ある日の昼下がり。

天使の討伐を終え、アレクとサフィルスはテントへと戻ってきていた。束の間の休息ではあるが、休憩が取れるに越したことはない。
「サフィ、手相見てあげるよ」
暫くベッドに横になっていたアレクであったが、起き上がりると、思い出したようにそう話を切り出した。
「て、手相ですか?」
「うん、街の人から聞いたんだ」
手を出して、とアレクの言われるがまま両手を差し出す。アレクはするりとサフィルスのつけていた手袋を取って、手相を眺めた。
「えーっとこれが生命せ…うわ」
「え? 生命線がどうかしましたか?」
「すっげー短い」
「……」
「あ、あはは…だ、大丈夫だよ、サフィ。こうすればいいんだし」
そう言ってアレクは自分の机の上からなにやら取ってくる。
「王子?」
真剣な眼差しでサフィルスの手を取ると、なにやら持ってきたペンでなにやら書き入れる。あまりの真剣な様子のアレクに、サフィルスもその成り行きを静かに見守る。
「うん、これでよしっ!」
アレクは満面の笑みを浮かべ、書き終えたそれをサフィルスに見せた。サフィルスの両手の生命線は、黒のペンで長く継足されている。不器用なその線だったが、それでもしっかりと刻み付けられていた。
「ね、これでサフィは長生きするよ、絶対」
「アレク様…」
アレクの行動に愛しさが募る。
自分を気遣ってくれる気持ちが、心遣いが嬉しくて。
どうしてこの人は自分にとって嬉しくなるようなことを、いとも簡単にしてくれるのだろう。
…自分には優しくされる資格なんてない。
今も、こうしている間にも。
頭のどこかでは帰りたいと願っている自分がいることも事実だ。

「あとは…あー!」
「こ、今度はどうしたんですか?」
物思いにふけっていたサフィルスを、現実に引き戻すひときわ大きい声がアレクの口から発せられた。
それを聞き、何事かと思い尋ねる。
「…結婚線がない…」
「ああ、それなら別にいりませんよ。結婚しませんから」
「結婚しないの? サフィ」
「はい。まずは王子がプラチナに勝って王の座について頂く…それが私の今一番の望みですから。結婚なんて考えられません」
アレク様の元に出来るだけ長く居たい…。出来るだけ。
確実に自らその方向へいざなっていると言うのに、その瞬間の到達が遅ければと願ってしまう。
「俺のそばにずーっといてくれるんだ」
「はい、アレク様」
嬉しそうに微笑むアレクを愛しそうにサフィルスが見つめる。
こんなときがずっとつつけばいい、と。心の奥底からそう願った。


「あ、俺、ロードと約束が会ったんだ。ちょっと行って来る!」
「はい、アレク様。あんまり遅くならないようにしてくださいね」
「うん。あ、そうだ。ちなみに俺は結婚線、ちゃんと1本あるよ、ほらここ」
「え?」
アレクは天真爛漫にそう言うとサフィルスの前に手を翳した。
アレクの指し示すところにはしっかりと線が浮き出ている。

「おーい、アレク〜っ、まだかー?」
「あ、今行く! じゃ、サフィ行ってくるね!」
ロードの呼びかけに答えると、アレクは慌しくテントを後にした。

残されたサフィルスは暫くの間一人呆然としていたのだった。

そしてその後、心当たりのある人物の結婚線をサフィルスが調べていったのは言うまでもない。



…久々に書いたのに報われないサフィ…ごめんなさい。私好きなキャラっていじめたくなるみたいです。ジェイドもサフィも。報われなかったり、嫌な奴だったりするのは愛情の裏返しなんです、きっと(笑)←鬼か。サフィ×アレクのつもりで書き始めたのに、すっかりサフィ&アレク話。すみません。こ、今度はアレクもサフィのことが大好きvって言うのを表面にたっぷり出した話を書きたいです…(苦笑)。どーも参謀ズが王子ラブー!って言うほうが書きやすくて…なかなか王子のほうもラブー!!って言うのがかけないです…。はわわ。


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