初めての体験+Aside 1
(1)
久方ぶりの東京だった。この一ヶ月間長かった。漸くヒカルに会える。約束の時間は
8時半だが、少々早く着きすぎた。自分ちょっとハリキリすぎかもしれん…と、思わないでも
なかったが、やっとヒカルに会えるのだからしょうがない。
「進藤に会ったら、最初になんて言おう。」
舞い上がって、また、とんでもないことを言ってしまわないように、少しシミュレーションを
しておくべきだと思った。
「久しぶりやな」とか、「元気やったか」とか在り来たりの挨拶しか思い浮かばない。
本音は「すごく逢いたかった」だが、これを言うのは照れくさい。散々悩んだが、気の利いた
言葉を思いつかなかった。ふと気がつくと時計は8時半を少しまわっていた。
「…!アカン!すぎとる!」
慌てて、約束の場所に急いで走った。
ああ、やっぱりもう来とる。遠目に見てもすぐにわかる。相変わらず、ヒカルはメチャクチャ
キュートだった。大きな荷物を手に持って、自分を捜しているのかきょろきょろと辺りを
見回している。
社は大きく深呼吸をした。走ってきたのを悟られないように息を調えた。落ち着いて声を
かけた。
「進藤。」
「社。」
ヒカルがあのお日様みたいな笑顔を自分に向けた。一瞬、言葉が出なかった。にやけてしまいそうな
自分の表情を無理やり消した。
「一ヶ月ぶりやな。」
結局、口から出たのは何の変哲もない極々フツーの言葉だった。
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