たとえば 出逢った時が違うとしたら お互いの環境が違うとしたら こうして愛し合っていたのだろうか? たとえば オレの全てが違うとしても それでも 愛してくれるか? たったひとつ変わらない 魂だけを想って―― |
魂の行方〜幻の箱舟〜 作:みよ様 |
「この世の全てを司る者がいるなら……」 「裏遊戯?」 「君に、オレの心の部屋に来てほしいと…願う……」 そう言って、裏遊戯は泣いた。 ☆ ☆ ☆ ザアアアアアアア………… 夜。 雨の音が聞こえる。 その中に、たった独り。 魂の姿で、彷徨っている。 相棒がいなければ、誰も自分に気づかない。 誰も、自分を見ない。 なんて不確かな存在。 パシャパシャパシャパシャ 足音が聞こえる。 裏遊戯はふり返った。 子供が独り、駆けてくる。 「静香……おかあさんっ!!」 夢中で叫んで、すがるように腕を伸ばして。 裏遊戯とすれ違う時、ぬかるみに足を取られてバランスを崩した。 『危ない…っ!』 思わず差し出した手。 物を掴むはずの、その手。 するり すり抜ける、子供。 何も掴めない。 何も掴めない。 「おかあさん…おかあさん!!」 盛大に転んだ子供が、顔を上げる。 裏遊戯は目を見開いた。 『城之内くん……?』 信じられない思いで、まじまじと見つめる。 重なる面影……間違いない。 「静香、おかあさん…っ…いかないでよーっ!!」 胸を抉る、哀しい叫び。 『城之内くん、泣かないでくれ……』 そっと手を伸ばして、抱き締める。 でも、感触は何もなくて。 相手に伝わることもない。 「うわああぁぁぁ――っ!!」 『泣かないでくれ。オレが傍にいるから……』 届かない言葉、届かない声。 ザアアアアアアア………… 雨が降る。 小さな子供の身体に、容赦なく降り注ぐ。 その雨から守ってやることもできない。 涙をぬぐってやることもできない。 抱き締めてあげることも――。 だったら 存在したって意味がない いや 初めから存在なんてしてなかったんじゃないか? ザアアアアアアア………… 雨が降り注ぐ。 子供の身体に、裏遊戯の上に。 確かに降り注ぐ雨は、裏遊戯の身体をすり抜けて。 泣けない魂の代わりに、頬を濡らすことも叶わない。 居るのに居ない。 それは、幻。 ☆ ☆ ☆ 「雨、が降ってるのか……?」 「あ? ああ、そういえば音がするな」 「そうか……」 「裏遊戯?」 どこかぼんやりしている裏遊戯に、城之内が心配げに名前を呼んだ。 裏遊戯は微笑むと、気だるげな身体を動かして、腕を伸ばす。 それは、抱き締めてほしい合図。 応えて抱き締める城之内の胸に甘えるように頬を寄せて、裏遊戯はぽつりと呟いた。 「夢を見た」 「夢?」 「いや…夢じゃないな。オレは魂だけの存在だから……あれは幻か」 「なに……言ってんだよ」 「本当のことだ」 「お前はここにいるじゃねぇか」 「いない。ここに存在してるのは、相棒の身体だけだ。オレはただ、その身体に同調してるだけ」 「……俺は、俺がさっき抱いたのはお前だと思ってるけど?」 「城之内くん……」 「今抱いてるのも、お前だと思ってる」 その言葉に微笑みながらも、哀しそうに目を伏せた。 「オレだけど、オレじゃない。心はオレでも…身体は相棒のものだ」 「裏遊戯?」 「抱いてくれ……」 さっきは言葉にしなかったことを言った。 今度は、違う意味も込めて。 城之内の手が、快感を呼び起こすように動き出す。 「っは……!」 喘ぐ声。 反応する身体。 高鳴る心臓……。 全部、オレのものじゃない。 (どこにあるんだ、オレの身体は) 自分だけの身体は、一体どこに? ここにあるのは、魂だけ。 相棒以外、誰にも見えない、誰にも触れられない、幻だけ。 「あ、城之内、くん…もっと、強く……」 抱き締めてほしい、強く強く。 身体が壊れて、魂が剥き出しになるまで。 そうしたら、城之内に魂を抱き締めてもらえる。 オレ自身を、抱き締めてもらえる……。 「破滅思考だな……」 「裏遊戯?」 「なんでも、な……っ」 城之内の一部が体内に侵入してくる衝撃に、喉をのけ反らせた。 おし寄せる、快感の波。 でも――。 (ちが、う……) これは、他人の身体を介して与えられるもの。 