悪代官−真夏の企み 1
(1)
「進藤、いい加減に機嫌直してよ」
「………」
ボクと進藤は今、八王子の夏祭りに来ている。
地元だといつ何処で棋院の者に鉢合わせするか分からなかったし、増してや和谷などの進藤の友達に会ってしまっては、
一緒に回るとか言って邪魔をされかねないからだ。
せっかくのこんな可愛い進藤は、他の誰にも見せたくない。だって進藤は今…。
「進藤、悪かったよ。ごめん」
「……」
ぷうっと頬を膨らまし、ボクを大きなクリクリとした瞳で睨む。はっきり言って全然怖くない…と言うか、寧ろ可愛い。
進藤は今、赤い生地にピンクや紫などのハイビスカスの花がプリントされた、それはもう可愛らしい浴衣を着ている。
…正確には、着せられている、だが。
事の始まりは一昨日の大手合の日。対局をお互いに終え、碁会所に向かおうと歩いていたら。
「なあなあ塔矢ぁ、夏祭り行かねえ?明後日に八王子ででっけえお祭りがあるんだってさ!」
「え?お祭り?」
「うん!へへっ俺さ、屋台の食べ物大好きでさー!花火もあるみたいだし…ダメ?」
ダメな訳が無い。進藤の甘えたようなこの声!!口元!!仕種!!
全てがボクを刺激するんだ…。本当はお祭りとか、そういう人込みは好きではないが、進藤が望むなら何処へだって…そう、アフリカの奥地や南極にだって行ける気がする。
ボクはニッコリ笑いかけ、進藤の頭を撫でながら返事した。
「うん、いいよ。」
「えっホント!?やったあ!よし、ヤキソバだろー?タコ焼きだろー?
焼鳥にとうもろこしに、あっ綿アメ!あとりんご飴にじゃがバターに!」
おいおい、そんなに食べるつもりか?進藤…。
まあいいけど、くれぐれも太らないでね。ボクは横綱のキミだけは見たくないから…。
「さっ、早く行こうぜ塔矢!」
進藤が明るく笑い、ボクの手を引っ張って歩き出した。
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