しじま 1
(1)
ボクはずっと眠れなかった。
静かな暗闇のなか、進藤の声だけが耳の奥でこだましていた。
――――おまえが好きだよ、塔矢。
そう、進藤は言った。
もっとその言葉を聞きたいと思った。だけど進藤は、神戸でのあの朝、熱を出したんだ。
原因はいろいろ思いあたりがありすぎた。
午前中もイベントはあったけど、結局ずっと進藤は寝ていた。
本当はそばにいたかった。でもボクは北斗杯の代表選手だから、そう言うわけにもいかず、
仕事のあいだじゅう気もそぞろだった。
戻ったボクを、進藤がうれしそうに迎えてくれたとき、不覚にも目がうるんでしまった。
それだけではない。帰りの新幹線で、進藤はボクの隣に座ったんだ。
熱を帯びた進藤の身体が寄りかかっているあいだ、ボクはとてもドキドキしていた。
こんなふうに幸せな思いで東京に帰れるとは、変わっていてほしいと願って、それがこんな
ふうに叶えられるとは、行きしなには思いもしなかった。
だけど、帰ってからが大変だった。
なかなか進藤の熱は下がらず、ちっとも会うことができなかった。
ボクは進藤の体調が心配だったけど、それよりも彼の気持ちが熱とともに冷めてしまったら
と思うと、不安で寝つけなかった。
だから今日、棋院で進藤を見つけて、彼がボクに走り寄ってくるのを、すっきりしない頭で
見ていたんだ。
進藤はボクを見て、すぐにその表情をくもらせた。ボクはそれにどきりとしてしまう。
「……なに?」
「おまえ、顔色がちょっと悪くないか? ちゃんと食ってる? 両親、今いないんだろ?」
その言葉にボクは安心した。もしも「ごめん。あのときのことは忘れてくれないか」なんて
言われてたら、ボクはきっとショックでこの場で卒倒していたかもしれない。
「平気だよ。それよりもきみのほうこそ大丈夫なのか?」
そう聞くと進藤はニカッて笑って、「ぜんぜん平気!」と言った。
たしかに目のまえの進藤からは病の“や”の字も思い浮かべられない。
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