- 雲射抜け声! - 第2章 - 化け物 - |
家を出てから3回目の夜がきた。
3日でブリテインを遥かに南のトリンシックという街まで来る事ができた。
しかし、今はゆっくりと休んでいる暇はないようだ。
「…はぁ、はぁ、はぁ…」
囲まれている。
(どうしてこういう時にレイジいないかなぁ?私、死んじゃうよ…?)
「…じゃあ、ちょっと食料を調達してくる。すぐ戻るから大丈夫だ。」
運悪く、レイジは先程こんな言葉を残してどこかへ行ってしまい、そして、ちょっと川へ水を汲みに出たらちょうど近くにいたオークキャンプに出くわしてしまった。
「…火よ!我に従え!Vas Flam!」
呪文を唱えると掌から火の玉が飛び出し、オークに直撃する。
「…グルル…」
(全然きいてないよぉ。)
直撃した魔術はぱっと光り、オークは少し痛がった様子を見せたがそれほど効いているような様子ではなかった。
さらに、まだまだ4匹ほどオークはいる。
今、自分ができる魔術はさっき使ったFireballが属するようなせいぜいレベル3の魔術が限界だ。
魔術にはレベルというものがありレベル8まである。
やはりレベルが高ければ高いほど魔術の威力は強くなる。
これは魔術師の能力にもよっても威力はかわる。
だから、まだ魔術師の学校で訓練していた程度の魔術ではたかが知れている。
(…あは、もうマナも切れてきたよ…)
マナというのはしいて言うところマジックポイントと言ったところか。
マナというものは術者によってはその多さも変わってくる。
マナが多ければ多いほど強力な魔法も使えるし、マナが少なければちょっとした魔法を使っただけでしばらくは魔術が使えないなどといった事もある。
(…ごめん、お母さん、お父さん。約束守れそうにないや…)
目をつむり死を覚悟した時だった。
「ぐぎゃぁぁ〜〜!!」
オークの悲鳴がいくつか聞こえたかと思うとすぐに静かになった。
そして、男の声がした。
「まったく、この程度も倒せないでよく俺の役に立てるとか言えるな。」
目をそろそろと開けるとそこには4匹のオークの死体とレイジの姿があった。
「レイジ!!」
嬉しさでついレイジに抱きついてしまう。
「ありがとう!また助けてもらったね!」
「ったく、これからはそんなに俺と離れるなよ。お前が離れると余計面倒が増えそうだ。」
「うん!」
そして次の朝がきた。
「さてと、じゃあ、とりあえずトリンシックでアイテムやら何やらを整えようか。」
「うん、わかった。」
そして日が真上に昇った頃にレナとレイジはトリンシックという街に着いた。
しかし、町の様子が何かおかしいことに街に入ってすぐに気がついた。
「どうなってんの?誰もいないよ…?」
このトリンシックという街はブリテインほど人は多くはないが、それでも街の人々がいつも賑わっているはずだ。
「…確かに、これは何かおかしいな…?」
よく廻りを見渡すとどこも店は開いているのに誰もいない。それだけか街を歩いてる人もまったくいない。
しばらく街の中をうろついたがどこもみんなそんな風景が続いていた。
「やっぱり、おかしいよ。この街何かあったんだよ!」
「…だろうな。流石にここまで人がいないというのはおかしい。」
そして2人でいろいろ考えていると、急にレイジが横の方をきっと睨んだ。
「ど、どうしたの?」
「しっ!」
レイジがレナの口を手でふさぎそして静かにしろと手でジェスチャーをしながら、民家の角の方へ隠れた。
そしてちょっと顔を出しその何かの方向へと目を向けている。
「…どうしたの?何かいるの?」
声を殺してレイジに尋ねる。
「…見てみろ。」
とレイジが言うのでその方向へ目を向けてみる。
そうしたら自分の目を疑いたくなった。
その先には街の人々がいるのだ。
しかし、これを見たら誰もが悲鳴をあげるだろう。
街の人々は確かにそこにいる。
