白と黒の宴(エピローグ) 1
(1)
眠らない街、東京とは言う。だが夜行性の昆虫達のような毒々しい色や光に囲われた
繁華街や
幹線道路から外れてしまえばそんなに遅い時間でなくとも人陰はまばらになる。
オフィスビルの狭間の小さな公園の近くの路肩に車を停め、エンジンを切った。
煙草に火を点ける一瞬だけフロントガラスに自分の顔が浮かび上がる。
哀れな男の顔だ。
ふと視線の端で何かが動く気配があった。
煙草を銜えて首を捻って薄暗い公園の奥の方を見る。
足を引きずった年老いた浮浪者がゴミ箱を探っている。
一つ一つ紙袋や箱の中を覗き込み、丁寧にそれらを折り畳みながらゴミ箱に戻している。
不景気になって彼等の縄張り争いも深刻なものだろう。
めぼしい物が多い場所は他のまだ若くて腕力のある、あるいは先住の仲間に占められ、
それでも僅かなパンの欠片や弁当の残りを求めてゴミ箱からゴミ箱へと移動している。
視線を前に戻す。煙草を銜えた口元が自嘲気味に歪む。
自分も同じなのだろうか。抜け殻のような体をどんなに与えられても餓えは癒せない。
それが分かっていても止められない。得られないからこそ余計に手荒くなる。
彼が愛情の代りに差し出す痛々しい悲鳴や嗚咽を貪る。
その隙間に時折現れる甘い吐息と脈動は麻薬のように一度味わったら忘れられない。
車が走り去る音に浮浪者は顔を上げた。
公園の道路沿いの自動販売機横のベンチの上に寿司折りが二つと
封のあいていない缶ビールが置かれていた。
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