なんでもない日バンザイ
なんでもない、ないからこそ素晴らしい今日の為に。
さぁ、始めよう。
小さなパーティーの主役は……大好きな青空。
「ヒナタ、あれの準備は大丈夫か?」
声をかけられ、少女は後ろを振りかえる。
頭に子犬を乗せた少年と、その少年より僅かに背の高い、黒メガネの少年。
少女…ヒナタは微かに笑い、頷いた。
「おっしゃ!んじゃ……」
子犬を頭に乗せた少年はにっと笑みを浮かべ、二人を見る。
「パーティーの準備だ!!」
事の始まりは少女の読んでいた本。
その中にあった、なんでもない日のお祝い。
なんでもない事が、素晴らしい事なんて考えもしなかった。
あたり前の日常の何が素晴らしい?
3人ははっきりとはわからず首を傾げる。
「ならば…試してみるか…」
黒メガネの少年の提案。
そうだな…と頷いて、それから3人で相談。
何をしよう。
どこでしよう。
誰としよう。
3人で色々話して…そして気がついた事。
あぁ、もうなんでもない日じゃなくなってる。
お祝いするってこういう事?
小さな心の変化、わくわくして…ドキドキして。
こんな事ができるのなら…たしかになんでもない日っていうのも素晴らしい事。
「パーティーの主役は誰にする?」
頭の上の子犬を懐へ移しながら少年は二人を見てにっと笑む。
もう誰かなんて決まってる。
3人の頭に浮かぶ人物はたった一人だけなのだから。
さぁ始めよう、なんでもない日のお祝いを。
4人だけの素敵なお祝い。
他の人には絶対内緒、ついでに主役のあの子にも。
驚かせたいでしょう?
きっとあのこは驚くよ。
金色の髪を風に靡かせて。
前髪が目にかかるのも気にせずに。
青い大きな目を見開いて…そしてきっと笑ってくれる。
「ナルト」
アカデミーの帰り道。自分を呼ぶ声に立ち止まる。
声で誰かは直ぐにわかった。振りかえれば太陽の光を背に自分を僅かに見下ろしている少年一人。
「どうしたんだってばよ?シノ」
頭の後ろで両手を組んで、のんびりとした声。逆光が眩しいのか目を細め、見上げる金色の少年。
シノは何も言わずナルトの横に立ち、歩き出す。
いつもは滅多に声をかけてはこないシノが、今日に限って呼び止めたのを不思議に思いながらも、ナルトもともに歩き出す。
二人の間に言葉はない。
時折交わす会話は酷く穏かで、笑みを伴い。
それでも…いつもと何か違う気がするのはナルトの気のせいなんだろうか。
「なぁ、シノ」
声をかければ視線が返ってくる。
「…何企んでるんだってば?」
――気になるんだよ、さっさと言え。
いつも通りの作った口調と、思いを織り交ぜて。
シノはそれに気がついておきながらも何も言おうとしない。視線をはずしゆっくりといた足取りで歩いて。
それでも、ほら、どこか愉しそうに見える。
ナルトは小さな溜息を付き、追求を諦めた。聞かなくてもいずれ判るだろうと思いなおしながら。
いつも通り森へ行くのかと思えば、シノはあちらこちら宛もなくさ迷い…しかも離れようとするナルトを引きつれたまま。
……いったい何企んでるんだよ…まじで。
色んな物を見るのはそれはナルトも嫌いではない。宛もなく独りでぶらぶら歩きつづける事もたしかに多々ある。
…しかし、シノとこんな事をするのは初めてで…ナルトは周りに気をやる余裕すらなくなってくる自分を感じていた。
「なぁ…シノ??…ほんとに何企んでるんだってば」
ナルトの言葉に、シノがナルトを僅かに見遣れば、周りも見ずに歩きながら真っ直ぐこちらを見上げている視線とぶつかる。
足元を見ずに歩けば…
「転ぶぞ」
言ったとたんほら、言葉通り躓く。…倒れる前にシノが手を出し支えてやると、ナルトはその手にしがみ付き足元を見やっている。
こんな仕草は酷く子供らしくて…シノは僅かに笑みを浮かべた。その表情に気付いたナルトは憮然とした表情を浮かべ。掴んでいた手を離し再びシノを見上げる。
「いいかげんに話せってば!」
……短気だな…意外と。
