昼食編 1


(1)
エレベーターの中でキスしたのはちょっとしたイタズラ心もあった。
塔矢が言ってくれた事が嬉しくて、こんな風に軽口を叩けるのが嬉しくて、でもそれ以上追求される
のも困って、半分照れ隠しのように、勢いで唇を塞いだ。
きっかけはそんなだったのに、触れてしまったら離せなくなった。
一瞬、何が起きたのかわからないって感じで目を丸くさせてる塔矢が、急にカワイイと思った。
さっきまで目を吊り上げて歯をむき出しにして「話せ!」なんて言ってたのが、急に怯えたみたいな
目をして、弱々しく「やめろ…」なんて言うのを耳にしたら、もう絶対に放したくない、そう思った。
だからふざけてるようなフリをして強引に手を掴んで引っ張って行った。
昼ご飯を食べながら、向かいに座っている塔矢が静かにコーヒーを飲んでるのをチラッと見たら、
カップにつけられた紅い唇に目が行ってしまって、ドキッとした。
なんか、こう、普通にコーヒー飲んでるだけなのに、なんか、様になってるって言うか、絵になるって
言うか、コイツって、なんか、すげーキレイだ。
「進藤?」
「え?」
「食べないのか?」
気付いたら手が止まってしまっていたらしい。
慌てて残りをかきこみながら、それでも、チラチラと塔矢を盗み見た。
優雅にカップと皿を持つ白く長い指。
すっと伸びた背筋。
俯いた時にサラリと零れる黒髪。
そして、あの、唇。



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