「…まぁ、いい笑顔だこと」
呟く自分の声が、どこか遠くで聞こえた気がした。
多分、それは気のせい……。
獲物。標的。監視物。
金色を纏ったキツネの仔。
演技の上手な可愛げの無い仔。
「ナルト〜!も〜、ちゃんと人の話聞いてんの??」
あきれたような声。…あれはサクラのものかね…。
サクラの隣で真っ直ぐ金色を見る眼…あ〜ぁ、んな顔で見たら…ほれ。あの子供は同じ反応返すって。
「お?きいてなかったってばよ……って…なんだよサスケ!」
子供らしい怒った表情。小さな手を握り締めて、忍者らしく無い豊かな表情で…。
面白いね…アンタ。
それが作りもんだって、あの2人に言ってもきっと信じないだろうね?
それだけアンタは完璧ってことか。
俺も、最初は騙されてたぐらいだし?
あれが嘘だって気付いたのはいつだっけ?……あ、そうそう。あの3人と一緒のとこ見てからか。
最初見た時は、 そこは、普段人の通る事の無い森の中で、人の声にふと立ち止まって、自然気配を探る。
あぁ…紅んとこの生徒ね……。
遠目で見ながらそのまま通り過ぎかけて…ふと立ち止まって。
……紅んとこ…4人だったっけ?
よく見りゃ、ほかには見ない金色。…ま〜なんて珍しい組み合わせだことって思ったっけ。
纏う雰囲気の違いに気付いたのはその時。
随分と落ち付いた…ほんの少し大人びた笑顔。
普段のガキっぽさは一体どこにいったのか、あの金色は穏かな空気包んで、ごく自然にその場に居た。
声かけるのもなんとなく気がひけて…そう考えること自体不思議だってそう気付いたのと、あの金色が俺の気配に気付いたのが同じ。
「あ〜、カカシセンセ〜!」
元気の言いいつもの声。自然空気が変わる。
あの金色は、俺のとこに走ってきて、いつもみたいに俺見上げて…。
「こんなとこでどうしたってばよ?」
……あぁ、嘘だな。
初めて感じた違和感…よく考えりゃ、不思議も無い事だったのにね?
あれだけの環境で…こんなに真っ直ぐに育つはずも無い。
騙されたフリしてにっこり笑って、ふかふかの金色をなでる。
「ん〜?任務の帰りかな?」
「なんだってばよ。その疑問形は」
笑いながら返すその金色も、俺の演技に気付いているのか、まだ子供を演じる。
ふと視線をやれば、あの3人の空気も微妙にかわっていて…まぁ、対した子供たちだこと。
気をつけないと、俺も見逃してしまいそうなほど巧妙に、この金色の演技に遭わせた空気を作り出している。
…じゃぁ、俺も騙されたフリしないとね?
キツネと狸の化かしあい…そんな言葉がよく似合う。
それを、よりによって子供としあうなんて…一体だれが想像した?
違和感すら感じさせない演技。
……先行きの怖い子供たち。
「あ…やっぱあん時に気付いた?」
クスクス笑いながら、キツネの仔が正体を現したのは、月の綺麗な夜。
「あ〜ぁ、もっと早くにあんたの気配に気付けてたらね…きっともっと面白かったのに」
なにも知らず、騙されてただろ?笑いながら言う子供に、俺はなんでも無いように返す。
「上忍をバカにしちゃいけないなぁ」
騙され続けるわけ無いでしょ?…そう言いながらも自信は皆無。
先入観に包まれて…もしかしたら気付けなかったかもね。
キツネの子供、おばかな仔。
いつも笑う、おばかな仔。
自分が悪いと責め続け…心で泣いてるおばかな仔。
…俺の中では、そのまんまだったかも。
ほんと、末恐ろしい子供。
「カカシセンセ〜、任務終了したってばよ」
金色子供の声で、俺は自身の思考から浮上。
呼んでるフリしてた本を閉じ、伸びを一つして見せて、いつもの表情いつもの声。
「ん〜…それじゃ〜帰るか〜」
その声を合図に子供たちが踵を返す。
「今日も疲れたってばよ…もっと違う任務もこなしたいってば」
「ナルトったら、そんなこといっちゃ駄目でしょ」
二人の半歩後ろをうちはの子供。
傍目にも無邪気な子供たち。
ほんと…この2人に言っても信じちゃくんないだろうね?
完璧過ぎるよ…可愛くない。
ふと立ち止まった気配に視線を上げれば、子供たちの視線の先には同じように任務をこなした8班。
小さな子猫が内気な女の子の腕の中にいる…あぁ、あれが依頼ね。
紅と目で合図…お互い、ガキの面倒も大変ダネ。
…もっとも…そっちのガキたちは…一筋縄じゃいかないっぽいけど?
あんたはどこまで気付いてる?
金色の仔が、いつものように子供らしい笑顔と仕草で8班の側へ駆け寄っていくのが見える。
戌使いとのたわいない言い合い。ムキになって怒る金色、それを溜息混じりに止めにいくサクラ…間でおろおろする内気な子に、無表情の蟲使い。冷めた目でそれを見るサスケ…。
ごくごく自然な光景。
違和感を感じるのは俺だけだろうね?
上手に演技する金色キツネ。
誰にも気付かれない…気付かせない。
気付いた子供たちも上手にそれにあわせ…笑ってる。
「まぁ……いい笑顔だこと」
呟く俺のその声は、きっと誰にも届かない。