黒い扉 1
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そこは会員制の高級秘密クラブである。
芹澤から誘いを受けて今度の金曜にそこへ行くことになったとアキラが告げた時、
緒方は明らかに動揺した顔をした。
「あ、アキラ君が?あの店へ?」
「はい。高段のプロの方々がたくさんいらっしゃるお店だって言うから、
勉強になりそうだと思って。それに緒方さんもそこの会員なんですよね?
芹澤先生がおっしゃってました」
検討後の渋茶をほっこりと啜りながら、アキラが微笑んだ。
「そ、それはそうだが・・・しかし、キミみたいな子があんな店に行っても
面白くないと思うぜ。時間が空いているなら、遊ぶより碁の勉強をしたほうがいい。
何ならオレが対局でも検討でも、付き合ってやるから」
緒方が年上の威厳を見せてそう提案すると、アキラは微笑みを絶やさないまま言った。
「ボクに、来られたくないわけでもあるんですか?」
「えっ」
「緒方さんはそこの常連で、毎週のように通いつめてるって芹澤先生が。
よっぽど面白いお店なのか、・・・それともお店の人の中にお気に入りの女性でも
いらっしゃるんでしょうか?」
「じょ、女性!?・・・そうじゃない。そういうことじゃないんだ、アキラ君。
・・・ただあの店は・・・」
「何もやましいことが無いなら、ボクが行ってもいいはずですよね?」
そう言って緒方を見つめるアキラの目には、探るようで縋るような光がある。
緒方に対する不信と信じたい気持ちとが、アキラの中で半々に揺れているのだろう。
緒方は降参の溜め息をついた。
「・・・後悔しても知らんぞ」
「自分で決めたことなんですから、後悔なんかしません。
それに本当を言うとボク、緒方さんのことがもっともっと知りたいだけなのかもしれない。
緒方さんのことならたとえ自分が望まないことでも、全部知っておきたいんです」
視線と視線が触れた。
盤を挟んで、ゆっくりと唇が合わさった。
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