しかし全ての人々は首だけの状態だった。
人々は木になっていた。木の実になっていた。
「…ど、どうなってんの…?」
その木の周りには誰もいない。
それを確認してレイジはそっと木の近くへよった。
レナは慌ててレイジを追った。
「話せるか?」
木に向かってレイジは話しかけた。
「…ああ。なんとかな…。けど、あんた早く逃げた方がいいぜ。あんたそこそこ腕は立つみたいだが、あいつは異常だ。あいつにはかなわない。」
木の実になっている1つの首が話した。
見るとその首は冒険者だったのだろうか?強靭な顔つきをしている。
「どんな奴にやられた?」
「…見たこともない奴だ…。あんな奴は見たことがない…。奴は強靭な肉体をもち、さらに強力な魔術も使ってくる。そしてなにより厄介なのが、奴の吐く…。」
言葉の途中でその男の首は吹き飛んだ。
何か強力な液体がその首を吹き飛ばしたようだ。
吹き飛んだ首はそのまま灰となって消えてしまった。
レイジとレナはその何かが飛んできた方向をきっと睨んだ。
そしてその見た先には見たこともない生物がいた。
それはまず、どんな強力な剣でもはじき返すだろう筋肉質な身体。なんでも噛み砕くことが出きるだろうその牙。どんな硬いものをも粉々に砕くだろうその爪。そして何より目立つのがその背中に生えている翼。
今までこんな魔物は見たことがなかった。
レイジも同じでこんな魔物は見たことがなかった。
「ふはは、人間。貴様もこの俺様の餌食になりにきたのか?馬鹿な奴だな。」
「貴様は…?」
「俺か?はん、名前なんて教えてやらねえよ!どうせお前等は今、ここで俺様に食われるんだ!」
と、言った次の瞬間にその魔物は襲いかかってきた。
見かけはかなり鈍重そうに見えるが違い、ものすごく機敏だ。
その背中に生えた翼がばさっと一回やっただけでものすごい勢いで跳んできた。
そしてその強力な爪でレイジを吹き飛ばした。
「レイジ!!」
「ぐはっ…」
レイジは後の民家の壁にぶつかり崩れ落ちた。
「…火よ!我に従え!Vas Flam!」
掌から火の玉が飛び出しその魔物に直撃する。
しかし、魔物はまったくびくともしていない。
「あぁ?おお、これはうまそうな娘だな。」
こっちを向いて少しずつよってくる。
しかしガキンという硬い音がしたかと思うと魔物はうしろを振り返った。
「その娘に手を出すな…!」
レイジは人間の身体はありそうなバスターソードをもって魔物に斬りかかる。
だがその魔物はいとも簡単にバスターソードををつかみ、レイジを吹き飛ばす。
「ぐはぁ!」
レナはすぐにレイジのもとによった。
そしてレイジの肩を組みひとつの呪文を唱えた。
「…風と時よ!時を抜け我の意のままに吹き抜けろ!我を運べ!Kal
Ort Por!」
つぎの瞬間レナとレイジはその場から姿を消した。
「…ち。逃がしちまったか。まあ、いい。どうせまだ食い物には困ってねえんだ!はっはっはっはっはっ!!」
日も暮れ、空には月が昇った頃レナとレイジはあるトリンシックの郊外の民家にいた。
「大丈夫かい…?」
「ありがとうございます。」
レイジが眠るベッドの横でレナは少し歳をとった男の持って来たコーヒーを受け取った。
「…あんな化け物がいえるんじゃあ、トリンシックはもう終わりだな。…いや、トリンシックだけじゃないな。そのうち世界も全て終わっちまうな。」
「一体、何が起こったんですか?あの街で。」
「つい先日だ、そうだな、5日ほど前かの?急に奴はこの街に来たんだ。他に魔物を引き連れてきたわけでもなく奴一匹で。そして何の前触れもなく奴は殺戮を繰り返した。いや、殺戮というか、あんた等も見たんだろ?あの木を。ああやって人間を木の実に変えて少しづつ食う気なんだ、奴はな。人々もあまりに突然の出来事だったので誰も他の街へ助けを呼びに行くことができないらしいな。」
(あれ?)
