佐為の夢 1


(1)
ああそうだヒカル
ヒカル
ねェヒカル
あれ?
私の声届いてる?
ヒカル
楽しか−−−

「…っ」
うっすらと瞼に差し込んできた光が眩しくて、無意識に眉をしかめる。

光…

「光…光ですって?こ・こは…!?」
刹那にして目が覚めて、驚きのあまり上体を起こそうとしたのだが、己の
躯のはずなのにそうではないような。まるで力が入らずにただ頭を挙げる
のみが精一杯であった。長い間躯の動かし方を忘れてしまったようだ。

「くッ」
玉のような汗が一筋、こめかみから流れ落ち蒲団に染み込んだ
「はっ!さ、佐為の君!佐為の君がっ!誰かっ!」
傍らに座していた男が恐ろしいものを見たように声を裏返して叫び、ふらつく
足でそばの蔀を倒しつつ視界から消えていった
佐為の…君。なんと懐かしい響きか。しかし、これは一体…

叫び声を聞き付けて来た男に支えられ、汗でしっとりした躯を辛うじて起
こした。髪の毛が頬や首筋に張り付き気持ちが悪い。
薬師が飛び込んできてしきりと私の身体を触り、具合を見てる間に、ドタドタ
と見覚えのある顔が飛び込んできた
「佐為ぃっ!」
「天童丸殿ッ!!」
記憶の中と寸分変わらない顔の天童丸殿がわんわんと泣きながら私の胸に飛び込んできた。
しがみ付くその手に触れ、感じる体の温かさにいまさらながらに驚嘆した。

すると……ここは平安の世……

長い長い夢を見終わったような爽やかさはソコにはなく、苦い想いと悲しみ
と喜びが入り混ざって、すぐには理解する事ができずにいた。



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