長。生徒会長と迷ったのですが(汗)。生徒会長はアレクということになりました。副はプラチナです。
セレス→理事長。
となっています。
ちなみにおまけも書いてみました。
おまけはこちらです。
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