The princess of the capture



きっと。
ハートを奪われてしまったのは私のほう。



「ん…っ」
後数センチ。届きそうで届かない。
指先が虚しく宙を数回舞う。
もどかしい。
背伸びをしても指先が軽くほんの背表紙に触れるだけ。
大人しく台を持ってきたほうがいいことは理解している。
が、あまり利用されない類の本なのか、その付近に足場となる台が見当たらないのも無駄な抵抗をしている一因ではある。
そんな勝ち目のない戦いをしているあんずの背後から、ふいに手が伸ばされた。
そしてあんずが背伸びをしても届かなかった本を簡単に引き抜く。
「はい」
聞き慣れた甘い声。
振り返るとそこには引き抜いた本を手にした元気の姿があった。
「元気君、ありがとう!」
手渡された本を受け取り、あんずは満面の笑顔で元気に御礼を言った。その言葉に元気も演技ではない真実の笑顔を浮かべる。
眩しい太陽のような微笑み。その名を顕すかのように元気を分け与えてくれるような。これだけは何回、何十回見ても慣れることはない。その度にドキドキと心臓が早鐘のように高鳴る。
紅く染まる頬を見られないように、あんずは視線を彷徨わせた。
「元気君…図書館についたってメール貰えれば迎えに行ったのに。ここ判りにくかったでしょ」
あんずは授業での調べ物のために市内の図書館にきていた。
新設されたばかりの図書館はその蔵書冊数を目玉にしているだけのことはあり、半ば迷宮のように入り組んでいる。
図書館で調べ物をしていると元気にメールを送ったのだが、今あんずがいる場所はあまり人が寄り付かない一角だ。
探し出すのに苦労したのではないだろうか。
「そうでもないかな? あんずを探すのも結構楽しかったから」
それに、と楽しそうな口調で付け加える。
「あんずの可愛い姿も見れたし」
それが先ほどの悪戦苦闘している姿だと気づいて、あんずは見る見る羞恥にかられた。
「も、もう〜!」
軽く頬を膨らまし抗議するあんずに対して、元気はただそんな行動も可愛いと言わんばかりに笑うだけだ。
「でも良かった、あんずに会えて。今日はもう会えないかもって思ってたから」
撮影が急遽延びてオフになったと連絡が入ったのは30分前のこと。
突然の連絡だったため、あんずは市内の図書館にすでに足を運んでいたのだ。
「元気君ったら…。会えない分毎日電話してるよ?」
「電話だけじゃ足りないよ。僕が見ていないときに僕以外の人があんずの顔を見てると思うと耐えられない」
真摯な声。
なんと反応していいかわからず、あんずはただ隣の元気を見上げる。自分より遥かに高くなった元気を。
「…あ、元気君」
「何? まだ読みたいの有る?」
「ううん、又身長伸びたなって思って。この間も思ったけど、やっぱり結構伸びてる」
「そうかな?」
「うん!」
前は自分と同じくらいだったのに、今では顔を上げなくてはその顔を見ることは出来ない。
毎日会っていると気づかないが、こうしたふとした瞬間に気づかされることがある。背伸びをしても取れなかった本を元気はいとも容易く抜き取ってしまった。そう考えて、隣の元気を見上げると、確かにここ2年でぐっと身長が伸びている。
「でもそうかもね。あんずとキスするとき結構屈むようになったし」
不意打ちように囁かれた言葉にあんずは大きな瞳を丸くする。
そんなことで身長が伸びたことを確認しないで欲しい。
そう思ったものの、元気の嬉しそうな顔を見ているとその言葉は自分の中で消化されていく。
「試してみる?」
「え、ええっ!」
驚いた声を出したのもつかの間、次の言葉は元気の唇によって塞がれていた。





ああ、もう。

ハートは一生盗まれたままかもしれない。











図書館でキスってシチュエーション的に萌えます。←トメテー。誰か私をトメテー。
もうこの二人週刊誌にフライデー(古)ですね。
世間公認。


そして実はこのとき周りには(こっそりいっぱい)野次馬がいて(笑)
「うっそ―――! 元気君キスしちゃったよ!! 図書館で!!!」
「生ちゅうだよっ!! ショック―――!!」
「イヤ―――!」
「付き合ってるってホントだったんだぁ…」
とか騒がれてるに違いないです(笑)



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