決して、魂自身が感じているものではない。 ただ、相棒の身体に魂が共鳴しているだけ。 「抱いてくれ、城之内くん……」 この魂を、抱いてほしい。 それは、不可能な願い。 「もしも、この世の全てを司る者がいるなら……」 「裏遊戯?」 「君に、オレの心の部屋に来てほしいと…願う……」 裏遊戯の頬に、涙が光る。 でも、これも、オレの涙じゃない。 泣けない魂の代わりに、相棒の身体が流したもの。 全てが嘘で、全てが幻。 ただ、この想いだけが、真実。 城之内への想いだけが、確かなもの。 その心だけが、裏遊戯の全て。 だから。 「オレの心の部屋に、来て……」 そうして抱き締めて。 この心を――オレ自身を抱き締めて。 直に君を、感じてみたい……。 襲いくる絶頂に城之内の背中に爪を立てながら、裏遊戯は叶わない願いに心を痛めて泣いた。 ☆ ☆ ☆ 「君は魂の存在を信じるか?」 「……魂ねぇ……」 オカルトな話かと茶化そうとした城之内だが、不安そうに見上げる裏遊戯に気づいて真面目に考え込んだ。 「見たことないからわかんねぇけど、存在しても不思議じゃないよな」 「そう思うか?」 「お前はどう思うんだ? お前の言うことなら、俺は信じるぜ」 「城之内くん……」 どうして城之内は、いつもほしい言葉をくれるんだろう? 嬉しくて、泣きそうになる……。 「古代エジプトでは、魂こそが真の人生なんだ」 「真の人生?」 「ああ。今のこの世は、その真の人生が始まるまでの仮の人生なんだ。転生って言葉があるだろう?」 「生まれ変わるってやつだよな」 「古代エジプトでは、逆になる。転生して今を生きているんじゃなくて、これから死んだ後に、転生するんだ。真の人生は、仮の人生で辛い思いをすればするほど、幸せなものになるらしい。だから、ピラミッド建築とか苛酷な労働を強いられても、皆喜んで受け入れる」 「魂の存在を信じてるってことか」 「そうだな。でも、幸せな真の人生は、永くは続かない。その幸せを味わう権利を得るために、魂はまた仮の人生を生きる。それが、世界の理」 納得したようなしていないような顔をしている城之内の腕にしがみつく。 そうしないと、これからする話が今すぐ現実のものになってしまいそうな気がした。 「……オレは……千年パズルの中に封印された…魂、なんだ……」 「? それがどうした?」 きょとんと問いかけた城之内に、裏遊戯は苦笑する。 なんのために古代エジプトの話をしたんだか……。 「いずれ、オレの魂は、消える」 「なっ!?」 城之内が飛び起きたために、絡めていた腕が離れた。 どくん 恐怖に魂が震える。 裏遊戯も慌てて起き上がると、すがるように城之内にしがみついた。 「城之内くん、離さないでくれ!」 「え……」 「君に離されると……オレは消えてしまいそうな気がする」 「裏遊戯……」 「オレの存在は、幻だから――」 「言うなっ!!」 それ以上言わせないように、強く抱き締める。 息ができないくらい城之内に包まれて、裏遊戯は目眩のような幸せを感じた。 「オレはきっと、仮の人生で頑張ったんだな」 「なんだよ?」 「だから、今こんなに幸せなんだ……」 「…………」 「だから、怖い。今が終わってしまうのが。君に…愛されなくなるのが……」 自分だけの身体がほしい。 直接、君を感じれる身体が。 でも、それを得る代わりに、君の愛を失ってしまうかもしれない……。 だったら、身体なんかいらない。 そうしてずっと幻のまま、誰とも触れることなく――? (やっぱりイヤだ!) 身体がほしい。 城之内に触れることのできる身体が。 彼が辛い時、抱きしめることのできる身体が。 でも……。 「今のオレじゃないオレを、君は愛さないかもしれない……」 「なに…言ってんだよ」 「城之内くん?」 どこか怒ったような声音の城之内を、おずおずと見上げる。 「バカなこと言うな。俺は、今のお前とか生まれ変わったお前とか区別しないぜ?」 「城之内くん……」 「そんなの関係ない。俺は今こうやってお前の魂に恋してんだからさ? それこそ本気の証じゃねぇ? 遊戯の背後霊みたいなオバケを愛しちゃってるなんて、狂ってるんだよ、俺は」 「……背後霊はひどいな……」 「くくくっ。とにかく、狂った人間をあんまりナメるなよ。