平安幻想秘聞録・第一章 1
(1)
「君が、千年も後に生まれた人?」
唖然としたように呟く明にヒカルは頷いてみせる。
「そう。オレだってすぐには信じられないけどさ、そうとしか考えられ
ないんだよ」
「本当に光じゃないですか?」
「うん、ごめん。佐為、オレはお前の知ってる近衛光じゃないんだよ」
「だが、君はまるで佐為殿や僕を知ってるような口ぶりだったじゃない
か。まさか千年後に僕たちがいるわけじゃないだろ?」
「いるっていうのか何ていうのか、話せば長くなるんだけどさ・・・」
途中突っかかり脱線しながらも、ヒカルは何とか碁盤に宿った佐為に
出逢って囲碁を始めたことや、塔矢アキラとの初めての対局からその後
アキラを追ってプロになったことまでを二人に話した。
「『ぷろ』っていうのは?」
「碁の棋士を仕事にしてるってことだよ。それでご飯を食べてるんだ」
「では光は私と同じですね。私も碁を打つことで、この身を立てていま
すから」
「佐為は帝の囲碁指南役だろ?オレとはちょっと格がちがっ・・・」
そこまで言って、ヒカルは重大なことに気がついた。佐為はもう一人
の囲碁指南役、名前は何というのかは忘れたが、その男との御前勝負で
神聖なる場を汚した責を問われて入水したはずだ。
「佐為!」
「はい、何ですか?」
「帝の前で、もう一人の指南役のヤツとは勝負したのか?」
「もう一人の指南役とは、菅原顕忠殿のことですか?えぇ、しましたよ」
「やったのか!?」
それなのに、佐為が今こうしているということは・・・。
「勝ったんだ?そいつに」
「えぇ、もちろん」
優雅に微笑む佐為に、ヒカルはほっと胸を撫で下ろした。
「先程の光の話では、私が顕忠殿に負けて、都を追われたことになって
いましたね」
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