シンデレラ→プラム
継母、義姉→サフィルス、アレク
魔法使い→ベリル

プラムの場合。

「つめたいのです〜」
プラムは雑巾をぎゅっと絞ると、氷のように冷たくなった手を擦り合わせた。
「それでは、がんばるのですーっ!!」
気合入れに声を出すと、プラムは廊下の隅から丁寧に廊下を磨き上げていく。磨き上げることで大理石の床もますます光沢を増していった。そのことが嬉しいのか、プラムの表情も豊かだ。
「プラム、気合入ってるね」
ひょいっとプラムの背後からアレクが顔を覗かせる。
相変わらずの完全防備した姿だったが、プラムは気にも止めないようだった。
「がんばるのですよー! サフィルスさんがシンデレラはとてもいっしょうけんめいなひとだといっていましたのです。あ」
「あ?」
途中で何か思い出したらしいプラムの一言にアレクが聞き返す。
「りょうりもちゃんとよういしてるのですよ。もうすこしまっててくださいなのです〜」
「えっ、料理はまだいいよ」
「なんでですか〜。このほんをみるとシンデレラはちゃんとやってるのです。ボクもやらなくてはいけませんのです!」
「い、いいよ。プラムがここを掃除してくれるだけでありがたいしさ」
プラムが作る料理。
それを思い浮かべて、アレクの表情は思わず強張る。
なんだか糖尿病にもなりそうな甘い味付けだったことを記憶している。
「おいしいですよ〜? シンデレラもちゃんとりょうりをつくっていたのです」
「う…」
普段ならいらない、と言えるかもしれないが、今日はあくまでシンデレラのお芝居中なのである。
どうしよう、逃げられない。食べるしかないのかと覚悟を決めたそのときだった。
「まだ最初のシーンなのかい? 待ちくたびれちゃったよ」
「ベリル!」
ベリルはこのあと登場する魔法使いの役である。
「ベリルさん、駄目じゃないですか。今演技中ですよ」
後ろから慌ててサフィルスが止めに入るが、もうすでに後の祭りである。
「ごめんごめん。あまりに遅いから待ちくたびれちゃってね…おやー? …プラムがシンデレラを演じてるのかい?」
「え? なんか問題あるの?」
料理以外にも問題があるのだろうか。
心当たりが思い浮かばず、そのままベリルの顔を見つめた。
「問題と言うか…ねぇ」
ベリルの視線はそのまま、プラムの足元まで下げられた。
「…あ」
その意味に気づいたサフィルスが声をあげる。
「え? なになに、何が問題なんだよ」
「ボク、なにかいけないことしたですか〜」
「いや、プラム自身は悪くないよ。ただ、このまま演じつづけたとして」
「ガラスの靴が問題なんですよ」
ベリルの言葉を受け継ぐように、サフィルスが言葉を付け足す。
「…ああ―!!」
やっとそれに気づいたのか、アレクが叫んだ。
「このサイズの靴がもし階段に落ちてたら、間違いなく奈落の民ではない、ということだけは一目瞭然だね」
「そのあとのシーンも不要になりますし…」
アプラサスである彼の足は魔人の足とは大きく異なる。
その大きさから言っても靴をはく、ということは困難に思えた。
また靴をはけたとしても、今後のシーンに支障があるということだけはアレクにもよくわかった。
「はう〜〜〜〜」
プラム自身も意味をようやく理解したのか、残念そうに周りを見まわした。
「じゃあ、ベリルさんにシンデレラのやくゆずるのです〜。ボク、ベリルさんのまほうつかいのやくもやってみたいとおもっていたのです!」
「僕がシンデレラを?」
「そうだよ、ずっと出番待ってたんだし、ベリルやってよ!」
プラムの料理から解放されたアレクは晴れ晴れしい表情でベリルに詰め寄る。
プラムとアレクの言葉に、ベリルは苦笑しつつも首を縦に振った。

戻る 続く
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