第162局補完 1
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本因坊リーグ6戦目。
厳しい対局だった。ギリギリの線を綱渡りするような緊張をずっと強いられて、終わってみれば
負けた碁だった。
これでリーグ落ちが確定だ。
悔しかった。驕ったつもりはなかったが、それでもまだ力は足りなかった。
まる一日、食事もとらずに碁盤に向かっていた肉体の疲労も大きかったが、なにより精神が
疲弊していた。
持てる力を使い切って消耗したようなその姿に、ヒカルは声をかけるのが少しためらわれたが、
やっと腰をあげて立ち上がりかけたアキラに、それでも声をかけてみた。
「塔矢、」
呼ばれてこちらを見たアキラは、驚いたように目を見開いた。
一瞬、喜色が走ったように思えた顔は、次の瞬間にはきゅっと厳しく引き締まった。
「なんだ。」
「……残念だったな。」
ヒカルの言葉にアキラは僅かに目を見開いてヒカルを見る。
だが言葉を返さずに顔を背け、そのままヒカルの横をすり抜けて対局室を出ようとした。
ヒカルも追って対局室を出て、アキラの背中に呼びかけた。
「塔矢、」
「何しに来た?」
「何しにって、おまえの対局見に、に決まってるじゃん。」
「4月になるまでボクとは会わないんじゃなかったのか。」
顔も見ずに冷たく言い放たれて、思わずヒカルは足を止めて口篭る。
「…あれは……、あれはあそこには行かないってだけで…」
足を止めてしまうとすぐに置いていかれるので、慌てて追いながら、呼び止めようと声を高くする。
「塔矢!何、怒ってんだよ、オレ、折角来たのに!」
「別にキミに来て欲しいなんて誰も言ってない。」
それでも足を止めないまま、アキラは振り返って厳しく言い捨てた。
思わずヒカルが腕を掴んで引き止める。
「!なんだよ!ひでぇじゃんか、そんな言い方!!」
「ひどい!?どっちが!!」
ヒカルの手を振り払いながら、アキラは思わず声を荒げた。
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