「甘い経験」のための予習 1 - 2


(1)
「それでさぁ、加賀、教えて欲しいんだけど。」
バリバリと煎餅を齧りながら、ヒカルがこんな風に問い掛けた。
「男同士ってどうやってやるの?」
塩煎餅を流し込むために焙じ茶を口に含んでいた加賀は、いきなりのヒカルの発言に本気
でむせて咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫…?」
気管に入りかけたお茶に激しく咳き込んでいた加賀は、涙の滲んだ顔を上げて、ヒカルを
思いっきり睨み付けた。
「いっきなり、なんて事言い出すんだ、この馬鹿野郎…!」
なんとか落ち着いた所へ、残っていたお茶一口飲んでから、加賀が言った。
「だいたい、なんでオレにそんな事を聞きに来るんだ!?」
「だって…加賀なら知ってそうだからさ。」
「オレをホモ扱いするつもりかよ、おまえは?」
「ち、違う、そうじゃなくて、加賀は物知りだからさ…」
ヒカルがあまりにも純真そうな顔で無邪気に見つめるので、加賀はついぽろっと言ってしまった。
「まあ、普通はアナルセックスだろうな。あとはフェラとか…」
「あなる…ってなんだ?」


(2)
加賀はがっくりと肩を落とした。
本当に直接言ってやんねぇと、わからねぇのか、このガキは。
だいたい、どうしてオレがこんな事を教えてやんなきゃならないんだ。
知りたきゃ塔矢アキラに教えてもらえ、と言ってやりたいくらいだ。
どうせ(以前の進藤の話から考えれば)、アイツはきっと経験者だ。ヤリ方くらい十二分に
知ってるだろうさ。一体どんな奴が「教えた」のかまでは知らねえけどさ。
…だが、進藤は知っている。それが誰なのか。知りたいような、知りたくないような
だいたい、このクソガキが塔矢アキラを抱くだって?図々しい。
こんなヤツにやるくらいだったらオレがいただきたいくらいだ。
「だいたいなあ、男同士はどうやって、って、じゃあ女とはどうするのか知ってるのかよ?」
「知ってるよ、そのくらい。」
保健体育の授業でやったもんな、と思いながらヒカルは得意げに言った。
「女のあそこに挿れるんだろ。」
「だから男相手だって変わんねぇよ。」
加賀はぶっきらぼうに言い放った。
「他の穴に挿れるだけだよ。」
「他の穴?」
「…ケツの穴だよ。」
「ケツ…?えーーーーっ!きったねーーーー!!」
「…うるせぇよ……進藤…」
「だってさ、そんなとこに挿れたら、ウンコついちまわねぇか?」
「汚ねぇのがやだってんなら、ゴム着けるとか、先に処理しとくとか、色々あるらしいけどな。」
先に処理ってなんだ?と言われないうちに―そんな事までは言いたくない、と言うより、さすがに
詳しいやり方は知らないので、加賀は続けた。
「ま、それにエイズとか病気の予防にもゴムはつけたほうが良いらしいぜ。避妊は必要なくてもな。」
「…大変なんだなあ…。」



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