レナはふと思った。
「あの、どうしてそんな詳しいのになんでここで普通に暮らせているのですか?助けを呼びに行かないのですか?」
老人は少ししまったという顔をしたかと思うと笑い出した。
「ふふふ、わしも馬鹿だな。つい調子に乗ってしゃべりすぎたわ。」
「え…?」
「ようはな、こいつもグルなんだよ。というよりこいつがあの化け物を造り出したんだよ。」
レイジが急に起きあがった。
「起きてたの!?」
「ああ、ちゃんと話しを全部聞かせてもらったよ。」
レイジは周りにおいてあった装備一式を装備しながら淡々と語り出した。
「まずな、あんな化け物はこの世界にはもともと存在しないよ。奴はな合成獣(キメイラ)って言ってな。人間の手で作り出された物なんだよ。ハーピーって知ってるだろ?あれと同じで造りだされた存在なんだよ。…しかも、何よりたちが悪いのがその組み合わせ方だ。爺さん、あんた自分の息子使っただろ?」
老人は驚いた顔をした。
「どうしてわかった?」
「そこに写真があるじゃないか。あの化け物そこに写ってる男と顔が一緒だ。」
そして老人は諦めたかのように言った。
「…ふふふ、確かにあれはわしが作ったのじゃよ。すごいよくできてるだろう?造るのは大変だったんだぞ?わしの息子をベースにドラゴンとトロルを組み合わせたからのぉ。」
「どうりで強いわけだな。」
「そしてな…、何より苦労したのがな…」
老人の姿が少しづつ変化してくる。
「やばい!レナ逃げるぞ!」
「自分にかけ合わせることの苦労だよぉ!!」
レナとレイジが家から逃げ出した時、丁度家は崩壊した。
そして老人はまったく違う姿になって家から飛び出してきた。
「くわっかっかか。貴様等、この秘密を知ってしまったんだ。死んでもらうぞ!!」
老人…、キマイラが襲いかかってきた。だが息子程機敏ではない。
どうやら年齢と比例して弱くなってしまったようだ。
「レナ、援護しろ。」
レイジはぼそっと呟くとキマイラへと向かっていった。
バスターソードを振り下ろす。
流石にドラゴンの皮膚とトロルの筋肉だけあってとてつもなく硬い。
「レナ!俺の剣に向かってFireBallを放て!!」
「わかった!」
レナは呪文を唱えだしバスターソードへと向かって放った。
「…火よ!我に従え!Vas Flam!」
魔法は見事に当りバスターソードが赤く燃えている。
そしてそのままレイジはキマイラへと向かって振り下ろした。
今度はキマイラの皮膚が溶けて腕を斬り落とせた。
「ぐわぁぁぁ〜〜!!!!」
キマイラは悲痛な叫びをあげた。
そして続いてレイジはニ撃目を斬りかかった。
今度はさっき斬り落とした腕の切り口から斬りかかった。
そしてそのまま斬り口からキマイラは真っ二つに斬られた。
そして悲鳴を上げたあとでキマイラは灰となって消えた。
「やった…、やったよレイジ!!!」
「ふぅ…。あとは奴だけか。」
「でも、レイジどうやって真っ二つにしたの?最初のでもう魔法の効果はきれてたはずだよ?」
「外が固くても流石に中は軟らかいだろ?だから斬れるんだよ。」
「あぁ〜、なるほどぉ。」
「さぁ、いくぞ。」
「うん!」
そして街へ戻ると息子のキマイラは木の前にいた。
「あん?また来たのか?お前等馬鹿だろう?逃げていればしばらくは生きていられたのにな?まあ、いつかはどうせ世界全部を食い尽くす俺に食われていたんだろうけどよ!」
キマイラは大笑いをして、隙だらけだ。レイジはその隙を見逃さなかった。
「レナ!!」
叫ぶと同じにもう呪文を唱え終わっていたレナの魔術がバスターソードへと跳ぶ。
バスターソードが赤く燃えあがりそのままキマイラへと切り落とされる。
しかし、今度は先程のようにうまくはいかなかった。
多少の傷を負わせることはできたがそこまで致命傷にはできなかったようだ。
キマイラは怒り、ものすごい勢いでレイジへと突っ込む。
