さぁ始めよう、懐かしいお遊び。
誰もが1度はした事あるよ。
夢の時間の始まり、始まり。
愉しい遊びは……おままごと。
「ナルト〜〜〜〜〜〜!!」
耳に届いたのは大好きな女のこの声。
ナルトはもう1度目を擦り、声のしたほうへ振りかえる。
振りかえった時には、その女の子は自分の目の前。
両膝に手をつき、肩で息をして…そして女の子は顔を上げる。
「どうしたんだってば?…サクラちゃ……」
女の子がこんなに息を切らしながら自分の側に駆け寄ってくるのは初めて。
不思議そうに問いかけようとする言葉に重なって。
「もう、探したんだから、もうすぐ御飯の時間なのよ?お父さんもお母さんも心配してさ〜、皆であんた探しに来たんだから」
「………え?」
思いもよらない言葉。首を傾げるナルトの前で、女の子は後ろを振りかえる。
視線を向けるとその先には、自分も知っている上忍2人。
咥えタバコでポケットに手を突っ込んでいる男の人と、優しい笑顔を浮かべた女の人。
「…アスマせんせ〜に…紅せんせ〜?」
どう言う事だかわけがわからない。
頭の中が?????で一杯のナルトの前で、女の子は男の人の腕にしがみ付く。
「おとうさん、ナルト見付けたよ」
「お父さん?…サクラちゃんのお父さんって…アスマ先生だったんだってば……」
呆然と呟くナルト…良く考えれば苗字がしっかり違う事に気がついて…。
さらに意味がわからなくなるナルトの頭を女の人が優しく撫ぜる。
「こら、ナルト。…任務以外であう時は…お父さんとお母さんでしょ?」
優しい声、優しい笑顔…さっき見た親子のお母さんみたいな……。
「え?……」
心の中を過るのは一つの考え。
見られたんだ…でも……。
笑う事なくこの3人がしてくれようとしている事は?
「ナルト早く〜、お姉ちゃんおなかすいたよ〜!」
アスマの腕につかまって…明るい声を上げるサクラ。
「そうね…早く行きましょ?夕飯の買い物にいかなくちゃ。ね?」
優しく笑顔を浮かべてナルトの手を取る紅。
一緒に歩く先で二人を待つアスマはナルトの頭にぽんと手を乗せ。
「で、今日はどんな任務があったんだ?」
優しい笑顔、優しい声、暖かい空気。
3人の顔が…周りの風景がぼやける。
「ナ…ナルト??」
サクラの吃驚したような声が聞こえる。
「…仕方ねえなぁ」
言いながらひょいっと肩に乗せられる。…タバコのにおいのする大きな肩。
「男の子なんだから、泣いちゃだめよ?」
優しい声であやすように背中を撫ぜられて………。
あぁ…なんて幸せ。
涙を拭い、満面の笑顔。
「うん。御免ってば、……父さん…母さん……サクラお姉ちゃん」
小さな小さな子供の声の、最後の躊躇いがちのそれでも泣き出しそうに嬉しそうな言葉。
3人の顔にも同じ笑顔。
「も〜、ほんっとに心配しちゃったでしょ?」
笑いながらアスマの腕にしがみ付いてナルトを見上げるサクラ。
サクラの隣にあたり前のようにいて暖かい笑顔を浮かべる紅。
頬をかきながらも、紫煙がナルトに行かないようにさり気無く煙草を消すアスマ。
皆…皆照れくさそうな…でも嬉しそうな笑顔で。
一緒に帰ろう?