俺はお前の魂を追って、どこまでだって行くさ」 「本当か?」 「信じなさい。神サマなんかに祈る前に、俺に言えばいいんだよ。願い事1個だけ叶えてやるぜ?」 「本当に?」 「本当。ほら、願い事は?」 「オレの全てが変わっても――オレを愛してくれ」 「ああ、いいぜ」 「約束だ」 「ああ」 「…………」 もう何も言えなくて、裏遊戯は想いを伝えるために、城之内に口づけた。 閉じた目から、涙が溢れる。 その涙を城之内の唇がすくい取り、裏遊戯はくすぐったさに身を捩った。 再び押し倒されて、身体を合わせられる。 今度は、あの哀しみの針は心を突かない。 「あの時に君に出逢えて、良かった」 乱れる息の合間に囁く。 胸に唇を這わせていた城之内が、顔を上げた。 「ヘンな言い方するんだな。普通は『君に出逢えて良かった』だろ?」 「ただ出逢うだけじゃ、きっとダメだ……君が、辛い過去を乗り越えていたから……」 「えっ?」 「……っ!」 聞き返すが、裏遊戯はもう快楽に身を委ねていて、答えられる状態ではなかった。 城之内も、今はただ目の前の恋人に集中する。 (たとえば、もっと昔に出逢っていたら……) こうして、愛し合っていたのだろうか? 君が辛い時に、抱き締めてやることもできないオレを。 君が泣いてる時に、その涙をぬぐってやることもできないオレを。 一緒に泣いてやることさえできないこのオレを……君は愛してくれたか? 自信がないから、だから――。 (あの時に君に出逢えて、良かった) それは運命のようだ。 こんな魂だけのオレを愛してくれるなんて。 それは奇跡だ。 幻のオレを、愛してくれるなんて。 意識を手放す最後の瞬間、裏遊戯が言った。 「ありがとう……相棒がオレに気づいて……君がオレを見つけてくれた」 君がオレを求めてくれるから……だから、オレは本物になる。 幻から、現実になれる。 魂よ 想いを乗せて飛ぶ箱舟よ 誰も知らない 幻は何処 魂の行方 それは 幸せへの道しるべ 「たとえば、オレの全てが違うとしても……それでも、愛してくれるか? たったひとつ変わらない、魂だけを想って――」 「ああ、いいぜ」 「約束だぞ」 「ああ」 それだけが、約束。 それこそが、たったひとつの願い。 〜おしまい〜 |
☆あとがき☆ |
…………くっら〜(爆笑)。 実は私、暗い話を書くのが得意だったりします。 前の話ではえらくギャグってましたけども(笑)。 でもホント暗いな(汗)。 私が思う裏くんは、幻ですね。 存在してるのかしてないのかわからない。 ある日ふっと消えちゃっても不思議じゃない。 それはすごい恐怖ですよね。 だから、裏くんは自分が確かに存在していると感じさせてくれる城之内に頼るのです。 必死にしがみついて、離されないようにね。 裏くんにとって、城之内ってのは自己を確立させてくれる存在だと思うんですよ。 自分だけを愛してくれる人がいなかったら、自分がいる意味ないでしょ? ってMY哲学すぎてわからんな(笑)。 とにかぁく、裏くんは克っちゃん大好きなのだ!! ドリームだけど、いいのだ!!(爆笑) ああでも、最後の詩は入れない方が良かったかな。 実は他の小説で使ってるやつで、たんに気に入ったから引用してるだけだったり(汗)。 意味不明になっちゃったよねー……ま、いいか(笑)。 古代エジプトの死生観はホントです。 死後の世界こそが、真の人生だったんだって。 でも、転生とかはめちゃ仏教なので、あまり深くツッコミを入れないよーにっ(信じちゃダメです(笑))。 それにしても、この2人何回ヤってるんだろね〜(大爆笑)。 ん〜……3回か(数えんなーっ(爆笑)) |
☆あとがき☆
みよ様。またまた、ありがとうございました!
今回のは、ちょこっとえっちいので、こちらに掲載と言う
ことになりました。(笑)露骨な描写はないので、表でも良いかな
と思ったんですけど、でも、最後まで行ってるし。ということで(笑)
快く、ご承諾くださってありがとございます!
少し、儚くて切ない裏くんの存在。
彼を繋ぎとめてるのは、城之内の存在で。
だからこそ、しっかりと抱き締めて欲しいなんて、もうもう、可愛すぎ!
次の作品も、期待して待ってます〜!!