とっさにレイジはバスターソードで防御し、それと同じにレナはさっきと同じ呪文をレイジのバスターソードに打ち込む。
バスターソードは真っ赤に染まり、それをつかんでいたキマイラの腕もろともレイジは斬りつけた。
キマイラの指の何本かは吹き飛び、そして一緒に腕も使えないほどのダメージを負わせた。
「くそぉ!くそぉ!くそぉ!たかが人間程度にぃぃ〜〜!!!」
「お前ももとは人間だろう!」
と言ってレイジはまた斬りかかる。
親のキマイラを倒した時同様傷口へ斬りつける。
腕を切り落とすことができた。
「…貴様等、どうしてそれを知っている?…まさか、親父を殺したのか!!?」
というとキマイラは突然動きを止めて泣き出した。
「…え?」
「ふふふ、やっと俺は自由になれたのか…。あの忌々しき親父め!!はっはっは!!俺は自由だ!!」
かと、思うと今度は笑い出した。
「…え?え?」
レナはどうしていいかわからずに混乱している。
「親が死んでも悲しまないか。外道め。」
「はっはっはっ!俺が外道なら親父は悪魔だ!俺を何も言わずにこんな姿にしやがった上に、自分の為だけに俺を道具として使おうとしやがる!…まあ、この姿にしてくれたことで俺は最強を手に入れたからな…。それは感謝してるよ。…さあ、自由になったことでまずは手始めに貴様等の首を貰おうか!!…くくく、親父、敵をうってやるよ。はっはっは!!」
といってキマイラは口から何か液をすごい勢いで飛ばしてきた。
レイジはとっさにそれをよけた。するとその液がついた民家の壁はどんどん溶け出した。
「くくく、俺の胃液は最強だぜぇ~!ほらっ、ほらっ!!」
どんどん吐き出されてくる。レイジとレナは必死によけている。
「これじゃあ近づけないよ!!どうするのレイジ!!??」
「レナ!あれ!」
レイジは上の方を指を差して言った。
その方向を見て、なるほどと思い、
「おっけ〜!まかせて!」
とレイジに答え呪文を唱え出した。
「…重力よ!地の定理を狂わせろ!!動け!!Ort
Por Ylem!!」
「ふはは、そんな呪文は俺様には効かないと言うのがわからんか!?…な、なに!?」
と言ったのが彼の最後の言葉だった。
キマイラは後から一突きに刺され、そのまま息絶えた。そして灰となって消えた。
その後、木の実にされていた街の人々はもとの姿に戻りこうしてトリンシックに再び平和が訪れた。
「さってと、じゃあ、次の街へ行こうか?」
「ああ、そうだな。」
「装備も整えたし、さあ行こう!」
レナとレイジはこうしてトリンシックを後にした。
「にしても考えたね。まさかあそこで洗濯物であいつの視界を防いでそれで斬りかかるなんてね。そんなので死んだあいつは悔しいだろうねぇ。」
「ああ、そうだな。最初から人々に逃げる隙も与えなかったのが運の尽きだったな。」
「うん!」
レナは笑顔で答えている。
だがレイジには気になることがいくつかあった。
(どうしてあんな古代の精製の呪文を知っていたんだ?ああいった禁忌の呪文の呪文書は全て灰にされたはずだぞ…?…まだ残っているというのか?それとも魔界から…?また奴が…?…まさかな…。…ん?どうして俺はそんなことを知っているんだ?記憶が…?)
「どうしたの?レイジ?」
「あ、ああ?ああ、なんでもない。なんでもないんだ。」
(思い出したらいけない…。何か嫌な予感がする…。何かとてつもなく大きなことが…)
「レ、レイジ…?大丈夫?顔色悪いよ…?」
「あ、ああ、すまない。大丈夫だ、俺はなんともない。さあ、行こうか。」
「う、うん…。」
「次は西へ行ってスカラブレイでも行こうか。」
「うん!行きたい!」
「よし、じゃあ、行こう。」
(まあ、そのうちわかることだろう。今はまだ…、必要ない。)
レナとレイジはまた歩き出した。
次の目的地へと。
それぞれの目的へと。