- 月の心 -

人生にはとめどなく不安がとりまく。
月の光あびて今宵心満たす。

「あぁ〜、もう!くそっ!」
「だから、そんなにただ剣を振り回すだけじゃ、敵にかすりもしないんだよ!」
剣と剣がぶつかり合い、心地よいとは言えないが小気味良い音を発している。
ここはユーという、小さく、とても穏やかな村だ。
俺はこの村が好きだ。
これからもずっとここで過ごしていって、人生をそのまま終えてもいいと思ってもいる。
今、やっている剣術の稽古だって、ただ、趣味でやっているだけで、せいぜい護身術程度だ。だから、別に大きなブリテインのような都市に行って、戦士になろうとかは全然考えていない。
「別に敵と戦うわけじゃないんだからいいんだよ!」
俺の名前はポンタ。
…こんな、ふざけた名前だが、実は俺は、王子だ。
本名は、ポンタル=カッテ=ラ=ロチャという。
ふざけて言っているわけではない。本当のことなんだ。
と言っても、このブリタニアに存在する王国ではないので、誰も信じてはくれない。
俺は、つい4ヶ月前にこのユーに来た。
…来たというより、流れ着いた。
俺の国は今、戦乱の真っ只中で、俺は王国を追われていた。
その時、たまたま鉢合わせた船に乗り、安全な場所を求めて国を出た。
しかし、…まあ、ありがちな話だが、船が難破し、こうやってユーにたどり着いたと言うわけだ。
「だけど、ポンタ!お前、エティン程度も倒せないじゃないか!そんなんじゃ、この村を出ることなんて絶対無理だぞ!?」
俺を海岸で見つけて、助けてくれた少女。名前をシトラという。年は17才。
髪はショートで、まさに美少女という言葉が似合う。
活発な性格で、多少男勝り。剣の腕に自信があり、18になったら村を出て、ブリテインの王国騎士団に入ろうと考えているらしい。
…確かに彼女は強い。彼女だったらきっと立派な騎士になれるだろう。
「うるせーよ!いいんだよ!俺はこの村で暮らすんだから!」
「おいおい、いい年こいた男がそんなつまらない人生であきらめていいのか?」
と言いながら、剣を振るってくる。
「…つまらない?確かに、つまらないかも知れない、でも、もう人が死んでいくのを見るのは嫌なんだ!」
「私はその争いを止めるために騎士になるんだ!」
ふっと、シトラは剣をおろした。
「…あんた、ただの弱虫だよ!そんなただおびえて暮らしているだけじゃあ、結局、何も変わりはしない!死人はどんどん増えるんだ!自分から動かなくちゃあいけないんだ!」
シトラの目尻がすこし、光っている。
「…結局、それは人を殺すんだろ?俺は嫌だよ…。そんなの出来ない…」
「…ポンタは優しすぎるよ…」

ふと目が覚めてしまったので、外に出た。
流石に夏だと言えど、夜は冷える。
その上、ブリテインのような都市ではないので、田舎のここは夜になると真っ暗になり、ただ月明かりだけが頼りになる。
「あ〜、月が綺麗だなぁ…。…今もまた王国では人が死んでいるのだろうか…?月はこんな淡い青白い色ではなく、やはり真っ赤に染めあがっているのだろうか…?」
ふと、そんな言葉を口にした。
月を見ると、いつもそんな昔のことを思い出してしまう。
昔と言っても、4ヶ月前か…
「…弱虫か…」
昼間のシトラの言葉が頭をよぎる。
「…仕方ないだろ…、あんなに、人が死んでいったんだぞ…?」
がさ。
はっとして、音がした方を見る。別に何か見えるわけではない。
「気のせいか…。さてと、寝ようかな…」
シトラほどの腕前の持ち主だったら、気配で人がいるとかわかるんだろうな…
こんなことを考えながら、部屋に戻った。

