深淵 1
(1)
「あ〜あ、遅くなっちまったな、急がねェと」
対局を終えたヒカルは一人帰路を急いでいた。陽はとうに暮れ、
あたりは闇に支配されている。月が雲に隠されているため月明かりも無い。
「あんまり遅くなるとまた怒られるからなぁ・・・近道するか」
ヒカルはいつも通っている道を外れて裏道に入っていった。両側にうっそうと
木が茂っているその道は先程歩いていたところより更に暗く、
人気も全く無いのでより一層不気味に感じられる。時折聞こえる虫の声だけが
静寂を破る唯一の音だった。
「なんか・・・気味ワリィな・・・」
闇に飲み込まれそうな感覚に陥り、ヒカルは立ち止まって小さく身震いする。
が、意を決したように再び歩き始めた。
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