甘い味付け



あざみから今日の帰宅が深夜になると急な連絡が入ったのは3時頃。
家に帰ってからあんずは早速夕飯の準備に取り掛かった。
料理はあまり得意ではなかったが、何故か今日に限って作ってみようという気になった。
もしかしたら喫茶店でのバイト経験が影響しているのかもしれない。

トンットン…トッ。
小気味良い音とはとても呼べないが、こうして下準備をしていると何とか形だけは様になっているような気がする。
不恰好ながらもなんとか切りそろえられた材料を見て、あんずは息をついた。
「あんず?」
「あ、お兄ちゃん、お帰りなさい」
背後から草の声が聞こえ、あんずは振り返った。部活に行っていたのだろう、手には黒いヴァイオリンのケースがある。
もう草が帰ってくる頃なのかと壁にかかっている時計に目にやる。
短針は6を指していた。料理に没頭するあまり、こんなに時間が経っていることに気づかなかったのである。料理の進行具合はまだ6、7割といったところだ。
「お母さん、今日遅くなるからって。だから私が夕飯を作ろうと思ったの」
「そうか。何かお兄ちゃんが手伝うことはあるか?」
「うーん、あ…食器出してもらえる?」
少し悩んでからあんずは答える。
心配そうに自分を見ている草にこのまま手伝うことは無いといっても反対に不安にさせてしまうだけだろう。
なら最初から手伝ってもらっていたほうが草も安心するだろう。
そう考えてから、それでも味付けを任せてはとんでもないことになりそうで、当り障りの無いものを頼む。
「わかった」
草は食器棚から食器を取り出すと手際よく並べる。
忙しくキッチンを行き来するあんずの白いエプロンがひらひらと舞う。
その様子を見ていた草の目が細められる。
「あんずはいい奥さんになるな」
「や、やだな、お兄ちゃんってば」
突然草の口から飛び出した一言にあんずは顔を赤くする。
「本当にそう思うぞ」
「だったらお兄ちゃんもいい旦那様になるよ。今でも私の自慢のお兄ちゃんだもん」
「そうか。あんずとお兄ちゃんはぴったりだな」
「でも、兄妹は結婚できないよお兄ちゃん」
「あんずはお兄ちゃんと結婚したくないのか?」
真顔で問い返されて、あんずはたじろいだ。
まさかそんな切り返しをされるとは思っても見なかったのだ。
「えっ。そういう訳じゃないけど…」
「良かった。お兄ちゃんはあんずと一番結婚したいよ」
「あ、あはは…」
にっこりと迷いの無い表情できっぱりと草は言い切る。
それに対して、あんずは僅かに強張った笑顔を返す。
草にかかればなんだか対したことの無い問題に思えてくるから不思議である。

その後、味見をした料理はなんだかとても甘かった。













そして辛く修正。<お兄ちゃんの好みに


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