無題・番外 1


(1)
「久しぶりに飲みに行きませんか?」
と先に声をかけたのは芦原の方だった。
帰っても誰が待っているわけでもない。こんな鬱々とした気分を少しでも晴らしてくれるものが
あるとしたらアルコールくらいなのかもしれない。そう思って、緒方は芦原の誘いに応じた。
だが、早々に、緒方のグラスを開けるペースに、芦原が口を挟んだ。
「ちょっとちょっと、緒方さん、ピッチ早すぎませんか…?」
「うるさい、人の事に口出しするな。おまえは黙って自分のペースで飲んでればいいだろ。」
「人が心配して言ってあげてるのに…。
でも、緒方さん、ちょっとやつれたみたいだし、何かったんですか?ちょっと心配してたんですよ。
まさか失恋したとか…?アハハ、そんなはず無いですよね。」
そう笑いながら緒方の方を見て、芦原はギクリとして笑いを止めた。
「まさか…マジなんですか?」
「なんだ?芦原。オレが失恋してたら可笑しいのか?」
険のある目つきで芦原を睨んで緒方が言った。
「ウソでしょう…?緒方さんが…?」
芦原は目を丸くして大いに驚いた。
緒方にはその驚き振りが気に障ったのだが、芦原はそれには気付かずにこう続けた。
「わかりましたよ、失恋にはヤケ酒が一番。今日は幾らでもお付き合いしますよ。」
「ほう…?幾らでも?貴様が慰めてくれるとでも言うのか?」
しょうがないなあ、という目で芦原は緒方に笑いかけて言った。
「ええ、オレでよかったら。失恋だったらオレの方が先輩ですからね。
ハハハ、こんなの自慢になりませんけど。」
そう言って、芦原はカチッと音を立てて、自分のグラスを緒方のグラスにあわせた。
こいつ、人の言っている意味がわかってないな、と緒方は苦笑した。
まあ、そこらへんの天然さが芦原の良い所ではあるのだけれど。



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