お名前はなんですか? 1
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「ええっ!」
アキラくんは驚いて、ただでさえ大きな目をまんまるくしました。
「おがたくんは、とうやおがたくんじゃないの〜?」
緒方さんは笑ってアキラくんを抱き上げます。
「チガウよ。アキラくんの名前は塔矢アキラくんだろ? オレは緒方精次くんだよ」
「おがたせいじくん…」
「そうそう」
アキラくんは細い首を傾げて悩んでいます。
「おがたせいじくんねえ……」
言いにくいのか、アキラくんは何度も緒方さんの名前を復唱しました。
もうすぐアキラくんは幼稚園に行くことになります。
囲碁の力は信じられないほどの速さでつけているアキラくんですが、それ以外
においてはアキラくんはまだまだ幼く、他の子供たちよりもトロい印象がありました。
こんな調子で幼稚園に通い出して大丈夫なのかと、本気で大人たちは心配して
いるのです。
「アキラくん、おとうさんのお名前はなんですか?」
緒方さんがアキラくんをそうっと床に下ろすと、緒方さんはアキラくんの髪を
ナデナデして訊ねました。アキラくんは先日髪をカットしたばかりなので、実に
素晴らしい指どおりです。アキラくんと一緒のティモテを使ったとしても、
緒方さんには決して得られない感触なのです。
「とうやおとうさんでーす」
アキラくんは胸を張って答えましたが、緒方さんはガックリと項垂れてしまいました。
――ああ、この子は、どうして。
「全っ然、チガウよ…」
その夜から、緒方さんの特訓が始まりました。
※お名前はなんですか?は少年漫画板のアキラスレ[番外編の間は『アキラの碁』と呼びたい人の数]からの転載です。
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