検討編 1
(1)
早碁ペースだったせいで勝負がついたのは早かったのに、検討に夢中になっていたらしく、
気付いたら二人の他には誰もいなくなっていた。
もうこんな時間なのか、と思うと同時にアキラは空腹を感じた。昼を食べていないから当たり前だ。
どうしようか、と思ったのと、「塔矢、オレ、腹減った。」とヒカルが口を開いたのとほぼ同時だった。
まだ何となく検討し足りない気持ちはあったのだけれど、とりあえず空腹を満たそうと、棋院を出た。
進藤の食べっぷりは見ていて気持ちがいいほどだ、とアキラは思う。
成る程、母が「アキラさんは小食だから」とこぼすのがやっとわかったような気がする。
これが普通だとするなら、確かにボクは小食だ。
大体、ボクの方が一食抜いてるはずなのに、今だって進藤のほうが沢山食べてると言うのはどういう
事だろう。しかも、進藤と来たら、自分の分をさっさと食べてしまって、ボクの皿をもの欲しそうな目で
見ている。
「塔矢のそれ、美味そうだなあ。」
そら、やっぱりだ。
そんな目で見たって知るものか、と、アキラは自分のペースでゆっくりと食べる。
ようやく食べ終えて食後のコーヒーを飲み干すと、見計らったようにヒカルが聞いてきた。
「どうする?」
これから、もう帰るか、それともまだ検討を続けるか。
「まだ、もう少し…」
対局中からずっと、妙な高揚感のようなものが続いていて、対局を終えても、あれだけ検討しても、
まだその熱は冷め遣らない。
このまま帰ってしまうのがどうしても惜しいような気がして、アキラは言った。
「まだもう少し検討したいし…碁会所に行かないか?」
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