「ほらよ!起きろよ!」
誰かの声がする。
目を開けると光が目の中に飛び込んできた。
…そして一緒にシトラの顔も。
「うをぉ!シトラ!!」
「な、なんだよ?」
「なんでこんな所にいるんだよ?」
そう、いつも、シトラは起きるのが遅いので、俺のほうが早く起きているくらいだ。
だから、こんなことになると、慣れていないので、かなり驚く。
「あ?いちゃあ、悪いか?」
「あ、い、いや、全然悪くない!」
すごい気迫がびりびりと伝わってくる。
「ったく、せっかく起こしに来てやったのに」
シトラに似合わず、女の子の様にすねている。
「あ゛?」
「え!?」
驚いた。なんで心に思った事がわかるんだ?
剣の達人になると心もよめるのか!?
「あ〜、そ、それより、どうしたんだよ?」
あまりに怖いので、無理やり話題をふってみた。
すると、明るい顔で、
「そうなんだよ!!聞いてくれ!私は今日で18だ!」
あ…、そうか、誕生日か。…と言うことは…
「私はブリテインに騎士の試験を受けに行く!」
「へぇ〜、そうか、年が18を超えればいつでも試験を受けられるもんな」
「ああ、そうなんだ。だから、もう、今から行こうと思ってな」
「なに?もう行くのか?別に今日じゃなくても…」
「いや、もう決めたことだから。それで、ポンタに挨拶しようと思ってな」
「そっか…、もう、いっちまうのか」
流石にこういう奴でもいなくなってしまうとなると少し寂しい。思わず顔にも出てしまう。
「ははは!別に会えなくなる訳じゃないんだから!どうせ、ずっとこの村にいるだろ?いつでもってわけにはいかないけど、会いにくるからさ!」
「あ〜、そうだよな。また会えるもんな」
しかし、やっぱりいなくなってしまうのは寂しい。必死に顔に出ないように頑張る。
「あ、そうだ!シトラ、ちょっと待ってろよ」
前からシトラの誕生日のために用意しておいた物がある。
「これ、やるよ。誕生祝いだ」
「ん?何これ?」
「開けてみろよ?」
誕生祝いをやるって言ってるのにそれほど嬉しそうにしなかったのでちょっと悲しい。
「わぁ、指輪じゃん。いいのか?こんなもの?」
あ、喜んでる。すごい嬉しい。
「もちろんだよ。ちょっとずつヘッドレスとか倒してためた金でお前のために買ったんだからな。ありがたく思えよ」
「あはは、こんなのオーガとか3匹くらい倒せば買えるじゃん」
ぐさ。
かなりこたえることを言ってくれる。
「あはは、冗談だよ。でも、…本当に嬉しい。ありがとうポンタ!大事にする!」
涙が出そうなことを言ってくれる。
「ああ…、じゃあ、元気でやれよな」
「ああ」

シトラが遠くの方で手をふっている。
それに答えていると、そのうち見えなくなった。
「行っちゃったか。さ〜てと、あいつも頑張ってるんだ。俺も頑張るかなあぁ」

「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」
今までこんなに走ったことはあっただろうか。
つまずいて転んで怪我をしたところが痛い。

シトラが旅だった夜、事件はおきた。
ブリテインに物資を調達に行ったユーの道具屋の男が村にかけこんできた。
「どうしたんだ!?」

「くそっ!くそっ!くそっ!!シトラ!無事でいろよ!」
ひたすらがむしゃらに走りつづける。

「…スカラブレイに向かう途中で山賊にあったんです…」
男が震えた声で搾り出すように声を出している。
「…その時、たまたま通りかかったシトラさんが、山賊と戦闘をはじめたんです…」
「…俺は、そのおかげで逃げることが出来たんですけど…」
「…相手は10人位いて…」
「シトラを見捨てたのか!?」
今まで、こんなに叫んだことはなかった。
そしてこれほどに怒りを覚えたことはなかった。
「…シトラさんが…、山賊を山の奥の方へおびき寄せていって…、俺に村に逃げろって…」
「だからって!!どうして、助けようとしなかった!?」
「あんた!!あの人数に勝てると思うか!?…俺はシトラさんみたいに強くない…」
「そうだな、シトラだったら山賊程度、蹴散らすだろう」
他の村の人間が言った。
「でも!?」
「ポンタ、そんなに気がかりなら勝手に行くがいい。…我々には山賊相手程度にも戦うほどの力がない。行っても無駄に命を落とすだけなんだ」
「く、くそっ!」
そう言って、俺は村を飛び出した。
…なんで、こんなことをしているんだろう?
…そんなことは絶対にしないような人間じゃなかったのか?俺は。

