番外編2 冷静と狂気の間 1
(1)
日本海に面した東北の温泉町を目指して、俊彦は夜行列車に乗っていた。
――青春18切符のある時期でよかった。そうじゃなきゃ、行きたくても
ちょっと難しかったな。
点々と灯るわずかな明かりが流れていくさまを見つめながら、俊彦は慌し
く過ぎたこの1日を思い返していた。
――きょうでもう1週間になる。
明日はあいつのところに訪ねていこうか。
1日、2日大学をサボルのは珍しいことではなかったが、さすがに1週間
となると長い。携帯でも連絡がつかない。課題の出ている授業もある。
心配していた俊彦の前に嘉威が現れた。
だが、久しぶりに見せたその姿は不安を増すものでしかなかった。
2限目にようやく登校してきた嘉威の目は虚ろで、欠席中のノートや課題
の話をしても、まともな返事が返ってこない。それどころか、好きなアニ
メや囲碁の話をしても一向にノッてこないのだ。
「どうしたんだ。」
肩をつかむとビクッと怯えた目で俊彦を見た。
講義が始まったが、耳に入っているのか。ノートもとらずボーッと黒板を
見ている嘉威を、俊彦は横目で睨んだ。
授業が終わると、何を聞いても「ああ」とか「いや」といった曖昧な返事
しかよこさないまま、嘉威は帰っていった。
――あいつに何があった。
迷った末に、やはり俊彦は嘉威の家を訪ねることにした。一番気の合う友
人は嘉威だった。
――苦しいことがあるなら、力になりたい。
俊彦はコンビニで発泡酒を買うと嘉威の家に向かった。
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