笑った笑顔がうまそうだなぁって思った。
母さんが作ってくれるホットケーキみたいな笑顔。
その上に乗ってるメイプルシロップみたいな笑顔。
だからなのかな?
大好きなお菓子を、こいつとなら一緒に食べたいなぁって思ったのは。
合同任務の途中の休憩時間。
お昼御飯を食べ終わって、いつもみたいにお菓子に手を伸ばす。
一緒の班のいのやシカマルは、最初のうちは「ぽっちゃりし過ぎよ、あんた」とか、「それ以上食ってどうすんだよ」とか色々言ってたけど、今はなにも言わなくなった。
口の中に色々入れてると、なんだかしあわせになれる。
その気持ちがわかんないんじゃ、2人とも人間として失格。
……そんな事言ったら、凄い顔で怒るんだろう事はわかってるから言わないけどさ…。
食べながら周りを見まわす。
アスマ先生は、いつもみたいにタバコに手を伸ばしていて…俺に言わせれば、俺が食ってる物の量より絶対アスマ先生のタバコの量のほうが絶対に身体に悪いと思うんだけど…真っ白な煙を空に吐き出しながら、変な本を読んでいるカカシ先生と話をしている。
いのは、サクラと一緒にサスケを間に挟んで弁当片手に睨みあってて…多分どっちが自分の弁当をサスケに食べさせるのか牽制しあってるんだと思うんだけど…その様子は遠くから見ている俺からも凄く怖く写る。
……サスケもかわいそうな気がする。
恋する女の子は可愛いもんだ。…呑気に言ってたアスマせんせいの言葉が頭に浮かぶけど…可愛いとは程遠い気がしないでもない。
それを、同じ事考えてるのかな。シカマルが遠巻きに見てるのがわかる。
…あ、今、溜息混じりに『くそめんどくせー』って言った…シカマル、困ってる人見ると以外とほっとけない性格してるんだよなぁ。
……やっぱり、間に挟まれてるサスケの救出に向かった。
それから…それから…。
もう一人、金色の頭が見えないのに気がついた。
……どこにいったんだろう。
そういえば、合同任務の時、あいつが御飯食べてるの見たことない。
気がついたらいなくなってて…任務が再会される頃に戻ってくるような…。
いつもだったらそのままお菓子へと意識を集中させるんだけど、なんでかな。今日はあいつを探して見ようって気になった。
お菓子の袋もって立ちあがって、それから意識を集中させる。
いのやシカマルほどじゃなくっても、俺だって少しは気配を探る事は出来る。
……先生達はさすがだなって思う。こんなに側にいるのに…気配はあんまりわかんない。
上忍ってやっぱり凄いなぁ…腹減る任務ばっかみたいだからあんまりなりたくはないけど。
…っと、違う、違う。
感心し過ぎて、忘れそうになったことに、もう1回意識を集中。
直ぐ見つかるって思ったんだ。
だって、ここにいる皆の気配は直ぐにわかるし。
あれだけいっつも煩くって騒がしいあいつの気配なんか、見付けるのなんか簡単だって。
……でも、見つからない。
仕方がないんで探しに行く。
…どうしてこんなに見つけたがってるんだろ。
自分の行動が不思議で、少し首傾げながら、
それでも、あの金色のあいつを探しに歩く。
もぐもぐとお菓子をほおばって。でも1番大好きなお菓子は最後。
1番好きなのは、最後に取っておく主義だし。
食べながら、あの子を探す。
休憩場所とはあんまり遠くない、丘の上にあの子はいて。
胡座かいて、巻物と向きあってた。
…こんなに近くにいたのに…今はもっと近くにいるのに、気配はない。
空気に溶けこむようにそこにいた金色は、吹く風に顔を上げて、目を細めて笑った。
なんだかドキドキした。
初めて食べる、綺麗で儚い御飯前にしたみたいな…そんなドキドキ。
「……あれ?…チョージ。どうしたんだってば?」
立ち尽くしてた俺に気付いて、金色ナルトが顔を向ける。
……あれ?
今までなかった気配が、はっきりと生まれた。
首傾げながら、近寄ってくるナルトを見る。
「……いなかったから…どこに行ったんだろうって思って」
俺の言葉にナルトが少し吃驚した顔をして、それからニシシって笑った。
「しゅぎょーだってば♪おれってば大物だから暇な時間はいっつも修行するんだ」
小さな手を握って、ぐーって目の前に付き出す。
いつもと同じ仕草。
「ふ〜ん……腹減らない?それって」
「チョージってばいっつもそれだってばよ〜」
笑いながら巻物を丸めるナルト。……こいつって細い。
「昼御飯…食べた?」
俺の言葉にナルトはまきものしまいこみながら首を横に振る。
「……御飯、忘れちゃったってば」
腹減ってないから大丈夫。そんなこと言いながらナルトは笑う。
……気持ちがわかんない。
御飯食べなきゃお腹すく。お腹すいたらイライラしたり、哀しくなってくる。
…ナルトは、平気なのかな?
いつもと全然かわんないナルトは…たしかにお腹がすいてるみたいには見えないけど。
お菓子袋の中探る。……1番大好きなお菓子しか残ってない。
母さんが作ってくれた、甘いマドレーヌ。
1個しか残ってないけど……。
ナルトをちょっとだけ見る。
ナルトは俺の視線には気付いてないのかな。「今日の任務は絶対にサスケには負けられないんだってば」とかいいながら笑ってる。
……。
ちょっとだけ迷って、マドレーヌ、ナルトにあげる事にした。
大好きな、ほんっとに大好きなお菓子だけど。
今まで誰にもあげたことないし…お腹はまだ一杯じゃないけど。
なんで自分がそんな事してるのかはわかんないけど…でもあげる。
「………これ…俺にくれるんだってば?」
差し出したマドレーヌ、きょとんとした顔で受け取りながらナルトが俺を見てる。
「…腹…減ったら…哀しくなるから」
俺の言葉にナルトはマドレーヌじっと見ていて…。
「ありがとう……だってば………」
くしゃって泣きそうな笑顔浮かべた。
どうしてかな?
その笑顔見て、まだ少し減ってたお腹が一杯になった。
嬉しそうにマドレーヌ食べてるナルトの横顔見てたら、どんどんお腹が一杯になっていくんだ。
「すっごく美味いってば」
「…うん。俺も1番好き」
ホットケーキみたいな笑顔。
メイプルシロップみたいな笑顔。
「1番好きなのに…俺にくれたんだってば?」
少し驚いた顔で俺見て…頷いた俺に笑った笑顔。
…嬉しそうに、でも泣きそうな笑顔。
どんなお菓子よりも、お腹いっぱいになる笑顔。
でも…泣きそうな笑顔じゃなくって…もっとぱぁって笑ってくれたらいいな。
はじめて近くで見た、いつもとは違う笑顔に、ドキドキしてた俺の胸。
ふんわりとお腹一杯になる笑顔、ナルトは持ってる。
母さんが作ってくれるホットケーキみたいな。
その上にとろって乗って溶けるメイプルシロップみたいな。
大好きなお菓子、誰にもあげた事なかったけど。
ナルトになら…またあげたいなぁ……。
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