四十八手夜話 1


(1)
「あ〜〜〜っとさ、おまえ、誕生日のプレゼントって何欲しい?」
進藤ヒカルが、塔矢アキラを棋院の自動販売機の影に引っ張り込んで
訊ねたのは、そんな事だった。
そう言えば、もうすぐ誕生日だったのかと思いながら、塔矢アキラは
黙り込んでしまった。誕生日の存在さえ忘れていたのだ。プレゼントなどと
突然言われてもピンとこない。
ヒカルにすれば、これはもう一ヶ月も前からの関心事だった。ヒカルは
こういった日常生活の行事とかイベントごとが大好きな人間なのだ。しかも、
一応同性同士でセックスをするなどという異常な所まで深まってしまった間柄の
相手だ。これはぜひとも当日は何か相手が驚くようなもの、いつも張りつめた
顔ばかりしている塔矢アキラが思わず相好をくずすようなものをプレゼント
したかったのだ。
が、しかし、思いつかなかった。ここ一年ほどで一気にヒカルとアキラの距離は
急接近したとはいえ、そこに辿り付くまでの二人の人生が遠すぎて、何をしたら
喜ぶのか見当もつかない。
これが、和谷とか伊角さんだったら、ちょっとした安物のジョークグッズでもかたが
つくんだけど、と思いながらヒカルはアキラの顔を見る。
アキラが一番嬉しいこと……誕生日の日は一晩中、一緒に碁でも打とうと言うんじゃ
ないだろうか?
それだと、一番楽で金もかかんないし、それにヒカル自身も楽しくていい。
そうだ、来年の自分の誕生日にはぜひとも、アキラを自分の家に引っ張りこんで
一晩中、碁を打とう。とか考えながら、ヒカルがアキラの答えを待っていると、
アキラの瞳がキラリと光った。何か考えついたらしい。
「まず、僕と一緒に食事をしないか?」
「……いいけど」
ずいぶん、お堅いというか、定番できたなーと思いながら、ヒカルはアキラの
言葉を待つ。「まず」と言うからには続きがあるに違いない。
「それから、ホテルに行こう。新宿のセンチュリーハイアットでいいだろうか?
 父が小田急の株を持っていてね。あそこの割引券が手に入るんだ。そこで
 四十八手を試してみよう」
ヒカルの肩に掛けられたリュックがずり落ちそうになった。



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