「プラチナ様、よろしいですか?」
静寂とした部屋に、ノックの音と聞きなれた声が響いた。
「入れ」
軽く声をかけて、入室を許可する。
見慣れた顔が現れ、自分の座っている椅子に近づく。
体温が感じられるほどまでに傍に寄ると、ジェイドはプラチナが目通ししている書類に視線を落とした。
「ちゃんとやってますね、お仕事、ごくろーさまです」
「お前もな」
ここに来た、と言うことはあらかたの仕事が片付いたのだろう。
ジェイドにかかる仕事の量は、下手をすると自分より多い。
「髪、伸びましたね」
ふと目に付いたのか、すいっと、プラチナの銀に輝く髪を手に取り、日に透かす。
日の光に当てられ、それはたゆたう波のように、きらきらと輝いた。
「そうだな、そろそろ切らないと地面につくな」
自分でもわかっているらしく、めんどくさそうに呟く。
「もったいないですねぇ。プラチナ様の長い髪、俺は好きなんですけど。あんまり切らないで欲しいですね」
「床につかない程度に切るだけだ。お前が切れ」
「俺が、ですか。…そうですね。では後で切ることにしますか」
目を細め、プラチナの髪をしばし撫でる。
「そうだ、切ったら、髪、俺にくれませんか?」
「貰ってどうするんだ?」
突然思いついたように話すジェイドに、プラチナが訝しげに問い掛けた。
「藁人形にでも使おうかと」
「……」
「ややっ、じょーだんですって! そんな殺気を放たないでくださいよ。俺がプラチナ様に恨みなんてあるはずないじゃないですか、ねぇ?」
「…全く、いつもお前の冗談は笑えないな」
「酷いですねぇ。これでも少しは進歩してると思いますがね」
肩をすくめて、捉えどころのない笑顔で答える。
相変わらずの反応である。
「センスのなさがか?」
「違いますよ」
互いの言葉の交し合いだけが、部屋の中に静かに響く。
このやり取りだけは昔も今も変わることがない。
が、決して不快なものではなかった。
「で、何しに来たんだ?」
大きく脱線した話を本筋へと戻す。ただ監視に来たわけではないだろう。
「プラチナ様のお手伝いに参上いたしました。案の定、まだ終わっていらっしゃらないようですから」
「ああ、ちょっと量が多いからな…」
そう言って眼前に整頓された書類に目を落とした。
この調子ではまだ後数時間はかかることだろう。
「床に伏せっていましたから、少々書類がたまってますねー。まー、簡単にでもお目を通していただかないと」
「わかっている。…が、やはり少し疲れるな。文字ばかり追っているとなおさらな」
手を止め、軽く眉間を抑える。
細かい文字が羅列している書類に目を通す、そして印を押す、その単純な仕事にプラチナは追われていた。
単純ながら、どうしても王自らがやらねばいけない仕事だ。
ただでさえ他の仕事をこなす事が出来ず、皆に只ならぬしわ寄せが行ってしまっている。
その部分を負担させるだけでも、心苦しいのだ。
この程度の単調な作業は、這ってでも自分が行うべきなのだ。
「少し休憩いたしましょうか。また倒れられても困りますしね」
そんなプラチナの考えなどとっくにお見通しなのか、ジェイドにそう促される。
プラチナは拒否する理由もなく、それを受け入れた。
気づくと、随分力を入れていたのか筋肉が張っている。軽く背を伸ばすと、姿勢を整えた。
寄れた服の皺もそれによってきちんと伸びる。
何気なく、自分の服装に視線が止まった。
「…そういえば、目覚めた時の服装も髪型も、全部お前が選んだり、決めたんだったな」
「そうですが」
「もし、兄上の参謀が俺の参謀だったら、あの衣装だったんだろうか」
アレクの服装が脳裏をよぎる。
提灯ブルマに白いタイツ、それに特徴ある帽子。
それを着ていたとしたら、一体どんなことになったのだろう。
「逆だったらいったいどうなっていたんだろうな?」
疑問がそのまま、言葉となって飛び出した。
「想像できませんし、ありえません」
「…? どうしてだ」
即答で簡潔に答えるジェイドに、プラチナは問い返した。
そうもすんなりと、答えが返るとは思っても見なかったのだ。
「結果的に俺はプラチナ様の参謀としてこうして傍にいる。それは事実で代えようもない。もしも、なんてことは理想と空想ですね。現実にはありえないから想像する。何も生み出しはしません。それに、俺はこの現実、現状が気に入っていますからね。想像することは無意味ですよ。…それに、サフィルスがプラチナ様の参謀というのは想像つきません。勿論俺がアレク様の参謀としてついている姿も、ですが」
「……」
「プラチナ様は想像できますか?」
切り替えされてプラチナは言葉に詰まる。
言葉では簡単にいえるのに、不思議なくらい、その場面が想像できない。
ジェイドが参謀であること、それがあまりに当然なことで、自然で。
「出来ないでしょう? 俺もです」
にっこりと微笑まれて、プラチナは思わず苦笑した。
「そういえば、お聞きしていないことがひとつ」
「何だ」
「プラチナ様は俺が参謀で後悔しませんでしたか?」
「あほう。愚問だ」
「…そうですね」
ゆっくりと目を閉じる。表情は普段と変わらぬ飄々とした笑顔で。
「ちなみに、俺の答えは前に申し上げたとおりですよ」
「わかっている」
こちらもいつもと変わらぬ表情で、当たり前に答える。
今更、確認などする必要もない。
「さて、お仕事を片付けてしまいましょうか。やれるときにやっていただかないと。仕事でプラチナ様が束縛されるのは、ご勘弁願いたいですからね」
「…そうだな。ではお前には書類の整理をやってもらおう」
「御意」
部屋の窓から入る心地よい春風が、静かに二人の頬を撫でた。
はぁぁぁ〜激しく後悔です。
ジェイドってこんな性格でよいのかと…(汗←根本的問題…)。
壱宮版ジェイドって言うことでお許しください。書いていて凄く楽しかったことだけは確かです(笑)
ちなみに石を飲むEDの数ヵ月後、と言う感じですかね。
それにしても、もっとラブラブしたのが書きたいんですが、かなり難しいです。
ジェイドが敬語を使わない場面とかも考えたんですが…、それってあの場面しか思い浮かびません(笑←どんな場面だ)
サフィルスとのやり取りだったら、敬語じゃないジェイドが簡単にかけるんですけどね〜。
ところで、ジェイドがどうやって口説くかを考えているだけで、あっと言う間に時間が経過します。
狡猾(ポイント)で、尚且つ理知的に攻めて欲しいところなんですが、いざ書くとなると…難しくて倒れそうです。
いずれもっとハード(笑)なのが書きたいんですが、私の頭のキャパが足りません(喀血)
誰か書いてくれないでしょうかね〜(人任せか!)
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