シンデレラ→ロード
継母、義姉→サフィルス

ロードの場合、その一。

「あーっ、冷てぇ〜っ!」
風が射るように冷たい。
吐き出す息は白く凍り、天に上っていく。
吹き抜け式になっているこの廊下は風のとおりも良い。夏はいいが、冬場はあまり近づきたくない場所である。
その廊下の掃除をロードは任せられていた。このうんざりするほど長い廊下を、である。ただ廊下といっても、贅沢にも大理石をいたるところに使い、高価そうな装飾品や骨董品を陳列してある。この廊下を建築費用だけで、軽く家の一軒は建てられそうだ。ロードに言わせれば、まるで盗んでくれといわんばかりに無防備である。
この廊下の拭き掃除をやるならば、よっぽどこの骨董類の掃除を任された方が気が楽だ。
そんなことを考えながら、ロードはモップの先を濡らし廊下を拭いていた。
アレクと違い雑巾を濡らし拭く、ということは無い。
モップの柄を軽く持って、流すように廊下を歩いていた。
「ロードさん、しっかりとお仕事してくださいね」
眉を寄せてロードが振り返る。
「ちゃんとお掃除してるでしょ? サフィルス☆」
「ちゃんと…ですか?」
流すように歩いていたロードの掃除の仕方では、ただ表面を水で濡らしただけである。それに廊下の隅には埃や塵が溜まっている。
四角い部屋を丸く掃く、とはまさにこのことを指すのだろう。
「だいたい見回りに来る暇があるなら、お前がやればいいじゃんかよー」
「そうしたら、このお話の意味がなくなっちゃうじゃないですか。ここは意地悪な継母や姉にいじめられても挫けずに頑張る、健気なシンデレラの場面なんですから」
「…アレクん時は止めてただろーが」
「それはそれ、これはこれです」
「お前なぁ…」
がくりと肩を落とす。今更サフィルスに何を愚痴っても無駄なのだ、きっと。そう悟り、ロードは話をかえた。
「なあ、それよりもこのお宝、この話ちゃんとやり終えたら貰っていい?」
「駄目ですよ、借り物なんですから」
「ええーっ! こうして手が触れられる位置にお宝があるっていうのに取るなって言うのか、お前は!? 正気か!? 頭おかしーんじゃねーの!?」
「おかしいのはロードさんの思考ですよ」
はぁ、とため息をついてサフィルスは両肩を落とした。

戻る 続く
 SSTOP



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