暗くなって行くこの道を。
長い長い影3つ。一つの影の肩にももう一つ。
笑い声を上げて。
ほら…誰もが振り返るよ。
なんて幸せそうな家族なんだろうって。
「ね〜、お母さん。今日の夕飯なに〜?」
紅を無邪気な表情で見あげながらサクラはナルトにわからないようにこっそり目で合図。
『今日…うちに電話してくださいね?』
無断外泊はやっぱり怒られる。
紅はそれに気づき、でもやっぱりナルトにわからないように頷く。
「今日は…お父さんの給料も入ったし、すき焼きにしよっか?」
そしてアスマを見て少し意地悪そうに愉しそうに笑顔。
「げっ……まぁ…仕方ねえな…あんまり肉ばっか食うんじゃねえぞ、お前ら」
紅を軽く睨み返しながらも、声は優しく愉しげで。
そんな3人と一緒にいれる事が嬉しくて…その中の一人に入っている事が幸せで…。
「わ〜〜〜〜い!!やったってば〜〜♪」
アスマの肩で、嬉しそうにはしゃぐ。
4人でアスマお父さんの家に帰って、紅お母さんとサクラお姉ちゃんがご飯作っている間にアスマお父さんと一緒に御風呂に入って。
その日の任務の話で盛りあがる。
「今日はイソノさんとこのタマを捕まえに行ったてばよ!」
「……(どっかで聞いた事ある名前だな)…で、どうだったよ?」
「もっちろん俺が大活躍だってば!!」
濡れヒヨコ、熊の膝で大威張り。
その仕草が可愛くて、可笑しくて、笑い堪えながら頭を撫でる。
「そうか、偉いな、ナルト」
首を竦めて嬉しそうに笑うナルト。…ほんとはすこし嘘だけど。
大活躍は、やっぱりサスケ。悔しいけど今だけは嘘つかせてってば。
御風呂場の会話を聞きながら、サクラは笑いながらネギを切っている。
「ほんとはサスケくんが大活躍だったのよ」
「あら…」
クスクスと笑いながら調味料を合わせて行く紅。
サクラはネギを切る手を止めて、紅の横顔を見る。
「どうしたの?サクラ」
視線に気付いてサクラを見る紅の目に写るのは、驚くほど大人びた、真面目な表情のサクラ。
「紅先生……ありがとう御座います」
本当はだめって言われると思っていたの。
だっていきなりのおままごと。
思い付きだけで突っ走った私に付き合ってくれて…ありがとう。
そんなサクラに紅は笑って、イイコねって頭を撫でる。
優しい、優しい女の子。良い女になるわよ?あなた。
言葉に出さずに手を引っ込めて、再び調味料と向き直る。
「何言ってるの…今日は貴方も私の娘よ、サクラ」
言葉にサクラは嬉しくて…じんわり浮かんだ涙を拭う。
ネギが目に染みたんだから…誰も聞いていないのにそんな言い訳をしながら。
わいわいがやがや騒がしく食卓囲んで。
飛び交う会話は特別なものでもなんでもなかったけど。
その日のすき焼きは…今まで食べたどんなものより美味しくて。
ほんの少し涙の味のする…幸せなもの。
皆で布団並べて一緒に眠って。
あぁ…どうしよう俺ってば。
今日は眠れないかもしれない。
眠ってしまったら嘘になっちゃいそうで…ただの夢になっちゃいそうで。
勿体無くって眠れないってば。
こっそり周りを見回して見る。
いつもの一人ぼっちの部屋じゃない。
優しいお母さんと、お姉ちゃんと…お父さんがいる。
ほんとに夢じゃないのかな?
あぁ…どうしよう、ほんとに眠れないってば。
幸せ過ぎで…死んじゃいそう。
そんなナルトの心情を、知ってか知らずか大人の2人。
一緒に誰かが眠っているのが…不思議なのと幸せなのは実は二人も同じ。
(アスマのお父さんぶりも結構様になってたわよね)
(紅のやつ…あんな表情も浮かべられるんだな…初めて知った)
そんな事考えながら…二人の間で寝息を立てる娘と、なんだかゴソゴソもぞもぞしている息子に小さく笑って。
「ほれ…もう寝な、ナルト」
「そうよ、明日も任務でしょ?」
おやすみなさいと声をかけて…静かに電気を消しました。
本当は少しだけ心配。
半端に優しさを分け与えて…この小さな子供は後でつらくならないだろうか。
明日になれば…この子はまた一人の家に帰るのに。
孤独に…負けたりしないだろうか。
「お休みなさいってば……父さん…母さん」
でも思い知るのはこの大人達。
子供は孤独になんか負けなかった。
あの幸せな想い出が…一人の淋しさよりずっとずっと勝って…。
そして淋しくなったのは大人達。
子供の暖かさと明るさがいつまでも心に残って…。
一人の部屋が無性に広く感じるようになった。
「ねえ、先生たち。また、あれしようね?」
桃色少女の提案に、頷いたのは言うまでもない話。
さぁ始めよう、愉しいお遊び。
小さな子供に幸せを。疲れた心に潤いを。
さぁ始めよう、懐かしい遊び。
誰もがしたことのある…ちいさなお遊び。
いつまでも続く、夢の続き。
この後を語るのは、また今度……。