sai包囲網 1
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「知ってるんだなsaiを!知ってるんならオレにも打たせろっ」
ほんの少し動けば触れるばかりの間近で、そう緒方に言われたとき、
進藤ヒカルは心臓が縮み上がるのではないかと思った。それくらいまず
い事態に追い込まれていた。
それでも、何とか言葉を探し、緒方の追求をかわそうとする。
「し・・・知らないっ。知りません!オレはただsaiと塔矢先生との
ネット碁を、た、たまたま見ていただけで・・・」
胸倉を掴んでいた緒方を手を振り払い、先程の追いかけっこで上
がった息を整えようとしたとき、ふいに傍らのエレベーターが開いて、
見知った相手が姿を見せた。
「進藤」
「塔矢」
次から次へと〜〜〜っ。今、一番現れて欲しくなかった塔矢アキラの
訝しげな視線に内心焦りながらも、目の前に立ち塞がったままの緒方が
そちらに気を取られた隙をすり抜け、開いたままのエレベーターに飛び
込む。振り返ったヒカルが降のボタンに目を止めるより早く、横から伸
びた指先がそれを押した。ヒカルがそうであるように、短く切り揃えら
れた爪の擦り減った、それでも白くて綺麗な指。ヒカルは半ば唖然とし
て、その手の持ち主を呼ぶ。
「塔矢・・・」
「下で、良かったよね?」
「あっ、ああ」
それだけ答えるのが精一杯だ。自分が乗り込むのがぎりぎりのタイミ
ングだと思っていたのに、いつの間に・・・。せっかく緒方を振り切っ
ても、これでは余計に状況が悪くなったかも知れない。
重く、嫌な沈黙の中、ゆっくりとエレベーターが下降する。
「進藤」
「な、何?」
「僕は、ちらっとしか見てないけれど、緒方さんが何か君に詰め寄って
るように、見えたのだけれど・・・」
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