そう呑気に考えているシノの肩に、小さな蜂が止まった。
くるり、突然シノが踵を返し歩き出す。
「……殴りてぇ」
思わず地に戻って呟くナルトの声が耳に届き…ついでにそんな事をいいつつも律儀についてきているのがわかって…シノはナルトに見つからないように密かに笑った。
「おい」
森に入って行くなり背後から蹴り…もちろんシノはかわしたが…僅かに眉を顰め振りかえれば不機嫌丸出しのナルト。
…キバに似て来たな……。
数年来の友人の顔が脳裏に浮かぶ。もちろんナルトはそんなシノの思考には全く気付いた様子もなく、シノが蹴りを交わした事に小さな舌打ちをつきつつも再び歩き出した。
「全く…結局ここ来るんだったらさっきまでのはなんだったんだよ…」
癖なのか、両腕を頭の後ろに廻し、ブツブツ呟きながら歩くナルトのすこし後ろをシノはゆっくりと付いて行く。
森はいつもと変わりなく。
柔かな風、小鳥の鳴き声。
耳を澄ませば小川のせせらぎ…虫たちの歌声。
光の届かない森の奥に…いつもの場所。
ナルトの足が不意に止まる。その先にいるのは見知った2人。
…それでもいつもと雰囲気が違うのは気のせい?
立ち止まったままのナルトの横をシノがすりぬけ、2人の元へ。
「ナルト…くん」
「何やってんだよ」
二人の声、二人の元へ行ったシノの笑み。
……なんだ??
不思議に思いながらもナルトは3人の元へ。
パ〜ン!!
突然クラッカーの音。
「なんでもない日。おめでとう!!」
「……………は?」
予期せぬ音、予期せぬ言葉。
ナルトは驚きのあまり目を見開き…そんなナルトの目の前には、悪戯が成功したかのような3人の笑顔と笑い声。
「大成功って感じじゃねぇ?」
「ナルトくん…怒って…なかった?…さっき」
「………」
3人の言葉も笑顔の意味も総て理解不能で、たち付くしたままのナルトの肩をキバが抱く。
「ほらほら、主役がなにボーっとしてるんだっての」
そのまま歩き出すキバと一緒に足だけ進ませながらもまだナルトの頭はパニック状態で。
「………何?…これ」
驚くナルトの顔が可笑しくて、驚かせれたのが嬉しくて、3人は声を上げて笑いながらの説明。
なんでもない日のお祝い。
なんでもない事こそが素晴らしいって…だから小さなお祝いを。
今日の主役…いや、脅かされ役はナルトだよ。
何度も瞬きしながら3人の言葉を聞き、顔を見ていたナルト。
ぷっ……あはははははははは
「すげぇ…予想外。…やられた……」
大笑いし過ぎで目尻に浮かんだ涙を拭うナルトの顔を見て、3人は凄く嬉しくて…嬉しくて…。
その笑顔が見たくって、内緒にしてたんだよ?
なんでもない日のお祝い。
ほら、差しこむ日の光すらこのなんでもない日をお祝いしてるよ。
主役の君には僕たちからのプレゼント。
「……これ……」
ナルトの手には小さな4体の人形。
黄色の髪と青い目の男の子。フードを被って頭に小さな犬の乗った男の子。肩に蜂を乗せた男の子…それに黒い髪と白い目をした女の子。
「皆で…つくったの……もらって…くれる?」
女の子の人形によく似たあの子が小さな声でナルトに訊ねる。
「貰って……いいのか?」
目を見開いたまま人形を見て、ぽつり呟く言葉に、3人は頷く。
「お前のものだ」
「いらねぇって言っても持って帰れ」
「貰って…欲しいの……」
「わん!!」
暖かい声。優しい何かが胸の奥にじんわりと広がって行くような…そんな感じ。
「……サンキュ……」
照れくさそうに、嬉しそうに笑う3人の大好きな金色のあの子。
「…でも…俺何も皆にあげてないのに…」
ナルトの言葉に返って来るのは笑顔。
もう貰ったよ。
1番の贈り物。
大好きな…君の……。
なんでもない日バンザイ。
なんでもない日おめでとう。
なんでもないから…幸せ。
この日がずっと続きますように…。
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