「雪催いだな…」
プラチナは窓から上空を見上げた。今にも雪が降り出しそうなほど、空は曇っている。
「時間の問題ですね。…ところでプラチナ様、この机の上にある箱は一体なんなんです?」
ジェイドは不信そうに机にある小さな白い箱を一瞥した。贈り物としては些か簡素すぎる作りのように思える。
「ケーキだ。女官が作ってくれたらしい。ラカの実を使ったものだと聞いた」
「ははあ…。この間俺が買ってきたラカの実ですか」
「この時期には珍しいから、是非材料として使わせて欲しいと頼まれてな」
「あのすっぱい後味もケーキにしてしまえば、多少紛れるかもしれませんしね」
「味見したほうがいいんですかねえ」
「必要ないと思うが」
永遠の時を生きる二人には、万が一毒が混入していたとしても死ぬことはない。
「ま、そうですね」
プラチナは椅子に座り、箱の中から中身を取り出した。
見た目は箱同様、シンプルである。一見普通のチーズケーキのようだが、切り口からラカの実が見える。
「プラチナ様の好みのケーキ、というのは…やはり甘さ控えめでしょうね」
「そうだな…プラチナ様好みに甘くないように作りました、と言って手渡されたしな」
箱のそばにあった皿に乗せ、一口分にフォークで切り、口に運ぶ。
「いかがです?」
「美味い」
やはりプラチナの嗜好に合わせ、甘くはないようだ。女官たちも苦労したことだろう。この表情を直に見ればその苦労も報われる、というものだが…生憎誰にも見せる気はない。
「お前は食べないのか?」
ジェイドの視線を感じたのか、プラチナが声をかけた。まだ箱の中には数個ある。
視線をケーキを食べたいものだと誤解したのかもしれない。
「一人ではこんなに食べきれないからな」
「そうですねえ…」
暫くプラチナとケーキの間で視線を彷徨わす。
「俺はこちらの方を頂くことにします」
椅子に座っているプラチナの傍まで近づき、少し身を屈めると、口唇にキスを落とした。そして舌先で、唇を味わうように舐めあげる。
実に素早い動きで行われたそれは、完全に油断していたプラチナの動きを封じていた。
「…ジェイド…」
突然の行為に、されるがままになっていたプラチナは、顔を赤くして恨めしそうに見上げた。
「おおっと。軽く味を見ただけなんですけどね」
「普通に食べればいいだろう!」
いかにもまだ不服といわんばかりに、言ってのけるジェイドに弾かれるようにプラチナは叫んでいた。
「じゃ、そうします」
言葉尻は怒っていても、決して嫌だといわない頑固な主に。
笑いを含んでジェイドは答えた。

窓の外では粉雪が降り始めていた。





「アレク様、やっぱりここにいらっしゃいましたか」
「あ、サフィ」
城内でありながら、ほとんど人のとおりのない目立たない一角にアレクは居た。
息抜きに絶好のポイント、数少ない羽を伸ばせる場所として、アレクは度々この場所をこっそりと訪れている。
とはいってもサフィルスにはすぐにばれてしまったのだが。
「うん…っくしゅん」
「あ、ほら。場内と言えども屋外ですからね。風邪を引かれては大変です。戻りましょう?」
「…うん」
寒そうにしているアレクの肩に、羽織っていたマントを掛ける。
「え、いいよ、サフィだって寒いだろ?」
アレクにマントを掛けたことで、サフィルスは薄着となってしまうのだ。
「私は大丈夫ですよ」
柔らかい口調だが、はっきりとした声でサフィルスは言う。
言葉を尽くしても、きっとサフィルスは譲らないだろう。
アレクはおとなしくサフィルスのマントを借りることにした。
「…ありがと」
「いえいえ。それにしても一段と冷え込みますね、今日は」
今日は朝から酷く冷え込んでいた。上空の空も雪雲が覆っている。
雪が降る乗り出すのは時間の問題だろう。
吐き出す息も白く凍り、宙に舞う。
隣のサフィルスを見上げても、同様に吐き出す息は白い。
それもサフィルスの場合、羽織っていたマントをアレクに掛けたのだから、自分よりなお、寒さを感じていることだろう。
心配させないためか、その表情には決して出すことはないけれど。
「ね、サフィ、ちょっと屈んで」
「? はい」
立ち止まってアレクに向き直る。
屈んでもまだ少し背の高いサフィルスに少しだけアレクは背伸びをして。
その唇に自分のそれを重ねた。
びっくりした様子のサフィルスだったが、アレクの意図がわかったのかそのまま合わせる。
触れ合った部分は確かに温かい。
しかし、それ以上に温かく感じられるのは、アレクの心遣いが感じられるからだろう。
「ちょっとは温かかった?」
唇を離し、にっこりと微笑むアレクを、愛しげにサフィルスは見つめた。
「ええ、とても。…あ、でもアレク様、他の人には絶対にしないで下さいね」
いつになく真剣な表情で諭すサフィルスに、気圧されるようにアレクは頷いた。
「さ、部屋に戻りましょう。温かいお茶とケーキを用意してますから」
「うん!」
勢いよく返事をしたところで、ふと冷たいもので顔に当たる。
雨かと思って空を見上げると、白いものがひらひらと舞い落ちていた。
「寒いと思ったら…雪だ」
呟いたアレクの一言に、一瞬サフィルスの表情が曇る。
雪は天使の羽に見え、あまり好きにはなれない。
真っ白い純白のもの。
雪や羽のように雪白な心をもつアレク。
雪は酷く感傷的になるけれど、今の自分には掛け替えのない存在がある。
だから、帰りたいと願うこともない。
雪の日も悪いことばかりでないと思いながら、サフィルスも雪空を見上げた。



久し振りのUPですね…やおいです。ええ、やおい。
やまなければ落ちもなく意味がないです。やおい本来の意味まで表現してみました(涙)
雪とケーキを出してクリスマス気分…。←無茶な…。
ごめんなさい、もう弁解と言い訳に疲れました…闇に滅せられてきます。




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