水底よりも深く 1
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「ヒカルぅ、ねえ、ヒカルってば!!」
幼馴染の甲高い声に呼ばれて思考の奥底から呼び戻され、目の前を流れる
景色を認識する。
そうだ、ここは新幹線の中だった。俺は今、修学旅行の目的地・京都へと
向かっている途中だったんだ。
「何だよ、あかりぃ?」
「もう、ヒカルったらさっきからずっと呼んでんのに返事しないんだからぁ!」
あかりはトランプを手にして、「ヒカルもあっちで遊ぼうよ」と、誘いを
かけてくる。
「いい、俺、一人のほうが良いから」
素気無く断るとあかりはがっかりしたように去ってしまった。
そうして俺はさっきまで眺めていた窓へと視線を向けて、再び思考の
海へともぐりこむ。
あいつが心配してくれてんのは分かってる。でも俺は……。
これからの事を思うと、とても皆と騒げる気分じゃないんだ。
京都―――千年前、佐為がいたまち、そして……追われたまち。
(佐為はここに未練を残していたはずだ。)
虎次郎の故郷にも居なかった。東京の墓にだって、棋院だって捜した。
でもどこにも居ない……。
(もう、ここしかない。)
定番過ぎる京都への修学旅行。でもこれ以上、今、求めていたものはない。
ヒカルは藁をもすがる想いで、京都行きに最後の望みをかけた。
ヒカルには、これ以上佐為の手がかりを探る術がなかったのだ。
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