金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 1
(1)
世の中には似た人間が三人いると言われているが――――
アキラは駅のプラットホームである人物を見た瞬間、そこから視線が外せなくなってしまった。
その人はアキラの知人によく似ていた。いや、似ていたなんてものではなかった。繊細な
横顔。生き生きと生気に満ちあふれた瞳。小柄ながらも均整のとれた伸びやかな肢体。細い
首筋から華奢な肩へとつづく曲線が綺麗だった。
突然、“彼女”が、こちらを振り返る。誰か知り合いでも見つけたのか、ニコリと笑うと、
手を振りながら近づいてくる。少しずつ、朧気だった輪郭が鮮明に浮かび上がってくる。
――――――近くで見ると本当によく似ている。
アキラは“彼女”が自分の側を通り過ぎるその一瞬を待った。その時には、もっとよく顔を見ることが
出来るだろう。
「塔矢!さっきから呼んでるのに、なんで無視すんだよ!」
“彼女”は、自分の前に立ち止まるなり、アキラに抗議した。
そう言われても、まだ、アキラは自分に話しかけられているとは思っていなかった。
「なんだよ!?立ったまま寝てんのか?」
“彼女”が、アキラの目の前にヒラヒラと手をかざした。そうして漸く“彼女”が、自分に
対して話しかけているのだと理解した。
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