性の目覚め・12才ヒカル 1
(1)
「なーヒカル、お前オナニーって知ってっか?」
帰りの会も終わり、さあ帰ろうか、と上着に袖を通しているところ。
クラスメイトに突然訊かれた。
「え、何だって?」
「だから、オナニーだってば。知ってる?」
聞き慣れない言葉にそう返答するが、相手は同じことを繰り返すばかり。
いつも仲の良いクラスメイト…というより悪友だが、今の彼は心なしか
ニヤニヤと不穏な笑みを浮かべているような気もする。
埒が明かないと思ったヒカルは、自分の背後にいる幽霊に声をかけてみる。
――佐為、知ってる?
最初にとり憑かれた時は混乱したが、2ヶ月ほど経った今ではこの状態にも
馴染んできていた。
囲碁への強い思いの為に、この世に蘇った最強棋士。流石に長い年月を過ご
してきただけあって、彼の知識の多さはヒカルもよく知るところである。
しかし。
――おなにぃ?分かりませんねぇ…。
佐為も知らないのでは話にならない。ヒカルは斜め後ろに向いていた視線を
正面の友人に戻し、もう一度訊き直した。
「知らねぇ。…で、何なのそれ?」
「へえぇ。知らねぇんだ。ふーん…」
何かを企んでいる風の友人の真意が掴み取れない。自分がもの知らずだとい
うことは分かっていたが、何となく…これはいやな予感がする。
「何だよ、気持ち悪いな」
中途半端に袖を通したままだった上着をきちんと着て、ランドセルを背負い、
さも何でもない様子を装いながらちらりと様子を伺う。
この悪友は何かにつけて、良いことについても悪いことについても、知識の
乏しいヒカルをからかうような向きがあるのだ。
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