「はぁ!はぁ!はぁ!」
相手は誰だか、わかっている。ユーからスカラブレイの間に出るような山賊は1つしかない。
赤いオークのマスクをかぶった、ユーの村では手を出すなと言われてる赤獅子団だ。
そのアジトは確か、途中の山の洞窟にあるはずだ。
そこに行けばシトラが!

1つの洞窟を見つけた。
他には洞窟のようなものはないし、もし、いるとしたらここにいるだろう。
中に入ってみる。暗くて、前が見にくい。
しかし、1つ、明かりのようなものが見える。
多分、そこがアジトだろう。

その通りだった。
あっという間にかこまれてしまった。
「なんだ?お前?ここが赤獅子団のアジトだとわかって来ているのか?」
1人の下っ端だろうと思える、山賊の一人が言った。
「ここに剣士らしい、女の子が来ていないか?」
俺は恐怖など忘れて山賊に聞いた。
「ははぁ、あの女が逃がした、男が助けを呼んだのか」
「ここにいるんだな!?」
「…ああ、いるよ」
ふぅと、息をついて言ってくる。
「でもな、お前はここで死んじまうんだ。あきらめな。…あ?」
その疑問の言葉がその山賊の最後の言葉だった。
俺の剣がその山賊を斬りつけて、彼は絶命した。
「てめぇ!!」
他の山賊が一斉にかかってきた。
「ぐは!うがぁ!」
この時、俺はこんなことができたのか?というほどの剣技で次々と敵をなぎ倒していく。
あっという間に、死体の山ができた。
「お〜、よくやってくれたなぁ」
後から声がして、そっちをかっと振り向く。
この山賊のリーダーだろう、この光景を見ても落ちついている男が現れた。
後には3人ほどの山賊がいる。どの山賊も落ちついていた。
「いいだろう、お前の勇姿をたたえて、女を返してやるよ」
といって、気絶しているシトラをつかんで見せてきた。
…シトラは顔中にあざができていた。
…それだけではない。
…シトラは裸だった。
「きさまぁぁぁ!!!」
俺は猛ダッシュで山賊に斬りかかった。
しかし、さっとかわされた。
「おいおい、ちゃんと、生かしてやるだけありがたいと思えよ。」
にやにやと笑いながら山賊のリーダーは言っている。
「ほらよ」
といって、シトラを投げてきた。
さっと、移動してシトラを受け取る。
そして、くそっと吐き捨ててその場から去ろうとする。
その瞬間を山賊は見逃さなかった。
後から殴り倒され、俺はあっという間に気絶した。

そして次、目をあけた時…
目の前にシトラがいた。
首から下がない状態で。
俺は、無我夢中で山賊のいる部屋へ戻った。
「お、起きたのか。いいプレゼントだっただろう?あいつはいつまでたっても俺の言うこと聞かないもんだからな。首から下をはねてやったさ」
と、いって、笑っている。
「はっはっは、さぁ、その首を持って、さっさと帰り…」
その山賊のリーダーが言葉を言おうとした時にはもう、彼の首が飛んでいた。
「テメぇ…」
そう、山賊の1人が言ったが、聞こえる間もなく自分以外の全ての命が消えた。

シトラの身体も見つけだし、首と一緒に俺はその場をあとにした。

「…あんた、ただの弱虫だよ!そんなただおびえて暮らしているだけじゃあ、結局、何も変わりはしない!死人はどんどん増えるんだ!自分から動かなくちゃあいけないんだ!」
その言葉が今となっては心にずきずき響く。
そうだ、そうなんだ、動かなくちゃいけないんだ…
やってやる。絶対にやってやる!俺が王国を救う!…そして全ての世界を平和にしてみせる!

シトラはシトラが一番好きだった場所、そう、俺とシトラが出会った場所に眠っている。
そして、俺の指にはシトラの指輪がはまっている。

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