heat capacity 1


(1)
すれ違ったその時、手が触れた。
そして視線だけを後に残すようにちらりとこちらを一瞥して、彼は足早に対局室を出て行く。
僕は彼の視線に射抜かれたように暫く動けずにいたが、手にうっすら浮かぶ汗を握ると彼を追った。
『ついて来い』と、彼の目が言っていたからだ。
逸る鼓動が耳に煩い。
彼の蠱惑的で、且つ煽情的なその目が脳裏から離れなかった。

角を曲がると、彼は廊下に背をもたれ掛けながら座り込んでいた。
彼の身体は微弱ながらも確かに震えていて、その震えを抑えるように両腕を強く抱いていた。
「進藤、気分でも────」
悪いのか、と聞こうとしたものの、それは意味の有る音にならなかった。
急に立ち上がった彼は、僕のシャツを握って引き寄せると何も言わず唇を重ね合わせてきた。言葉は彼に飲み込まれ、代わりに熱く湿った感触が口の中を支配する。
立ち上がった一瞬少しだけ合った彼の目は、薄く涙が滲んでいるように潤んでいた。
自分の良く知っているその目。それは、彼が快楽に身を委ねきっている時に見せる目だ。
進藤は何かに憑かれたかのように、僕の背中に腕を回し、唇を欲望のままに貪っていた。
何度も啄んでは、舌と歯で唇をはむ。
受けるだけの行為は自分の主義に反する。
僕は侵入してきた進藤の舌を絡めとると一度強く吸った。
「……んッ…ぅ」
彼の身体が一瞬ひくりと戦慄いて、背筋を反らせる。
怯みかけた舌を渡って、自分から彼の口腔に侵入する。
今度はハッキリと彼が身を退くのが分かった。だが、今更そんな事は許さない。
僕は彼の首筋に手を這わせて、そのまま後頭部に添えた。添えたとは言っても逃げる事を許さない力を持っているそれは、押さえ付けていると言った方が正解かも知れない。
進藤が緩く首を振って弱い抵抗を示したが、僕は構わず彼の口腔を思う様に蹂躙した。
唾液と唾液を絡めて、自分でもどうなっているのか解らないような舌の動きに、一瞬溶け合っているような愉悦が身体中に満ちてくる。
思考まで融けたかのように、虚ろな目で、それでも必死でしがみついてくる進藤が、可愛くて愛しい。僕は、自分の中の獣が更に猛々しくなるのを感じた。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル